#07 NYC Winter JazzFest 2020 – Mark Guiliana etc NYCウインター・ジャズフェスト 2020〜マーク・ジュリアナ他
(Brooklyn Marathon 2020 PVとして、Manhattan Marathon 2020の動画の一部を収録)
Text & Photo by Hideo Kanno 神野秀雄
●2020年、開催できたフェスティヴァル
2020年、COVID-19感染拡大で世界中のライヴが停止し、ミュージシャンの移動が止まったのが3月。その2ヵ月間に「NYC ウインター・ジャズフェスト 2020」(WJF)と、「ラ・フォル・ジュルネ・ド・ナント2020〜ベートーヴェン」(LFJ、レポート掲載)を訪れることができ、充実した内容で、当年最高の。特にWJFではマーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット&グレッチェン・パーラト、LFJでは、21歳のピアニスト藤田真央に圧倒された。
●マンハッタン・マラソン
「NYC・ウィンター・ジャズフェスト」(WJF)は1月上旬のニューヨークのヴィレッジを中心とするエリア、およびブルックリンで開催され、約20会場で、約150グループ、600人以上のアーチストが集まる世界最大級のジャズ・フェスティヴァル。「密」を絵に描いたようなフェスで、2021年は開催はオンラインも含め目処が立たない。2022年以降も困難が予想されるが、ニューヨークの最先端かつ多様な音楽を切り取り”現在進行形のジャズ”を追う上で、世界で最も価値があり最もお得なジャズ・フェスティバルとしてぜひ存続して欲しい。なお日本から関係者が観に来るのはほぼ見たことがない。
2020年は1月8日(水)〜18日(土)の開催だが、目玉は1月10日(金)〜11日(土)にヴィレッジ周辺11会場で開催された「マンハッタン・マラソン」。約120バンド、約500人以上のアーティストが一同に会し、1晩約60ドル、2晩で約100ドルのパス(購入時期により変動)で観放題となる。筆者はこれを”現在進行形のジャズ”の定点観測としている。1月17日(金)には同様の「ブルックリン・マラソン」も追加された。マラソンの1会場として、2016〜2019年には「ECMステージ」が継続してきたが、今回は「ECM Records at 50」開催直後でもあり当フェスでの開催はなくなった。
●アーチスト・イン・レジデンス=マーク・ジュリアナ
「WJF 2020」のアーチスト・イン・レジデンスは、ドラマーのマーク・ジュリアナ。ニュージャージー出身の39歳。最先端サウンドをドラマーが牽引している感がある中で、その筆頭がマークだ。機械的な高速ドラミングから繊細なインタープレイまでを叩き出す。ドラムプレイに留まらずサウンド全体に、カルチャーにまで最も大きな影響を与えるドラマーとして順当なチョイスだろう。ただ、皮肉にもこの直後カリフォルニアに移るということだった。1月9日のビート・ミュージックに始まり、1月18日、スペシャルゲスト多数を招いてのビート・ミュージック・インプロヴィゼーションズまで(いずれもBIG YUKIが参加)、8イベントを行ったが、マークは「ビート・ミュージックとジャズ・カルテット、つまりエレクトリックとアコースティックが二つの柱で、他プロジェクトはこの周辺に位置します。多彩さを誇るのではなく、根本は同じところにあります。」と事前に語っていた。
Mark Guiliana Jazz Quartet and Gretchen Parlato (1/10 21:00 Le Poisson Rouge)
Mark Guiliana (ds), Gretchen Parlato (vo), Shai Maestro (p), Jason Rigby (ts), Chris Morrissey (b)
Unholy Row (1/11 20:30 The Dance)
Mark Guiliana (ds)、Jason Lindner (keyb)、Tim Lefebvre (b)
Mark Guiliana BEAT MUSIC (1/9 Bowery Ballroom)
Mark Guiliana (ds, electronics), Chris Morrissey, (el-b, electronics)
BigYuki (keyb, electronics), Nick Semrad (keyb, electronics)
©Adrien H. Tillmann
