#1130 TOKYO JAZZ +plus LIVE STREAMING
L: 小曽根真 Makoto Ozone featuring No Name Horses R: 平原綾香 Ayaka Hirahara
L: 上原ひろみ Hiromi & Joshua Redman R: 挾間美帆 Miho Hazama m_unit
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo: ©TOKYO JAZZ FESTIVAL
TOKYO JAZZ +plus LIVE STREAM
2020年5月23日(土)・24日(日) 20:00〜23:00
※当日、東京JAZZ 公式YouTubeチャンネルで無料配信され、その後、全体のアーカイブは残されていないが、各動画の多くを公式チャンネルで見ることができるので、プログラム順に並べた。これだけあればつなげて公開して欲しいところだ。
2002年に始まった日本国内最大級のジャズフェスティバル「東京JAZZ」は、いくつかの動きを経て、夏の終わりに東京国際フォーラムでの開催が長く続いた後、2018年から渋谷へ移転した。今回、「東京JAZZ」から新たに「TOKYO JAZZ +plus」へ名称を変更し、5月23日(土)・24日(日)に時期を移したが、この時期変更は、2020年9月から始まるNHK放送センターの建替工事や、2021年3月から2022年6月(予定)まで行われるNHKホールの耐震性を高める工事などの影響によるものだった。そのタイミングに起こってしまった、COVID-19問題。先の状況が読めない中で苦しい運営と決断となったと思うが、4月14日に中止が発表され、4月24日に「TOKYO JAZZ +plus LIVE STREAM」開催が発表された。
「TOKYO JAZZ +plus LIVE STREAM」は、5月23日(土)・24日(日)とも20時から、東京JAZZ 公式YouTubeチャンネルで無料配信された。当初より出演を予定していた上原ひろみ、小曽根真、平原綾香、ディマシュ・クダイベルゲン、ジョシュア・レッドマンからの新規に作成されたソロ、リモートアンサンブルの動画および、ソロのライブ演奏が含まれている。また、コラボ企画として、上原ひろみとジョシュア・レッドマン、TRI4THとチャイナ・モーゼス、Ovall × Gotch、小田朋美 × 中山晃子などがあった。
この他、新たに加わった日本勢からの数々のリモートアンサンブル動画、コラボ動画が寄せられた。
当初、目玉であったハービー・ハンコックについては新規の動画はなく、メッセージと過去の動画の再生で対応し、特に過去の演奏の人気投票を反映しての動画再生で盛り上げた。チック・コリア、ボブ・ジェームス、リー・リトナー、ラリー・カールトンなど東京JAZZに縁が深いアーティストも、メッセージやこれまでの演奏を届けた。
この期間中に行われたネット上のジャズフェスティバルがいくつかあり、ブルーノートジャパンが企画制作した「JAZZ AUDITORIA ONLINE」、UNESCOとハービー・ハンコック・インスティテュート・オブ・ジャズによる「International Jazz Day Global Concert」などがあった。
それぞれに特徴があり比較がおもしろいのだが、リアルなジャズフェスティバルに近い感覚を目指しリアルタイム中継にこだわり質、量とも欲張り、観客とアーティストのコミュニケーションも可能にしていた「JAZZ AUDITORIA ONLINE」に比べると、「Tokyo Jazz +plus」は、”放送局の番組制作”に近いと感じた。綿密なタイムラインでたくさんのコンテンツを揃え、ライブと録画を織りまぜ、涙と感動のストーリーを用意。ハリー杉山と、セレイナ・アンのふたりのバイリンガルMCが暖かみのあるトークで繋ぐ。トークは内容も充実しインタラクティブで高く評価したい。確かに一般の視聴者が集中して観ることができる時間はせいぜい2時間。その中でさまざまな音楽に出会えて、しかもYouTubeコメント欄で共有感もあると言う点では成功したと言えるし、リアル公演が中止となっても存在感を見せて来年に繋ぐことができた。
ただ、別なオプションとしては予定されたアーティストを中止として、たとえば30〜40分ずつなど、十分時間を割き、ソロ演奏などの割合を増やしながらじっくり聴かせることもできたと思うし、ジャズファンとして私はそちらに惹かれる。過去のリアル公演とリモートアンサンブルを並べたら前者が盛り上がってしまうのは仕方がない。「Tokyo Jazz +plus」は番組として楽しめたものの、リアルを共有した興奮として「JAZZ AUDITORIA ONLINE」はよかった。
NHKの放送との連動としては、5月23日(土)午後には2017〜19年をNHK-FMで「プレイバック東京JAZZ 2017-2019」、23日夜には「東京JAZZ 2019」がNHK-BSPで放映された。NHK-FMのプレイバックも貴重な音源が多かった。この時間は、NHKホールからの中継をメインにした「今日は1日、東京JAZZ三昧」的に確保された放送枠であると容易に推測できる。とても残念なのは20:00〜22:00、YouTubeの本番に対して、NHK-FMが「プレイバック」をぶつけてしまったことだ。別会場と解釈できなくもないものの、相乗効果よりは分散になったと思う。
NHKと東京JAZZの位置関係の難しさや放送権などの大人の事情などがあり、ベストは尽くされたのだとは思うが、YouTube本場をラジオとテレビでポジティブに関連づけて使わないともったいないと思う。SNS全盛とはいえ、2020年のコンテンツを放送に載せればより多くの方に観てもらえるチャンスはあったかも知れない。YouTubeと電波の同時放送には、法律上、権利上の困難は想像できるが、ならばせめて裏表でぶつけることは避けて欲しかった。あと、結局「東京JAZZ」という呼称を多用しており、「TOKYO JAZZ +plus」は根付かなかったと思う。来年以降も分かり易く「東京JAZZ」とする方がメリットが大きいのではないだろうか?
