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Concerts/Live ShowsNo. 301

#1258 音楽と経済 ECMをめぐる二夜

text & photos by Seiichi Sugita 杉田誠一

来たるべき出版の在りようを志向、実践するカンパニー社(いわゆる取次=問屋に依存しないインディ)。
『新版 ECMの真実』稲岡邦彌著が Aamzon/ジャズ部門で1位となる。
僕にとっての畏兄・稲岡邦彌は、トリオレコードのプロデューサー、創業以来同志といった間柄だ。現在はwebマガジン「JazzTokyo」を主宰。
トリオレコード時代にそれまで (~1972) レーベル契約をしてこなかった日本のレコード各社に先駆け、ECMとのレーベル契約を成し遂げたのが稲岡邦彌であったわけ。
ぼくはといえば、そのほとんどの輸入盤情報を大阪LPコーナーから入手していた。当時は、すでに「Jazz誌」を主宰していたが。問い合わせがあった。「これって売れるでしょうか?」とLPコーナーのオーナー。ぼくは予感通り「イケますよ、きっと!」。輸入盤が翌日届く。はっきり言って、言うなればアバンギャルド系のピアニスト、チック・コリアのアルバムとしては異例かとすら思われた。が、大ヒット。日本盤はといえば、かなり経ってから、ポリドールからリリースされる。それがあの『リターン・トゥ・フォーエバー』。
来日時、直接、チック・コリアに聞く。
___何故、「リターン・トゥ・フォーエバー」なのですか?
チック・コリア「すべては、サイエントロジーです」(宗教哲学)
稲岡邦彌は、まず、それまでレコード各社が手を出せなかったECMアルバム、デレク・ベイリーやバール・フィリップス、テリエ・リピダルなどをリリース。ニュー・アルバムとしては、最初のヒットがキース・ジャレット『ケルン・コンサート』。東京だけではなく、全国のジャズ喫茶でかからない日は、なかった。
去る4月14, 15日、神楽坂は赤城神社にて「ECMをめぐる二夜」が開かれる。どうしても「一夜」しか参加できなかった。
稲岡邦彌 X ピーター・バラカン

ひとことで言って、すぐれておもしろい対談であった。なかでもECMの音=録音に関してである。
ECMの録音は、創業者マンフレート・アイヒャーによって、白夜の国、オスロのスタジオで行われてきた。アイヒャーは、ベルリン・フィルのベース=コントラバス奏者でもあった。
その音は、ひとことで言うと、ぼく自身の言葉でいえば「透徹」であるが...。
その夜、ピーター・バラカンがプレイしたアルバムは、『アヌアル・ブラヒム ジョン・サーマン デイヴ・ホランド/シマール Thimar』(ECM1641 1998)
しかしながら、稲岡邦彌がプレイしたアルバムは、何と、日本で録音したキース・ジャレットの10枚組ソロ『サンベア・コンサート』。じつは、このアルバムの録音はECMによるものではなく、菅野沖彦(ピアノの邦彦の兄にあたる)。マンフレート・アイヒャーはプロデューサーとして全行程に同行したという。

ピーター・バラカン「マイクは、何本?」
稲岡邦彌「そう多くは、ありません」
じつは、対話の最初の方で、ECMの音について、教会での「音」を引き合いに説明されている。
なんだか、アナログ的な、話でぼくにとっては、いちばんおもしろかった。
かつて、70年代初めに、ニュージャージーのルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオに出かけたことがある。森のなかのスタジオは、日本の校倉造りを研究して建てた、と主に直接聞く。おそれおおくも、「メグ」の主に説明したことがあったけれども、何度も「本当?」と念を押される。
また、20世紀最高の録音は、CBSのマイルス・デイビス『カインド・オブ・ブルー』だとぼくは信じている。そのスタジオは、NYCの古い教会を造り直したもの。
やっと、「透徹」の意味が、分かり始めてきました。
稲岡邦彌 X ピーター・バラカン
ありがとうございました。
なお、独ミュンヘンにあるECMとは、「エディション・オブ・コンテンポラリー・ミュージック」、蛇足ですが。ということは、「同時代音楽」として生きてきたわけですね。

杉田誠一

杉田誠一 Seiichi Sugita 1945年4月新潟県新発田市生まれ。獨協大学卒。1965年5月月刊『ジャズ』、1999年11月『Out there』をそれぞれ創刊。2006年12月横浜市白楽にカフェ・バー「Bitches Brew for hipsters only」を開く。著書に、『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』『ぼくのジャズ感情旅行』他。

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