#03 Hiromi @City Winery Boston
2019年10月16日(水)@City Winery Boston, 80 Beverly Street, Boston, Massachusetts 02114, United States
text & photos by Hiro Honshuku ヒロ・ホンシュク
Hiromi Solo Piano
出不精の筆者が今年2019年に行ったコンサートを並べてみる。
- Jacob Collier (3/1 Boston)
- Robert Glasper (4/11 Boston)
- Chris Potter (4/26 Cambridge)
- Snarky Puppy (5/10 Providence)
- James Francies (6/5 NYC)
- 宮本とも子オルガンリサイタル (8/20 Boston)
- Theo Croker (9/19 Cambridge)
- Henrique Eisenmann (9/20 Cambridge)
- Alexandre Carvalho (9/30 Cambridge)
- Hiromi (10/16 Boston)
- Sergio Mendes & Bebel Gilberto (Boston)
- Chick Corea (10/20 Boston)
- Dee Dee Bridgewater (10/30 Boston)
- Robert Glasper (12/13 Cambridge)
グラスパーは2回行ったことになるが、同じ「トリオ+1」フォーマットといえ、メンバーも内容もかなり異なり非常に楽しませて頂いた。グラスパーは何度見ても新鮮で、インスピレーションを与えてくれる。この「トリオ+1」の1だけは同じメンバーで、その名もDJ Jahi Sundance(DJ・ジャヒ・サンダンス)。彼はもうともかく言葉で説明できないほどすごかった。ちなみに4月のグラスパーのベースはDerrick Hodge(デリック・ホッジ)、ドラムはChris Dave(クリス・デイヴ)、どちらも大のお気に入りのゴリゴリグルーヴ系だったのだが、先週12月13日の公演ではベースがVicente Archer(ヴィチェンテ・アーチャー)、ドラムがDamion Reid(ダミオン・リード)。どちらも筆者は存じ上げなかったのだが、これがまた顎が落ちるほどすごかった。4月の二人と全く正反対で、静かに押し殺したグルーヴで信じられない程のタイム感をお見舞いしてくれたのであった。失神するかと思った。こういうリズムセクションを備えて自由に創造するグラスパー、ミュージシャン冥利に尽きると思う。なんて羨ましい。
筆者の大のお気に入りのシオ・クローカー(Theo Croker)も思いっきり楽しんだが、やはりレギュラーメンバーのマイケル・キングがピアノにいなかったのが残念だった。引き換えにとんでもなくすごいベーシスト、Russell Hall(ラッセル・ホール)に出会ったのは収穫だった。この時のインタビュー記事を是非お読み頂きたい。
Jacob CollierやSnarky Puppyのライブも忘れられないほど楽しんだが、意外性という意味で筆者が2019年の「このパフォーマンス」に選んだのはHiromiだ。HiromiのAnthony Jackson(アンソニー・ジャクソン)のベースとSimon Phillips(サイモン・フィリップス)のドラムとの演奏にはある程度親しんでいたものの、ライブで見るのはこれが初めてであった。しかも今回は筆者が馴染みのないHiromiのソロピアノだ。
まずオープニング、彼女は新譜『Spectrum』の1曲目、<Kaleidoscope>で幕を開けたわけだが、まさかあのレコーディングと同じサウンドを聴かせてくれるとは夢にも思わなかった。なぜなら、レコーディングは音処理がしてあると筆者は思っていたからだ。生の演奏であんな音色を作り出せるHiromiの凄さにまず感嘆した。そしてコンサートを通して彼女のピアノの音色の魅力を堪能した。筆者の母親はクラシックのピアニストであったせいか、ピアノの弾き方にはいつも気を引かれる。まず叩くピアニストは苦手だ。正確には、叩いて音が鍵盤で止まってしまうピアニストが大の苦手なのだ。ピアノは打楽器なので、叩くのはそれで良いと思う。だが、ガンガンゴリゴリとグルーヴしている時のその叩いた音は、鍵盤の下から床に向かってスコーンと抜けて欲しい。チック・コリアやリッチー・バイラークなどがその綺麗に抜けるいい例だ(キース・ジャレットはピアノを打楽器として扱わないので例外)。そうではなく鍵盤でぐちゃっと止まってしまう音はどうにも受け付けない。このライブでのHiromiの音は見事に抜けていた。まるでキラキラ光る筋が床に向かって噴射しているようであった。いまだにあの光景が目の裏に焼き付いている。これはHiromiは変化した、と思わせるステージだった。新譜『Spectrum』からさらに浄化したと感じさせてくれた。
新譜『Spectrum』を聴いてから行ったこのコンサートは期待以上のものだった。筆者にとってHiromiの魅力は、マイケル・ブレッカー同様超絶技巧のテクニックの7割の力で自由自在、自由奔放にインプロを発展させる。ただ、これだけではお腹いっぱいになってしまう。それに対し彼女のトリオは、アンソニー・ジャクソンとサイモン・フィリップスというポップス/ロック系のスタジオミュージシャンのタイトなタイム感と、彼らのこれまた超絶技巧の7割使用演奏者としての余裕で、3人が3人とも自由自在に遊んでいる、それがHiromiのライブの魅力だ。特異なのはHiromiのタイム感だ。アジア人離れしたグルーヴ感だが、アメリカのジャズにはない、しかしラテンとも違うオン・トップ・オブ・ザ・ビートのタイム感だ。ああそうか、オスカー・ピーターソンに似ているんだ、と今気が付いた。何にしても彼女のタイム感はあのリズムセクションだから映えるのであり、『Spectrum』で披露したソロでは、オスカー・ピーターソンを聴くのと同様疲れるかもしれない、と危惧した。だが実際ライブを見ると、そんなのはどうでもいいくらい楽しかった。これはひとえに彼女の音楽の楽しみ方がこちらにもひしひしと伝わって来るからだと思う。ともかく行ってよかったと思わせてくれるライブであり、また長く心に残る一夜であった。
かなり後ろの席からiPhoneを望遠にした写真で申し訳ないが、少しでその様子が伝わればと思い、ここに掲載する。