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Concerts/Live ShowsReviewsNo. 261

#1108 ラ・フォル・ジュルネ・ド・ナント 2019 Carnets de Voyage

La Folle Journee de Nantes – Carnets de Voyage
ラ・フォル・ジュルネ・ド・ナント 2019

2019年1月30日〜2月3日 ナント国際会議場 La Cité des Congrès de Nantes

1995年にフランスの港町ナントで始まったフランス最大のクラシック音楽祭ラ・フォル・ジュルネ・ド・ナント(熱狂の日、以下LFJNと略)は、2019年で25回目を迎えた。東京でラ・フォル・ジュルネ(LFJTと略)が始まるのは2005年。2014年までは作曲家をテーマにし、2015〜2019年は、自然、ダンスなどのテーマ性を持たせた。2020年は、生誕250周年を記念して「ベートーヴェン」と作曲家シリーズに戻る。2019年はテーマ系の「Carnets de Voyage」。アーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンによれば、”Carnets”には、旅で素晴らしい風景に出会ったときに思わず書き留めるようなポケットに入る小さな手帳を、そしてその先に生まれる音楽をイメージしたという。今回のテーマは、旅や乗り物がテーマではなく、作曲家が旅をしながら生み出した音楽にフォーカスした。

2019年のナントは1月30日-2月3日の5日間、ナント国際会議場と、Lieu Unique、CIC Ouestで開催し、317公演、2,500アーチストが出演した。 有料公演138,000席に対し、132,100枚を販売 (95%)。チケットは(東京同様)大ホールを除きほぼ完売なので、興行的にも成功だった。ナント市で13万人という規模にピンと来ないかも知れないが、丸ノ内のみの開催だった2017年が14万枚のチケットを12万人に販売なので、ほぼ同規模。大国の首都と地方都市の比較であることを考えれば、その凄さが分る。また地域密着ならではと程よい広さの会場の居心地のよさがある。

全般的には、テーマの分りにくさが印象に残った。2018「亡命EXILE」から改題した「新しい世界へ」と2019「旅から始まる音楽」の差別化が難しい。キーワードが「地名」に留まり(たとえばパリのモーツァルト)、「旅」「乗り物」にならないのでわかりにくい印象があり。また2018年の舟テーマ画像に対して、飛ぶテーマ画像にしたものの、特に飛ぶ曲がなく。実際、ラヴェルやドヴォルザークが鉄オタであるにしても、クラシック・現代音楽の旅・乗り物はあまりないのが実情だ。少ない中では、ハービー・ハンコック/挾間美帆「Maiden Voyage」。メレディス・モンク「Rail Road (Travel Song)」が乗り物色を出していた。「旅する作曲家から生まれた音楽」ということでは、それぞれの足跡を辿れば、少しずつ理解できるところでもあったし、テーマはきっかけであって、音楽のクオリティには問題がなく、素晴らしい音楽祭として閉幕した。

注目した公演をいくつか紹介したい。


040 1/31 15:45
Chopin University Big Band, Warsaw
挾間美帆 Miho Hazama & Piotr Kostrzewa direction

Harbie Hancock / Moho Hazama
The Maiden Voyage Suite, extraits
Maiden Voyage
Eye of the Hurricane
Dolphin Dance
Tony Klatka: Blues for Poland
Pat Metheny: Song for Bilbao
Duke Ellington / Juan Tizol: Caravan

EC) Gordon Goodwin: Hunting Wabbits

ジャズサイドからの目玉は、挾間美帆のナント初出演。ワルシャワの音楽大学のビッグバンドを指揮する形だが、よい音が出ている。仕切っているピョートル・コツレヴァは、LFJのハウス・オーケストラ的に定着しているシンフォニア・ヴァルソヴィアのティンパニ奏者で、東京のLFJにも常連で出演している。ハービー・ハンコック『処女航海』を挾間美帆丸ごとビッグバンドに編曲した編曲による<処女航海 組曲>からの抜粋。LFJ2018では、シェナ・ウインド・オーケストラで演奏されていた。聴衆の多くに聴き覚えのあるハービーの名曲に、挾間の染める色彩と躍動感に観客が圧倒されていた。


ニューヨーク、Joe’s Pubでの<The Maiden Voyage Suite>


N225 2/2 20:30 CIC
Luis Fernando Perez ルイ・フェルナンド・ペレス: Piano
Albéniz: Iberia, extraits アルベニス: イベリア(抜粋)

Evocación
El Puerto
El Corpus Christi en Sevilla
Almería
Triana
El Albaicín
And encore Bach-Soliti Prelude

LFJT2018では、ルイス・ファルナンド・ペレスは、アルベニス『イベリア』全曲演奏を行い、スペイン出身でもあり魂のこもった演奏を聴かせてくれたが、LFJN2019のCIC Ouestというピアノソロ専用会場での公演での演奏も素晴らしかった。詳細については、LFJT2018での『イベリア』全曲演奏のレポートをご参照いただきたい。


N127 1/31 09:30
Akane Sakai 酒井茜: Piano
Mozart : Sonate n°11 en la majeur K. 331“Alla turca”
Gershwin : Trois Préludes
Saint-Saëns/Liszt/Horowitz : Danse macabre
名古屋で出身、ブリュッセルを拠点に活躍するピアニスト、酒井茜。マルタ・アルゲリッチから絶大な信頼を得て、2台のピアノコンサートでのパートナーにも何度も抜擢され、2019年も日本でそのツアーを成功させたばかり。モーツァルト<トルコ行進曲>、ガーシュウィン<3つの前奏曲>、サン=サーンス作曲リスト編曲の<死の舞踏>を演奏。酒井の一音一音に込められた魂とか、グルーヴとか凄いと思う。日本のクラシックファンで減点法で音楽聴く人には苦手な人もいるかも知れないが。この部屋、照明もピアノもチャレンジングだがよく鳴っていた。


N290 2/3 19h30
Francesco Tristano: piano
“My detroit love”

tristano : Hello, Eastern Market
May/tristano : Strings of Life
Mills/tristano : The Bells
Clinton/tristano : Atomic Dog
Craig/tristano : Technology version
Tristano : D minor loop, Gaza world cup
ルクセンブルグ出身で、クラシックピアノからエレクトロニクス、ジャズまで幅広く活躍するフランチェスコ・トリスターノ。最近では大好きな東京を描くの「東京ストーリーズ」をリリースしており、それこそ旅テーマで、LFJTでやって欲しかったのだが。ここではデトロイトをテーマにしたテクノライブ。重厚だが心に響く音質とグルーヴが印象的なライブとなった。


N229 2/3 12h40
Akiko Suwanai violon
Sinfonia Varsovia
Dmitri Filatov direction

Chabrier : España
Tchaïkovsky : Concerto pour violon en ré majeur opus 35

2/1 15:45
Sayaka Shoji violon
Orchestre National Symphonique du Tatarstan
Alexander Sladkovsky direction

Borodine: Dans les steppes de l’Asie centrale
Tchaïkovsky : Concerto pour violon en ré majeur opus 35

2,000人収容の大ホールでチャイコフスキー<ヴァイオリン協奏曲>を諏訪内晶子が弾く。同会場同曲で庄司紗矢香、タタルスタン国立交響楽団の演奏があり、その対比が興味深かった。庄司は、多彩な声色を持ちその幅広い色彩豊かな表現力に魅せられる。諏訪内は、肉声として一貫性が強くぶれず力強い存在感の中で弾き切った。どちらも魅力的あ演奏となった。

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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