#2228 『フレッド・ハーシュ&エスペランサ・スポルディング アライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』

閲覧回数 1,575 回

text by Keiichi Konishi 小西啓一

Free Flying  FFPC-002  ¥2,400+税(2023.1.04発売予定)

Fred Hersch (piano) フレッド・ハーシュ
Esperanza Spalding (vo) エスペランサ・スポルディング

1 But Not For Me (Gershwin/Gershwin) 9:32
2 Dream Of Monk (Hersch/Hersch) 7:36
3 Little Suede Shoes (Parker) 9:03
4 Girl Talk (Hefti/Troup) 12:03
5 Evidence (Monk) 6:35
6 Some Other Time (Cahn/Styne) 8:29
7 Loro (Gismonti) 9:37
8 A Wish (Winstone/Hersch) 4:35
total time 67:34

2018年10月19〜21日 NYヴィレッジ・ヴァンガード録音
Produced by Fred Hersch and esperanza spalding


現代屈指の抒情派にして内省派ピアニストのフレッド・ハーシュ。現在のシーンの最前線を疾駆し、ベースとボーカルの双方をものする最注目の人気者にして才媛のエスペレンサ・スポルディング。この2人がライブの場で出会う。こう聞いて期待感に溢れたファンも多いと思われるが、かく記すぼくもその一人。この2人の邂逅はハーシュのホーム・グラウンドとも言える、NYの名門クラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」(珠玉のトリオ作を残している)で実現したが、2018年10月19日~21日迄の3日間、共演した全6ステージでの数多くのナンバーから厳選された8曲が、今回ライブ・アルバムとして登場した。このアルバムはぼくだけでなく多くのファンの期待通り、いやそれ以上の素晴らしい成果を生み出しており、最近のボーカル関連作品としては、手触りこそかなり異なるが、グレッチェン・パーラトの逸品『フローラ』にも並ぶ、大いなる収穫…と言っても良いだろうと思う。

ところでこのライブでは、エスペランサはベースを持たずボーカリストに徹しているが、そこはクリエイティビティに富んだ両人だけに、ボーカリストとピアニストと言う単なる定番図式を超えたものがここにはある。それぞれが真摯に楽曲と向き合い、ジャズの伝統をしっかりと踏まえつつ、洒脱で軽やかに自在に絡み合う。インティメイトでありハート・ウォーミングでもあるその深い繋がりと想い、遊び心たっぷりで音楽する喜びにも溢れ、”インタープレイの活力“(ハーシュ)そのものを感じさせる様な、ここでの出色なデュオ。「ヴィレッジ・ヴァンガード」に集った熱心なジャズ・ファンも、この2人に優しく時に激しく揺さぶられ、その当意即妙な“対話術”に癒され、魅了され尽くす。

一寸ばかり異色とも思えるこの顔合わせは、2013 年の NY のクラブ「ジャズ・スタンダード」で始まった。その後しばらく置いた 18年5月に同クラブで再現され、この「ヴァンガード」での 10月のライブに至る…という経過の様で、2人は5年余りの間このコラボレーションの熟成・深化を図って来た。その成果となったここでの8曲は、冒頭の〈バット・ナット・フォー・ミー〉や〈サム・アザー・タイム〉といった有名スタンダード。チャーリー・パーカーの〈リトル・スエード・シューズ〉やモンクの〈エビデンス〉、ボビー・トループの〈ガール・トーク〉のジャズ・オリジナル3曲と、ハーシュが敬愛するモンクに捧げたモンク・マナーの〈ドリーム・オブ・モンク〉(詞もハーシュ自身)。更には南米の天空をエスペランサがスキャットで軽やかに飛翔する、鬼才ジスモンティの〈ロロ〉。爽やかなブラジル風味の味付けも嬉しいこのナンバーから、ラスト・ナンバーのハーシュの銘品〈ヴァレンタイン〉に、歌手のノーマ・ウインストンが詞を付け加え、新たな装いを纏った〈ウィッシュ〉へと導かれ、アルバムは印象深く閉じられる。

ここでのレパートリー選びや配曲手順も、実に柔軟で的確、完璧なものとも言えるし、数多くのナンバーからの選択とは思えない、あたかもワン・ステージをそのままパッケージした様な、スムーズな統一感にも驚かされる。ハーシュの“真剣に音楽に貢献する”(エスペランサ)その清々しい姿勢や、余裕もあり巧みさも感じさせる卓越なピアノ技。エスペランサの歌い手としての堂々とした佇まいと、そのボーカリーズの見事さ、新たな物語を紡ぎ出すその語り口の鮮やかさ。それ等が融合されたここでパフォーマンスは、味わい深く愉しさにも溢れ、寛ぎを伴いながらも充分に力強い。またお互いにインスパイア―し合うその様も、微笑ましくも印象深いもの。

なにか素敵な音楽を堪能させてもらった感じで、ジャズのミューズへ”謝・謝“の一言。

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。