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このディスク2021(国内編)My Pick 2021No. 285

#08 『Ayumi Tanaka Trio/ Subaqueous Silence』
『田中鮎美トリオ/ スベイクエアス・サイレンス―水響く―』


 

text by Ring Okazaki 岡崎凛

本作を国内アルバムのベストに選ぶにあたり、先に投稿したレビューに載せなかったことをいくつか補足したい。

本作リリースの前に、田中鮎美がウェブ誌などのインタビューで語った言葉は印象的だった。とりわけ、彼女が日本の水墨画に言及したことは興味深かった。水墨画の白い余白の部分や、墨のかすれを想像すると、トリオが意図するところが見えてくる気がした。

本誌JazzTokyo掲載の田中鮎美のデビュー盤『Memento』についての細田成嗣氏のディスクレビューは、このトリオが「東洋的なもの」をどう捉えているかについて明快に語っている。
細田氏が指摘するように、デビュー盤では、田中鮎美ではなく、ベーシストのクリスティアン・メオス・スヴェンセンとドラマーのペール・オッドヴァール・ヨハンソンの2人の演奏に、東洋的な表現に近づこうとする意図を感じた。
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-4146/

ではこのアルバムではどうなったかと言うと、3人とも、分かりやすい形での東洋的な音楽表現をしていないと感じた。日本の水墨画の余白に例えられるような、間(スペース)を重視した表現をしているにせよ、西洋的でも東洋的でもないサウンドが生まれている気がした。
ここに名前を出してよいか少し迷うが、例えばベーシストのウィリアム・パーカーが東洋的な要素を作品に加えるときは、尺八を使うなど、かなり分かりやすい形でのアプローチを取る。だが、田中鮎美は、そうしたアプローチはせずに、別の手法で自らの音楽ルーツに向き合っているのではないかと感じる。
ここに書いたことは、まだまだ検証が必要なことだが、こうしたことを考えながら、今後の田中鮎美トリオを見守りたい。

もう一つ書いておきたいことがある。それは、このアルバムの2曲目、〈黒い雨〉のことだ。このタイトルが広島の原爆投下の後に降った黒い雨を意味しているというのは、たいていの日本人が気づくことだろう。それ以外の解釈はないだろう。演奏を聴いても、スヴェンセンの弾くアルコベースの音から、深い悲しみという以上の、嘆きや叫びが聴こえてくる。
では、この曲の前後の〈Ruins〉,〈Ruins II〉は何の跡だろうか。邦題は〈夢の跡〉だが、自分はもっと具体的なものを想像する。

田中鮎美トリオ『 Subaqueous Silence』をについては、下記リンクを参照。

#2137 『Ayumi Tanaka Trio/ Subaqueous Silence』『田中鮎美トリオ/ スベイクエアス・サイレンス―水響く―』

 

 

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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