#2309『神田綾子&サラ(ドットエス)/風神/雷神 』
『 Ayako Kanda & sara(. es) / FUJIN | RAIJIN』
Nomart Editions NOMART127 ¥2,200(税込)
released on March 20, 2024
宇都宮泰の神音「Utsunomia MIX」シリーズ第6弾
sara (.es) (piano,percussion)
神田綾子 Ayako Kanda (voice)
1.FUJIN/RAIJIN #1 21:39
2.FUJIN/RAIJIN #2 30:52
3.FUJIN/RAIJIN #3 4:58
Recorded live at Gallery Nomart in Osaka on 7 Oct. 2023 during group exhibition B4.
ギャラリーノマルのグループ展 “B4” 会場でのライブ・レコーディング
Art direction and production: 林聡 Satoshi Hayashi
Cover art: 池垣タダヒコ Tadahiko Ikegaki “popocatepetl”(detail), 2023
Recording and mastering: 宇都宮泰 Yasushi Utsunomia
Liner notes: 清水穣 Minoru Shimizu
Translation: クリストファー・スティヴンズ Christopher Stephens
Design: 冨安彩梨咲 Arisa Tomiyasu
Staff: 今中規子 Noriko Imanaka / 吉田亘 Wataru Yoshida / 山田将也 Masaya Yamada / 井上さおり Saori Inoue
ギャラリー・ノマルの白い壁、展示された絵画、その前に立つ神田綾子、ピアノの前に座るsara(.es)。ライヴ会場での2人の姿は、記憶の中で揺るぎようがないものだと思っていた。ところが、CD から聴こえる音声を追っていくと、まるで漆黒の闇に薄明かりが差すように演奏が始まる。音が喚起するものが視覚記憶を断片化させ、新たに再編するようだ。
数カ月前に聴いたライヴに驚き、圧倒されたが、その二度目を体験するというより、新たな発見に次々と出会う。即興の積み上げが、こんなにも細やかで奥行きある世界を築いていたかと感心させられる。CDで聴くと、音を追いかける楽しみが増すのは当然なのだが、時には脳天の真上から浴びせかけるようなヴォイスやピアノの激しさや、二人の果てしない「対話」が生むユーモアを味わう。そして、ライヴ現場でフル稼働させた耳と脳が追いつけなかったものが、こんなにもあったかと思う。プロデューサーの林聡氏と録音、マスタリングを担当した宇都宮泰氏が語っていた通り、ライヴ現場での体験と録音されたものを聴く体験を比較し、リスニングの現実に向き合うのは、実に興味深いことだった。
本作が録音されたライヴを体験し(2023年10月7日)、その後ライヴレポートを書き、神田綾子のヴォイス・パフォーマンスの詳細に触れた。腹の底から響く雄叫び、唸り声。目まぐるしく変化する声で、どこの国の言葉でもない「歌」を伸びやかに歌う。彼女の声と同様に、sara(.es)のピアノも、大地を揺らすように激しく暴れるが、その一方で細やかに神田のパフォーマンスを受け止め、即興デュオのスムースな流れを作っていた。(下の写真は岡崎が撮影)
録音からミキシングまでの全ての過程を宇都宮泰氏が担当した音源は、現場の忠実な再現であると同時に、リスナーに別世界を体験させてくれる。アルバムを聴き、またあの場(ギャラリー・ノマル)に戻って来たと思ったのだが、会場で明るい照明を浴びていた2人が、脳内でみるみる変容していった。
飛び跳ねるsara(.es)のピアノの音と、限りなく変化する神田の声が、一体化してモンスターとなって踊り、暴れ回る。ピアノは激しさと繊細さの両極を維持しながら、神田の言葉のないモノローグともつれ合っている。sara(.es)が早口に語るように弾くと、神田の口から、何語でもない言葉がとめどなく溢れ出し、これに応酬する。
