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Concerts/Live ShowsNo. 256

#1089 パーキンソン病応援ライブ Vol.3

text & photo by Ring Okazaki 岡崎凛

ピアニスト石井彰が初参加した大阪の「パーキンソン病応援ライブ」 Vol.3
~難病とともに音楽活動する演奏家が自ら企画するコンサート~

石井彰

日時:2019年7月2日(火)
会場:大阪市旭区『Ten-On』

今回が3回目という「パーキンソン病応援ライブ!!」は、アットホームな雰囲気の中で、味わい深い音楽を楽しみ、東洋医学の呼吸法のレクチャーも受ける企画だった。
ジャンルはタンゴ、ジャズ、フュージョン、クラシカルとさまざまで、パーキンソン病のミュージシャンがサポートメンバーとともに出演する。志の高い音楽家のステージを見ていると、演奏者たちが病気であることは忘れそうになる。アンコールでは出演者がほぼ全員登場してラテンナンバーを披露した。素晴らしいセッションだった。

今回初めて、関西ゆかりのピアニスト石井彰が東京から参加し、ジャズ、ラテンポップス、フュージョン曲でピアノ、エレピを演奏し、最後にピアノソロを披露した。彼はパーキンソン病ではないが、やはり難病である球脊髄性萎縮症を患っており、このコンサートを主催するギタリストの仲田哲也氏の趣旨に賛同して出演した。

会場の『Ten-On』は京阪電車関目駅(または大阪メトロ関目高殿駅)に近く、仲田哲也氏が音楽教室を営む場所でもある。会場に着くと入り口付近で出演者たちが和やかに談笑していた。

出演者
難病とともに音楽活動を続ける演奏家たち:
赤松二郎(sax) 仲田哲也(g)  ロベルト・デ・ロサーノ(vo,g) 石井彰(p)
木田記美代(vo) 内村俊仁(g)

サポートメンバー:
張木浩司(b) 三夜陽一郎(ds) 仲田奈緒子(p, melodica) [ジャズ+フュージョン] Mako(vo) [タンゴ+ラテンポップス] 上条真理(viola) 佐甲寿美(p) [バロック声楽曲の伴奏] 池田玲子 [ヨガ講師、呼吸法についてレクチャーを担当]

赤松二郎 石井彰

①オープニングはサックス奏者赤松二郎カルテット。(赤松・石井・張木・三夜)
演奏曲:「The Gentle Rain」、「Old Folks」
穏やかで力強い2曲が会場を和ませた。
赤松二郎はジャズだけでなく、クラシックの分野でも活躍するベテラン奏者で、音楽教育者としても有名。彼も石井彰も大阪音楽大学出身。同大学で教授や理事をつとめていた赤松氏に師事した演奏家は数知れず、関西圏を超えて活躍している。

Mako ロベルト・デ・ロサーノ

②ロベルト・デ・ロサーノ(Roberto De Lozano)の弾き語り+Makoとのデュオ。伸びやかで情感あふれる歌が心に沁みる。タンゴ、ラテンポップスなどアルゼンチンの音楽を披露。2人は関西を拠点に関東でも公演し、日本では数少ないアルゼンチン音楽の継承者として活躍している。
演奏曲:「America」、「牛車にゆられて」、「Amnesia」、「Nadie Como Tu」
「Nadie Como Tu」ではジャズミュージシャンも加わって楽しいセッションとなった。

③飛び入り1曲参加のギタリスト、内村俊仁が難波エキスプレスの曲を演奏した。
仲田哲也(g) 張木浩司(b)三夜陽一郎(ds)(仲田バンド)と共演。ややノイジーな内村ギターにメロディアスな仲田ギターが重なり、その絡み具合が面白い。

④仲田バンド3人の演奏では仲田哲也オリジナル曲を披露。フュージョン系の心地よい曲に続き、最後の「Shake」ではパーキンソン病の症状である『震え』をユーモラスに歌いあげる。この曲はコンサート最後に全員で演奏した。
ベーシスト張木浩司、ドラマー三夜陽一郎は2人とも関西で活躍するミュージシャン。これを機に彼らのプレイをもっと聴いてみたい。
演奏曲:「Winter’s Twilight 」、「Bump up」、「Sky」、「Shake」

 

