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Concerts/Live ShowsNo. 290

#1218 喜多直毅クァルテット/狼の夜~沈黙の咆哮の音楽ドラマ

2022年5月17日(火)@公園通りクラシックス
Reported by Kayo Fushiya 伏谷佳代
Photos by Etsuko Yamamoto 山本悦子

出演:
喜多直毅クァルテット
喜多直毅(作曲・ヴァイオリン)
北村聡(バンドネオン)
三枝伸太郎(ピアノ)
田辺和弘(コントラバス)

プログラム:
1. 空爆のテーマ
2. 燃える村
3. 街角の女たち
4. 街の残像(ヴァイオリン・ピアノ・コントラバス)
残された空(ヴァイオリン・ピアノ・コントラバス)
5. 狼の夜
6. 月と星のシンフォニー
7. 別れ


3か月ぶりの喜多直毅クァルテット。前回の会場は新宿ピットインであったため、PAの効果があらたな局面をバンドにもたらしていたが、今回はホームともいえる公園通りクラシックス。やはりアコースティックの味わいが前面に押し出される。冒頭から、色彩がぐっと絞られたダークな印象。渋みが勝る。生楽器ならではの掠れや空気のたわみに、思わず「渇」という字が脳裡をかすめる。枯渇した現況からの渇望の渇。そこから拓けるシネマトグラフィックな幻影、うす靄(もや)の彼方からの波及音―ヴァイオリンの側板や背面、コントラバスのボディがパーカッシヴに唸り、時に空気を遮断する。こぼれでる多様な音の変遷に動揺しつつ、次第に音の遠近が攪拌されてくる。放たれた音がスコアへと収斂されていくさまが幻視され、逆方向のベクトルに絡めとられてゆくのだ。磁場としてのコンポジション。制御不能なものが還りゆく場所。その見果てぬうねり。

この日は、バンドネオンの突発的なアクシデントにより、途中でトリオ編成を2曲挟む。フリージャズのように小刻みに振動が瞬いては位相する「街の残像」を経て「残された空」へ。タイトルピース「狼の夜」で再びクァルテットとなったが、ここでも跳躍するリズムの背後にある求心力、立体的な音楽の増幅がみごと。とめどもない堰(せき)の源となる沈黙の溜め。そしてこのクァルテットの秀逸さは、そうした構築面だけにとどまらず、音色のうつくしさ、メロディが湛える土着的な哀愁、といった感応の掛け値なしの「抗いがたさ」にストレートであることだ。(*文中敬称略)



<関連リンク>
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https://synthax.jp/RPR/mieda/esperanza.html
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伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。欧州に長期居住し(ポルトガル・ドイツ・イタリア)各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評(月刊誌/Web媒体)、演奏会プログラムやライナーノーツの執筆・翻訳など多数。

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