ともあれ、COVID-19下の厳しい世の中で、幅広い層に幅広い音楽を届け、勇気付けた功績は大きく、困難な状況判断を経ながら、財務的にもたいへん厳しい中で充実したライブストリーミングを実現された関係者、アーティストに心より感謝し、来年以降の成功をお祈りしたい。
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MC: ハリー杉山、セレイナ・アン
小曽根真 Makoto Ozone featuring No Name Horses
No Strings Attached (Stay Home Version)
小曽根 真 (piano) エリック・ミヤシロ Eric Miyashiro(tp、flh)、木幡光邦(tp, flh)、奥村晶(tp, flh)、岡崎好朗(tp, flh)、
中川英二郎(tb)、マーシャル・ギルクス Marshall Gilkes(tb)、山城純子(b-tb)、
近藤和彦(as, ss, fl)、池田篤(as, fl)、三木俊雄(ts)、岡崎正典(ts, cl)、岩持芳宏(bs, bcl)、
中村健吾(b)、高橋信之介(ds)
小曽根真は、自身のビッグバンド No Name Horses 15周年を記念し、20歳のギタリスト山岸竜之介を迎えてロックに挑む『Until We Vanish 15×15』をリリースした。小曽根はオスカー・ピータソンから多大な影響を受けたことは知られているが、他方、ピアノよりもハモンドオルガンが出発点であり。高校生の頃、エマーソン・レイク&パーマー『展覧会の絵』をはじめ、プログレッシヴ・ロックに傾倒し、演奏もしていた。またメンバーのロック分野での経験も豊富であり、その積み重ねから生まれたときに重厚で自由な演奏が期待されるが、予定されていた全国ツアーは中止となり、再開が望まれる。(悠雅彦によるアルバムレビュー)
今回は、エリック・ミヤシロの経験と技術を活かしてリモートアンサンブルで<No Strings Attached>を演奏し動画を作成した。リモートでこれだけのグルーヴを共有できるということに小曽根とメンバーの実力が明確になる。
なお、4月9日〜5月31日までの53日間、毎晩21時より自宅からのミニコンサート配信「Welcome to Our Living Room」を続けていて、毎晩7,000人以上が集い、最終日はオーチャードホールから中継というサプライズに及びながら「シアターで会いましょう」という暖かいメッセージをもって閉幕した。
Chick Corea
Mirror Mirror
渡辺貞夫 Sadao Watanabe
花は咲く Hana Wa Saku
The Manhattan Transfer
Route 66
Fourplay with Larry Carlton, Lee Ritenour
Silverado
Still Dreaming with Joshua Redman, Ron Miles, Scott Colley, Dave King
Blues for Charlie
Joshua Redman(sax), Ron Miles(tp), Scott Colley(b), Dave King(ds)
ジョシュア・レッドマンは、父デューイ・レッドマン、ドン・チェリー、チャーリー・ヘイデン、エド・ブラックウェルによる『Old and New Dreams』(ECM1154, 1979)へのトリビュートである『Still Dreaming』プロジェクト。ドラマーはブライアン・ブレードに代わり、バッド・プラスのデイヴ・キングが加わる。オーネット・コールマンやキース・ジャレット、パット・メセニーにもつながる、マンフレート・アイヒャーがECM創設当時に深く関心を持っていたサウンドにも近い。
Hiromi
Kaleidoscope
上原ひろみは、スピード感と繊細さ躍動感に溢れたプレイで観客を魅了し、日本でもジャズファンに留まらず老若男女の幅広く層に愛されて東京国際フォーラムホールA(5,000人)をときに3日以上満席にし、ブルーノート・ニューヨークでの1週間公演を満席にする。ザ・トリオ・プロジェクトがアンソニー・ジャクソンの健康状態のため休止となったのは残念だが、最新アルバム『Spectrum』が大好評を得ながら、世界中をライブで駆け巡ってきた。今回は自宅でのソロピアノで<Kaleidoscope>を演奏し、ジョシュア・レッドマンとのコラボレーションで、<What a Wonderful World>を届けた。現状では完全なリモートセッションは難しいと思われるので、上原ひろみが先に収録し、ジョシュアが重ねたのだろうか?