⑤木田記美代の演目は後期バロックのカンタータ、Pastorella Vagha Bella(ヘンデル作曲)。
「バロック音楽特有のリズム、ヘンデルの美しい和声を楽しんで頂ければと思います」とのこと。澄みきった伸びやかな発声を目の前で聴くという、貴重な体験ができて嬉しい。
伴奏:上条真理(ヴィオラ)、佐甲寿美(ピアノ)

⑥石井彰ソロピアノ
演目の最後は石井彰によるピアノソロ2曲。冒頭の一音一音から、しっかりと踏みしめるような力強さと柔らかな響きが同時に伝わってきた。彼のソロを聴くのは久しぶりだったが、始まると同時に「ああ、これだ!」と彼の語り口を思いだした。随所にさりげない仕掛けがあるのか、石井彰ソロの世界にどんどん引き込まれていく。会場全体の反応も同様であったらしく、誰もが夢中で聴き入っているようだった。
演奏曲:
Midnight Mood(ジョー・ザヴィヌル作曲)
Yesterday I Heard The Rain(アルマンド・マンザネロ作曲、トニー・ベネット&アレハンドロ・サンスのデュエットで人気を博した名曲)

⑦ヨガ講師で鍼灸師の池田玲子氏によるレクチャーがあり、息を吐き切ることの大切さを学ぶ。こうした演目が入るのも今回の「応援ライブ」らしいところだ。
その後で、出演者のほとんどがステージに集まった。再度「Shake」、「Nadie Como Tu」を演奏し、おおいに盛り上がり、演奏終了後は、出演者と観客が笑顔で言葉を交わしていた。

仲田奈緒子

上記の演目紹介に書けなかったが、出演者が多数ステージに立つセッションでは『Ten-On』の仲田奈緒子さんが何度か演奏(ピアニカとエレピ)に参加し、コンサートを明るく盛り上げていたのが印象的だった。会場受付を担当するなど、とても忙しそうなのに、にこやかに取材に対応して頂いた。

ライブ終了後の所感:
パーキンソン病などの難病を支援するというテーマは重いはずだが、今回の「応援ライブ」では、病気についての堅苦しい話や苦労話は一切なかった。観客はただ素晴らしい歌や演奏を楽しんでいたが、出演者たちを応援したいという気持ちはますます強まっただろう。

ライブ終了後の店内で、石井彰、ロベルト・デ・ロサーノ&Makoの3人がラテン音楽について語りあい、とても楽しそうだった。おかしな言い方だが、「病気が縁」で広がる音楽人脈もあるのだと知る。この夜に初めて出会ったミュージシャンたちが仲良く語りあう姿を、しみじみとした気持ちで眺めた。

今回の会場『Ten-On』で、今年秋に石井彰+石井智大(ヴァイオリニスト)親子での公演が予定されているという嬉しいニュースも発表された。ぜひ聴きに行きたいと思う。
石井彰の最新アルバム『Silencio~ Chamber Music Trio』を購入し、家路についた。

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石井彰の最新作(Chamber Music Trio)と2002年のソロアルバムについて:

『石井彰/Silencio~ Chamber Music Trio』(2018)は、チェロの須川崇志、コントラバスの杉本智和が共演する、重厚で冒険心に満ちた作品。3人がじっくり選ぶ音を追ううちに、東洋でも西洋でもない、幽玄な世界が見え始めるようだ。
本作に関してはJazzTokyoに詳細な紹介記事がある:
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-26123/

このアルバムと合わせて2002年の石井彰ソロアルバム「Presence」(eweレーベル)を久々に聴いた。鋭い音、柔らかな音が、饒舌になり過ぎることなく簡潔な言葉のように耳に届く。だがそれが次第に輝き始め、心の奥にとろけ出す瞬間がある。その美しさに、数日前のコンサートでまた出会った。録音して18年が経過した本作は今も魅力に溢れている。今は中古でしか入手できないようなのでの再発があればと願っている。

また、石井彰が自身のブログ(2018年9月20日)に記した「私にとってのソロピアノ」という記事が大変興味深かった。ソロピアノに対する彼の思いが書き連ねられている。
http://www.akiraishii.net/blog/archives/2018_9_20_2926.html

以下、この記事と関連するJazzTokyoの記事について
https://jazztokyo.org/news/post-41276/
Local(国内) News  7/02 パーキンソン病応援ライブ vol.3に石井彰が初参加

https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-26123/
CD/DVD Disks No. 240 #1501 『石井彰/Silencio~ Chamber Music Trio』

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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