プロデュースを務める林聡氏の言葉を思い出した。「ライブを楽しむ聴き方と、録音されたものでは、全然違う魅力があるのです。そのことを体験してもらいたい。聴くものと全然違った体験ができるということを。ライブと違って情報量が増え、細かい音まで聴こえてくる。いろんな音が現われてくる。聴くたびに違う音が聴こえる。フォーカスするところによって、別の音が聴こえる…」このように彼が語っていたことが、音響エンジニアの力で具現化し、CDとなったのだと実感した。
CDケースに封入された6ページのブックレットには、表紙と裏表紙には、sara(.es)と神田綾子のライヴ時の写真が載り、清水穣(Minoru Shimizu)氏によるライナーノート、宇都宮泰(Yasushi Utsunomia)氏の録音用マイクについての解説が掲載されている。
美術評論家である清水穣氏が担当したライナーノートを読んで、このアルバムがますます興味深いものになった。「電子音楽の開拓者である」カールハインツ・シュトックハウゼンの言葉を踏まえ、人間の声などについて明快に分析する文章は、できればここに全て引用したいところだ。このライナーノートには英文翻訳がついており、海外の音楽ファンにも対応している。
宇都宮泰氏によるマイクロフォン「BAROm1」については、録音技術に詳しくない人にも分かりやすく説明され、こちらにも英文翻訳が付けられている。この英文の解説を通じて、彼の録音技術が世界に広く認知されることを期待したい。
CDのカバーアートには池垣タダヒコ氏の作品が使われている(”popocatepetl”(detail),2023)。調べてみると、ポポカテペトル(popocatepetl)はメキシコの活火山であり、現在も噴火継続中であるという。山頂からいくつものカラフルな線が生まれ、リズミカルに踊るように描かれ、sara(.es)と神田綾子のデュオにぴったりだと感じた。
アルバムのメーカーインフォメーションより:
宇都宮泰の神音「Utsunomia MIX」シリーズ第6弾!
神田綾子×sara (.es) ーVoiceとPiano、最強のデュオ降臨!
叫びから歌へ、音から音楽へ。一瞬と永遠が交差する即興ライブ完全盤。
脳内へ拡張する驚愕の音空間を体験あれ!
身体を震わせ多彩な声を操る神田が風なら、ピアノと打楽器のポテンシャルを増殖させ独自のリズムを打ち鳴らすsaraは雷か?エネルギーあふれる二人の音楽家による即興演奏、度肝抜かれること必至。
「音響の鬼才」と名高い宇都宮泰が、ギャラリーノマル(大阪)での即興ライブを全く新しい独自のシステムで録音/ミックス/マスタリングした「Utsunomia MIX」シリーズ第6弾。2023年5/10に三部作(Pumice/鳥を抱いて船に乗る/Multiplication)同時リリース、9/27に4作目「森の創造物」、12/6に5作目「HUMANKIND」。回を重ねる毎に進化と深化を遂げ続けるUtsunomia MIXの最新盤は空間性が一層凄まじい問題作。ライナーは美術批評/音楽批評の清水穣氏が執筆。
7月13日には、本作が録音されたGallery Nomart (ギャラリーノマル)にて、”「FUJIN / RAIJIN」リリース記念LIVE”が予定されている。今回はヴァイオリニストの喜多直毅を迎え、sara (.es)と神田綾子が築く世界からどのように発展してくのか、非常に楽しみなライヴである。
2024年7月13日
”Utsunomia MIX – 006「FUJIN / RAIJIN」リリース記念LIVE”
(永井英男個展「Island」会期中イベント)
出演: sara (.es), piano, perc.
神田綾子 Ayako Kanda, voice
喜多直毅 Naoki Kita, violin
会場: Gallery Nomart (ギャラリーノマル)
open 19:00 / start 19:30
adv ¥3,500 / door ¥4,000 *予約制 定員40名
予約先:info@nomart.co.jp(お名前/人数/お電話番号をお願いします)
♪ 参考記事
ライヴレポート https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-93187/
インタヴュー https://jazztokyo.org/interviews/214-es/
インタヴュー https://jazztokyo.org/interviews/interview-267-sara-es/