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Concerts/Live ShowsNo. 269

#1133 井上陽介トリオ feat. 武本和大 & 濱田省吾 at ボディ&ソウル

Text and photo by Hideo Kanno 神野秀雄

井上陽介トリオ Yosuke Inoue Trio
2020年6月4日 19:00 – 21:15 青山 BODY & SOUL

井上陽介 Inoue Yosuke (bass, vocal)
武本和大 Kazuhiro Takemoto (piano, vocal) Twitter
濱田省吾 Shogo Hamada (drums)

1.濱省ブルース (濱田省吾)
2.Whisper Not (Benny Golson)
3.Speak Low (Kurt Weill)
4.You Raise Me Up (Rolf Løvland)
5.In the Distance (武本和大)

6.Love Theme from “Spartacus” (Yusef Lateef)
7.New Stories (井上陽介)
8.Anniversary (作詞 城所琳音、作曲 武本和大) – 武本和大 vocal
9.Magic Touch (井上陽介)

EC.上を向いて歩こう (作詞 永六輔、作曲 中村八大) – 井上陽介 vocal

全曲視聴可能〜聴いていて思わず笑顔になる名ベーシスト井上陽介と教え子のトリオ

井上陽介は、小曽根 真 率いる国立音楽大学ジャズ専修でベースの講師を務めている。その優秀な卒業生であったピアニストの武本和大(1995年、東京出身)と濱田省吾(1993年、山口出身)と結成したピアノトリオ。気鋭の若手二人と新しい物語を紡ぎ出すということで『New Stories』(ポニーキャニオン)というアルバムを2019年1月にリリースしている。武本はヤマハ音楽教室でエレクトーンを学び、高校2年生でYECエレクトーン世界大会A部門第1位に。国立音楽大学で塩谷哲、小曽根真、宮本貴奈に師事し、主席で卒業。2020年8月に初EPアルバム『I Pray』をリリースした。濱田はドラムを高橋徹、神保彰、アンサンブルを小曽根真に師事。第33回浅草ジャズコンテストにてグランプリを受賞。池田篤、椎名豊、植松孝夫、片山士駿などのグループで活躍している。

井上陽介は、秋田慎治(p)、荻原 亮(g)、江藤良人(ds)のカルテットで、2014年に『Good Time』、2017年に『Good Time Again』(以上、ポニーキャニオン)をリリースし、筆者はその”気負わない意欲作”を高く評価して来た。それだけに今回のトリオのライヴを聴くことも楽しみにしていながら早くも1年が経ち、そしてCOVID-19でツアーも縮小してしまう中、今回ようやく辿り着いた。この頃、青山「ボディ&ソウル」も営業を再開したばかり、使える席数を制限し、客のマスク着用を義務づけるなど対策は徹底していた。この状況では飲食店や電車内に比べてリスクは極めて低いと思われた。

6月上旬、3ヵ月ぶりに生演奏を聴いた機会。この間、小曽根 真の自宅からの53夜にわたるピアノソロライヴ配信「Welcome to Our Living Room」をはじめ、たくさんの良質なライブ配信を見続けて、もう配信だけでも幸せになれるのではという錯覚すらあったが、実際にライブに行ってみると、絵本や漫画ばかり読んでいるところで突然3次元になったような、映画のスクリーンから登場人物が飛び出したような驚きで。空気から音が伝わり、ミュージシャンが観客と一緒に盛り上がる、、というばかばかしく当たり前のことに心から涙するひととき。井上、武本、濱田も久しぶりに人前で演奏することに感無量のようだった。オーナーの関 京子も再びライブができる喜びを語っていた。

今回の演奏は、井上陽介 Jazz Bassist チャンネルで全曲を聴くことができる。本記事の冒頭にファーストセット分を、記事の下にセカンドセット分を置いた。動画の音質に比べて、実際に会場で聴く音のバランスやクオリティは非常に高かったので、その格差にご留意の上、ご覧いただきたい。

