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このディスク2020(国内編)No. 273

#04 『Great 3:菊地雅章|ゲイリー・ピーコック|富樫雅彦/コンプリート・セッションズ1994』
『Great 3:Masabumi Kikuchi|Gary peacock|Masahiko Togashi/Complete Sessions 1994』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

新型コロナによるパンデミックという現世代では初めての異様な状況下、コンサートやライヴ、自宅からの配信などにさまざまな工夫が凝らされ、演奏者側からの発信努力が続けられている。パンデミックは第3波と思われる中にあり、海外ではワクチンの摂取が始まったとはいえ、この先の予測を立てることはほとんど不可能に近い。
国内のCDメイカーにも感染者が出たり、リモート(自宅)勤務などで、通常の業務からはほど遠い状態が続いているようだ。そんな中でキング・インターナショナル社(KII) の健闘が目に付いた。KIIはキング・レコードの子会社で今年創立30周年、輸入盤を専門に扱っていたが近年自社制作盤をカタログに加えて来た。
クラシックが中心のなかで、今年はジャズ部門で Nadja 21とnagaluレーベルが新設され、Nadja 21からは9月に阿部薫の1971年の東北セッションの完全版(CD3枚組)と 12月には Great 3(菊地雅章p、ゲイリー・ピーコックb、富樫雅彦perc)の1994年のセッションの完全版(CD4枚組)をリリース。nagaluはECMからデビューしたドラムスの福盛進也のレーベル で、12月に福盛の2枚組アルバム『Another Story』をリリースした。
Nadja 21は僕が 70年代から80年代にかけて旧トリオレコードで運営していたNadjaレーベルをアップデートしたもので、かつてインディ系レーベルで発売されたもののそのまま埋もれてしまっているアルバムや発売の機会に恵まれなかった音源を次世代に遺すべくリリースしていけたらと念願している。あるいは新録音の機会に恵まれることもあるかも知れないが、発信のプラットホームを用意できたことは素晴らしく大切に活用させていただこうと思っている。
さて、今年のMy Pickは上記3作のいずれも甲乙つけがたいが、若い福盛はまだまだこれからの人材なので、手前味噌になるがゲイリー・ピーコックの追悼盤ともなっている Great 3を取り上げたい。発売にいたった奇跡的な経緯や、内容については既出の別稿に譲りたい。絶頂期にあった3者がテーマから予断を許さない展開を見せるスリルと傑出した内容に何度聴いても惹き込まれるのだ。悠雅彦氏がライナーで喝破した「フリーにしてフリーに非らず、フリーに非らずしてフリー」という塀の上を歩くスリルがまさにジャズの醍醐味そのものといえよう。

https://jazztokyo.org/column/inaoka/post-59164/
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稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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