Hiromi & Joshua Redman
What a Wonderful World
Larry Carlton
High Steppin’
Tigran Hamasyan
Someday My Prince Will Come
ティグラン・ハマシアンは、いまジャズからも、クラシックから、それ以外からも最も熱い注目を集めるピアニスト。調律されていないアップライトピアノでの演奏であることにみな驚かされたが、コメント上では、怒り出す人もいる一方、音程の崩れをさておいても不思議なグルーヴを魅せる<Someday My Prince will Come>に圧倒された。
JAZZ100 year’s project directed by Miho Hazama with The Danish Radio Big Band featuring Lee Konitz
Boplicity
2019年まで元気に第一線で活躍を続けながら、COVID-19で惜しくも亡くなったリー・コニッツを偲んで。この演奏については、中山拓海がリー・コニッツ追悼文で言及しているので、ぜひご一読いただきながら聴いて欲しい。サックスの運指が分かる方ならサックス上の調性に注目だ。
Sadao Watanabe BEBOP NIGHT
featuring Wallace Roney, Billy Childs, Jeff “Tain” Watts, Ben Williams
Solitude
Makoto Ozone Jazz Journey with Ellis Marsalis,Christian McBride, Jeff”Tain”Watts Photo by Kishin Shinoyama
Do You Know What It Means To Miss New Orleans
Ellis Marsalis(piano) 小曽根真(piano)
ブランフォード&ウィントン・マルサリスらの父、エリス・マルサリスがCOVID-19で亡くなったことをうけて、公開された、エリスと小曽根によるピアノデュオ動画。小曽根は父の小曽根 実とエリスが1934年生まれで同い年であり、バークリーでブランフォードと出会い生涯の親友となったことに運命を感じると言う。2012年にはデュオアルバム『Pure Pleasure For The Piano』を東日本大震災とハリケーン・カトリーナからの復興のためのチャリティ・アルバムとしてリリースし、ブランフォード・マルサリスもゲストで加わった。
続いて、小曽根の自宅から、エリスを偲んで、ピアノソロで<Emily>が演奏された。
Michel Camilo
Piece Of Cake
H ZETTRIO
みんなのチカラ
Bob James
BULGOGI
IL BOCCALONE
Lee Ritenour GUITAR SUMMIT with
Pat Martino, Dave Grusin, Dave Weckl, Tom Kennedy
4 on 6
Herbie Hancock’s Headhunters’05
Actual Proof
挾間美帆 Miho Hazama m_unit with surprising guest Lionel Loueke
Maiden Voyage Medley (Herbie Hancock / Arr. Miho Hazama)
-Maiden Voyage
-The Eye Of The Hurricane
-Dolphin Dance
挾間美帆(cond)、土井徳浩(as)、庵原良司(ts)、竹村直哉(bs)、Jonathan Powell(tp)、林育弘(French horn)、金子飛鳥(vn)、沖増菜摘(vn)、吉田篤貴(va)、島津由美(vc)、
香取良彦(vib)、佐藤浩一(p)、Sam Anning(b)、Jake Goldbas(ds)、Lionel Loueke(g)
ニューヨークを拠点に急速に世界中へ活躍の場を広げるジャズ作曲家・指揮者の挾間美帆は、自身のラージアンサンブル「m_unit」で音楽の冒険を続け、最新作『Dancer in Nowhere』がグラミー賞ノミネートとなった。2017年にデンマーク・ラジオ・ビッグ・バンド(DRBB)とともに初出場だったが、今ではDRBBの首席指揮者に迎えられている。2019年7月、ノースシー・ジャズ・フェスティバルの看板公演となる、名門メトロポール・オーケストラを指揮する大任を果たすなど、アメリカでヨーロッパでアジアで快進撃が止まらない。