ドラマーの濱田省吾のオリジナル<濱省ブルース>から始める。濱田は気鋭のフルーティスト片山士駿(国立音楽大学、マンハンッタン音楽院 大学院卒)のカルテットのメンバーでもあり、この記事の末尾に井上トリオ+片山のヴァージョンの演奏動画も添付した。続いて、<Whisper Not>、<Speak Low>などのスタンダードをまじえながらまじえながら、注目は武本のオリジナルだった。<In the Distance>は、曲を書こうとピアノに向かいながら、遠くへ意識を向けている中で生まれた曲だという。8月29日に配信開始となった初EPアルバム『武本和大/I Pray』にも収録されている。

<Love Theme from “Spartacus”>では、井上がアルコで美しくメロディを奏でながら、次第にトリオの演奏が熱を帯びていく。武本のソロを終えて、静けさを取り戻しよく歌うベースソロが展開する。新譜のタイトル曲<New Stories>は濱田の長いドラムソロに始まって、軽快でドライヴ感のあるフォービートで進行する。続いて、武本作曲の歌<Anniversary>を本人のヴォーカルで。音楽仲間の城所琳音が詞を付けた。武本は堂々とよく伸びる声で歌っていたので、これからも弾き語りにも期待したい。エレクトーンの経験をも活かしながらさまざまな音楽に挑戦する中では、自分の「歌」を持つことは大きな武器になるものと思われる。セカンドセットの最後には<Magic Touch>を。『大西順子セクステットプラス/Live XI』に収録された井上の曲で、3人とも技巧を魅せながら熱い演奏を繰り広げた。

22時閉店を気にしながら切り上げようとするところ、止まらない拍手に短めのアンコールを、COVID-19期間にSNSで新澤健一郎から回って来た”バトン”で井上は<与作>を歌ったことで歌うことへの敷居が下がったようだ。今回は、日本で唯一ビルボード1位を記録した<上を向いて歩こう/Sukiyaki>、照れ隠しも交えてか忌野清志郎を思わせる味のある歌い方だった。

この2020年6月以降はCOVID-19で仕事の機会は大きく減ったが、井上陽介トリオでのツアーを全国で続けている。ライヴスケジュールはこちらをご覧いただきたい。

また、COVID-19下にあるからこそ、ファンには悲願であった塩谷哲トリオの6年ぶりのライヴが実現したという幸運もあった。井上陽介が参加した塩谷哲トリオのファーストアルバム『Eartheory』(2007年)から13年を経て、セカンドアルバムが長く待たれている。また、2020年から21年にかけて、「Six Unlimited」というライヴプロジェクトが動きだし、リハーサルもすでに行われている。メンバーは、東儀秀樹(雅楽)、古澤 巖(vn)、塩谷 哲(p)、小沼ようすけ(g)、大儀見 元(perc)、井上陽介(b)。延期になった会場もあって、まだライヴとしては完成形を見ていないが楽しみにしたい。

【井上陽介トリオ ライヴスケジュール】
9月4日(金) 御茶ノ水 NARU
9月8日(火) 赤坂 Velera
9月20日(日) 水戸ガールトーク
9月21日(月・祝) 仙台 モンドボンゴ
10月14日(水) 大阪 ミスターケリーズ
10月16日(金) 岡山蔭凉寺
10月17日(土) 宇部 ジャズスポットBOB
10月18日(日) 鈴鹿 どじはうす
10月22日(木) 大塚 グレコ

2nd Set

Ladies in Mercedes
2020年1月7日 大塚グレコ

井上陽介トリオ+片山士駿
井上陽介(Bass)武本和大(P)濱田省吾(Ds)片山士駿(Fl) 2020年8月13日

武本和大 『I Pray』

New Stories

井上陽介 Yosuke Inoue(bass)
武本和大 Kazuhiro Takemoto (piano)
濱田省吾 Shogo Hamada (drums)
1 Stella by Starlight
2 Love Walked In
3 The Way You Look Tonight
4 Spartacus Love Theme
5 New Stories
6 Dear Daddy
7 God Only Knows
8 Big Foot
9 Teen Town
10 Blame It On My Youth
11 No Blues

ポニーキャニオン MYCJ30662

New Stories PV

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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