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CD/DVD DisksNo. 298

#2234『Photay with Carlos Niño / An Offering & More Offerings Special Edition』
『フォテー w/カルロス・ニーニョ/アン・オファリング・アンド・モア・オファリングス・スペシャル・エディション』

text by Maki Nakano 仲野麻紀

International Anthem / rings RINC97(2CD)¥3000+税 (2022.12.14発売)

Photay with Carlos Niño (フォテー w/カルロス・ニーニョ)

Photay (Synth)
Mikaela Davis (Harp)
Randal Fisher (Tenor Saxophone)
Mia Doi Todd (Voice)
Carlos Niño (Percussion)
Natt Ranson  (Trombone)
Aaron Shaw (Tenor Saxophone)
Diego Gaeta (Keyboards)
Nate Mercereau (Guitar Synth)
Iasos  (Voice)

《An Offering》
1. PRELUDE
2. CURRENT
3. CHANGE
4. EXIST
5. PUPIL
6. MOSAIC
7. HONOR
8. OTBIT
9. EXISTENCE (feat.Iasos)

《More Offerings》
1. ECHOLOCATION(featuring Randal Fisher)
2. PUPIL (Photay’s Tributary Mix)
3. EXISTENCE (Photay’s Infinite Mix)
4. EXISTENCE(Photay’s Infinite Mix)(Club Diego Version)
5. FLOATING TRIO PART 3 (Photay Carlos Niño and Randal Fisher)
6. QUARTET IMPROVISATION 053021(Carlos Niño & Friends)
7. FEELING NOW
8. NOW FEELING
9. PHASES (Solstice Mix)

Produced, Arranged, Mixed and Released by Photay
Co-Produced by Carlos Niño
Mastered by Phil Moffa
Label: International Anthem / rings
Digital release date: October 14th, 2022
Physical retail street date: October 14th, 2022
Territories: Worldwide
国内盤解説:原 雅明


『An Offering』『More Offerings』 ー地上の生の光景*1ー

ひとつの祝福は複数形の贈り物となり、エレメントは「存在」に還元される。

水の音、胸騒ぎ、耳を覆う生命の音に加工音の混ざり、森のざわめきが反響の世界へ導く。
モジュラーシンセが戯れ、ランダル・フィッシャーのサックスの息遣いが、ミカエラ・デイヴィスのハープの律が、”わたしたち”を周縁から抱擁する。
『An Offering』3曲目 <Change>が反復性の妙へ誘い、水脈の音は次の次元の架け橋となる。

『An Offering』と『More Offerings』。国内盤として一枚に収められたアルバム。タイトルは単数形のOfferingそして複数に変容するOfferingsの語彙から成る。
意味は違うものの、このアルバムを聴きながら最初に浮かんだ言葉、それは「Gift -贈物-」。本のタイトルでいうならばマルセル・モースの「贈与論」。
しかしアカデミックな分析的書物から思考を展開するよりも、この場合の主体、Photay が紡ぐ水の音に象徴される如く、きっとこの世に存在する複数の命=生の音に、感覚を全開にして聴き入りたい。

Photayはニューヨーク州中部、アパラチア山脈北東に位置するキャッツキル山地で生まれ育ち、小学校から高校まで毎年2週間だけ開催される西アフリカのリズムを学ぶワークショップに参加していたという。そしてギニアへと渡る。Photayという名は現地の言葉で「白人」という意味だという。肌の色の差異が、あの地で自己が異人であるという認識への目覚めとなり、その瞬間の感覚はきっと彼自身にその名前をアーティスト名とさせたのだろう。諧謔性あるいは微笑ましいアイロニー。もちろん矛先は「白人」が行った歴史的事象へ対してだ。

『More Offerings』5曲目 <floting TrioPart 3 011622>で耳から体内に流れ込む微かなしかし確実性をもったリズムの刻みは、わたしにとってもやはり2週間聞き通したカリヤン(鉄の筒を鉄の棒で叩く楽器)の音を呼び起こす。鉄がぶつかり合い強烈なデシベルが永遠とも言える反復の中で奏でられる空間にいる時発生する脳の覚醒。

西アフリカの地で、夕暮れ時まで赤土の上で繰り返し叩かれる、脳天を貫く金属音はやがて心地よさに変わり、まさに体内に宿り始める。モロッコのグナワで使われるカルカブ(鉄のカスタネットと言える構造。大きさは一個のカスタネットの倍で両親指に紐をかまし一枚目の鉄の板を固定し、残りの指で鉄と鉄を叩き合わせリズムを生む)然りだ。Photay はジャンベを習練していたとあるように、手や肌、あるいは接触的質感がアルバム全体の印象にある。そして、流動性をもった音形は、アルバム制作中彼がとらえた家の近くの、逐一変容する川の流れその流形でもある。

アルバムの国内盤プロデューサーが云うように「大胆な編集とミックス」が、生々しい有機的な音をさらに成形することでディメンショントリップの効果を最大限に効かせている。