今回は、ハービー・ハンコックの80歳を祝って、「処女航海」メドレー。これはラージアンサンブル版から、ラ・フォル・ジュルネTOKYOでの吹奏楽版、ラ・フォル・ジュルネ・ド・ナントでのビッグバンド版などにも拡張されたびたび演奏されている。リモートアンサンブルは演奏も素晴らしかったが、遊び心に溢れて緻密に構成された映像も素晴らしく、全プログラムのなかでも評判がとてもよかった。動画が公開されていなかったが、多数の要望に応えて6月30日に公開された。欲を言えばグラミー賞ノミネートとなった『Dancer in Nowhere』からの演奏も聴きたかった。
挾間美帆からのメッセージ「ハービー・ハンコックの80歳によせて」
【参考】 挾間美帆 Miho Hazama m_unit
Dancer in Nowhere (Miho Hazama)
【参考】 Young (Jong) Metropole Orchestra directed by Miho Hazama
Eye of the Hurricane (Herbie Hancock / Arr. Miho Hazama)
SUPER UNIT-Meet the Future-
Super Unit Special Session
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<<<<5月24日(日) / May 24th Day 2 >>>>
MC: ハリー杉山、セレイナ・アン ゲスト:柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
平原綾香 Ayaka Hirahara
A Night In Tunisia
平原綾香 Ayaka Hirahara
Feels Like Home
Vocal & Voice Percussion:平原綾香(Ayaka Hirahara)
平原まこと(sax) 則竹裕之(ds)、岡田治郎(b)、扇谷研人(p, keyb)、伊藤ハルトシ(g)
※平原綾香の動画は、YouTube 平原綾香公式チャンネルにある。
平原綾香は、ホルスト<惑星>から<木星>に日本語詞をつけた<ジュピター>でブレイクして以来、シンガーとして活躍し、クラシック曲、ジャズスタンダード、さらにミュージカルまで幅広く活躍してきた。もともとは洗足学園音楽大学ジャズ科でサックスを専攻していた。父の平原まことや仲間たちも迎えて「ジャズ・オデッセイ」と題したプレミアム・セッションも行ってきた。今回は強力なジャズミュージシャンを集めてのリモートセッションを披露した。
平原綾香 インタビュー
fox capture plan
Greatest Blue
Meshell Ndegeocello
Waterfalls
日野皓正 Terumasa Hino
TKNYO2
日野皓正 Terumasa Hino
Sakura no Hanabira
Ruri Matsumura
SWIPE feat. Ovall
Gotch
Stay Inside feat. Ovall
TRI4TH feat. China Moses
Love Theme From Spartacus
やのとあがつま Yano et Agatsuma
Kokiriko Bushi
矢野顕子(p,vo) 上妻宏光(津軽三味線)
H ZETTRIO
Ashitano Waltz
Snarky Puppy
Palermo
小田朋美 ☓ 中山晃子 Tomomi Oda ☓ Akiko Nakayama
Blanca
BartolomeyBittmann
Neptun
川口千里 SENRI KAWAGUCHI
See You Much Later
Roberto Fonseca feat. Danay Suárez
La Gracia Divina
GoGo Penguin
All Res
Dimash Kudaibergen
Samal Tau
Dimash Kudaibergen
S.O.S. d’un terrien en détresse
1994年、カザフスタン生まれの天才歌手ディマシュ・クダイベルゲンは、6オクターブに及ぶ驚異の音域と美声を日本の聴衆に披露し、YouTubeコメントでも驚きを持って迎えられ、世界中のファンからのおめでとう動画も感動を呼んだ。あらためてのリアル来日を望みたい。
【参考】 東京JAZZ 2019 ダイジェストビデオ
※当日、東京JAZZ 公式YouTubeチャンネルで無料配信され、その後、全体のアーカイブは残されていないが、各動画の多くを公式チャンネルで見ることができるので、プログラム順に並べた。これだけあるならつなげて欲しい。
投稿者の神野秀雄さんのコメントだが、NHKは視聴料で運営されている公共放送だから基本的にアーカイヴはすべていつでも視聴できるようにすべき。ただ、すべての動画を放映日ごとに一本にまとめるかは要検討。たとえば、独メルス・フェスのアーカイヴは4日間のアーカイヴを放映日ごとに切れ目なく視聴可能だが、タイムスケジュールを併催しているので特定のバンドを視聴したい場合はタイムコードで検索することができる。