「たくさんの音をレイヤリングするときは、ミニマリズムとマキシマリズムの両方が共存していて、リスナーが一つの音を集中して聴けるように作っている。」*2
最終的に編集により全体としての音圧が魅力的なものになる。
演奏者として楽器をPlayすること、機器をManipulateすることの妙を味わうことができる。
振り返れば70年代から活躍する鍵盤奏者、作曲家であり電子楽器奏者のディーバ、スザンヌ・チアーニはすでにレイヤリングの段階を有機的なものとしてシンセサイザーから出力していた。彼女が操るシンセの音、当時その波形は可視化されていなかっただろう。しかしきっと彼女に見えていたヴィジュアルは、Photayが使用するAbletonの中に、今見て取れるかもしれない。
Photayによる綿密な編集、サウンドエフェクトに加えた発想と瞑想的偶発性という方法は、2022年に英国のレーベルWarpから「Space 1.8 」でデビューしたNala Sinephroが施した、長時間のセッションから数分を切り取るやり方にも通ずる。
突如に切断される時間軸。
われわれは今、時間という次元の中で音楽を聴く方法を、編集という方法で、時間外の音を聞いているのかもしれない。
作り手が感覚に委ねるからこそ聴き手も感覚が全開になるのかもしれない。
ジャズに語法があるならば、音楽理論あるいは器楽の手法技術がネガティブな要素としてネックになることがあるかもしれない。
そういった範疇でのインプロヴィゼーションの定義を考察する機会になるかも、しれない。
彼らはわたしたちに音楽を与える=offeringすると同時に、問いかけているようでもある。

アルバムを聴きながら、ある固有名詞がイメージの中に現れた。それは、内藤礼の作品だ。
「地上の生の光景とは*1」と、彼女自身が語る作品のテーマ。
Photay と Carlos Niño、そしてゲストミュージシャンたちが繰り広げる音世界から、内藤礼の作品に流れる水脈の音を聴いたような感覚を得た。
内藤も、PhotayもCarlosも、彼らの哲学はその実践あってのアートである。
「我々人類の地球での存在は祝福となっているだろうか」と問いかける内藤が使う「祝福」という言葉は、まさにPhotayのアルバム名『An Offering』『More Offerings』に呼応している。あるいは相対的に次元が一致しているといえるかもしれない。

生命へのOfferingといったら大げさだろうか。いや、生きることは大げさでいい。
『An Offering』のエンディングとして、ニーニョの師であるヤソスが反復する(実際に「繰り返します。」と言葉を発している!)「存在」「永遠の自我」をテーマにした朗読。
冒頭登場したマルセル・モースの「贈与論」から”互酬性”と”存在”というキーワードを引っ張りだしてこよう。それは、やや強引かもしれないが、それでもシンプルに言えば、「存在を明らかにするための相互贈与=贈り物」だ。

山を経ての水、それはどこへ流れるのだろう。Photayが育ったキャッツキル山地の水は、ハドソン川の中流、支流モホーク川、デラウェア川…命=生を満たす、そうニューヨーク市民の主要な水源である。
PhotayとCarlosは、きっと「地上の生の光景」そして「存在」を水の存在を通してわたしたちに、ある生きる祝福の記録として、音楽という贈り物を残した。

灼熱のサハラ以南の夜は驚くほどに寒い時期がある。
あの昼間に聞いた連続する音の連なりがずっと体に残っていて、それはある意味、生きている証の火照りであり、それが徐々に夜の静寂に向かってヒートダウンする。
あの大地を経験した者にしか、わからないかもしれない。
であるならば、そんな体験をきっとしたであろうPhotayに会って話をしてみたいけれど、いや、会わない方がいいかもしれない。
今は『An Offering』と『More Offerings』という贈り物を抱き、聴き入るだけに留めておこう。

最後に、わたしがこのアルバムを書き綴ったところで、国内盤プロデューサーであるringsの原雅明氏のライナーノーツ(解説)に勝るものはない。

*1:内藤礼 インタビューから引用 https://madoken.jp/article/7756/
*2 : インタビューから引用 https://www.oto-tsu.jp/interview/archives/9759

仲野麻紀

サックス奏者。文筆家。2002年渡仏。パリ市立音楽院ジャズ科修了。フランス在住。演奏活動の傍ら2009年から音楽レーベル、コンサートの企画・招聘を手がけるopenmusic を主宰。さらに、アソシエーションArt et Cultures Symbiose(芸術・文化の共生)をフランスで設立、日本文化の紹介に従事。自ら構成、DJを務めるインターネット・ラジオ openradioは200回を超える。ふらんす俳句会友。著書に『旅する音楽』(2016年 せりか書房。第4回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞)。CDに『Open Radio』(Nadja21)。他多数。最新作は『渋谷毅&仲野麻紀/アマドコロ摘んだ春』(Nadja21)。

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