マンハッタン・マラソンでは、マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテットに、パートナーのグレッチェン・パーラトを加えて登場。これがWJFでも最も素晴らしく、感動した公演となった。ピアノはシャイ・マエストロで、マークとシャイはアヴィシャイ・コーエン(b)・トリオからジャズ・カルテットまでともにする盟友だ。ジェイソン・リグビーとクリス・モリッセイも最も信頼する仲間で、マークをして完全アコースティックでの挑戦がジャズ・カルテット。そのときに先鋭的に、ときに穏やかな空気に、グレッチェンの多彩な声とグルーヴが溶け合い、シャイ・マエストロらとの繊細なやりとりから、本当に美しく魂を揺さぶる音楽が紡ぎ出される。これだけで冬のニューヨークまで来た甲斐があったと思うほどだった。
WJFがデビューライヴとなった、「アンホリー・ロウ」。ジェイソン・リンドナー、ティム・ルフェーブルとのトリオ、つまりダニー・マッキャスリン・グループのダニー抜きユニットだ。最重要公演の一つであるビート・ミュージックは観ることができなかったが、公式写真から紹介させていただく。最終日18日のビート・ミュージック・インプロヴィゼーションもあわせていずれもBIG YUKIが参加した。
Mark Guiliana interviewed by Mike Greenhaus Live at NYC Winter Jazzfest
FLOR – Gretchen Parlato
Mark Guiliana Jazz Quartet, Live from Jazz St. Louis (March, 2019)
Mark Guiliana’s Beat Music (Live) JAZZ NIGHT IN AMERICA
●ベッカ・スティーヴンス
Becca Stevens Band (1/11 Le Poisson Rouge)
Becca Stevens (g, charango), Jordan Perlson (ds), Michelle Willis (keybs), Chris Tordini (b),
Jan Esbra (g)
ベッカ・スティーヴンスは、クラシックギターから始め、ニュースクール大学ジャズ専攻に学びヴォーカルと作曲を学び、そこからの人脈もあり、これまでスナーキー・パピーやブラッド・メルドー、ジェイコブ・コリアーなどとも共演、2019年7月には、ノースシー・ジャズ・フェスティヴァル 2019でメトロポール・オーケストラに、挾間美帆の指揮でリズ・ライトとカミラ・メサとのトリプルヴォーカルで出演したが、挾間が特にベッカの<Regina>を選び編曲したのも注目だ。その経歴もあってのジャンルを超越した魅力的な楽曲の数々に惹き付けられる。ベッカの表現力豊かなヴォーカルが、バンドの豊かなサウンドで大きな広がりを魅せる。
Becca Stevens – Never Mine (Official Music Video)
Live from Winter JazzFest
●テオ・ブレックマン
Theo Bleckman’s Mixtape (1/10 18:15 Subculture)
Theo Bleckman( vo, effects), Mike King (p), Chris Tordini (b), Ulysses Owens (ds)
テオ・ブレックマンは、「WJF2016-ECMステージ」では、シャイ・マエストロやベン・モンダーとともに『Elegy』(ECM 2512)のバンドで参加していた。また、テオは、2019年、挾間美帆指揮のWDRビッグバンドと共演している。「ミックステープ」は、時代と地域を越えて混ぜ合わせながら新しいサウンドを構築するプロジェクト。グレゴリオ聖歌、ビートルズからヒップホップまでを混ぜて統合し美しい声楽作品を創り出した。
Theo Bleckmann – “Dido’s Lament/Teardrop” – MIXTAPE (2019)
Theo Bleckmann feat. by WDR Big Band: Time River
●ダニー・マッキャスリン・バンド
Donny McCaslin Band (1/11 SOB’s)
Donny McCaslin (ts, vo), Ryan Dahle (g, vo), Rachel Eckroth (keyb, vo), Tim Lefebvre (b, vo), Zach Danziger (ds)
ダニー・マッキャスリン・バンドは、これまで、マーク・ジュリアナ、ベン・モンダー、ジェイソン・リンドナー、ティム・ルフェーブルで活動を続けて来たが、顔ぶれはかわりつつも、デイヴィッド・ボウイの影響下でボーカル主体で、重くグルーヴするバンドサウンドにブロウするサックスプレイを繰り広げる。
Reckoning – Donny McCaslin (Official Music Video)
●ジョーイ・アレキサンダー・トリオ
Joey Alexander Trio (1/10 Webster Hall)
Joey Alexander (p), Kris Funn (b), Kendrick Scott (ds)
インドネシア出身でクインシー・ジョーンズが見出だした16歳の神童ピアニスト、ジョーイ・アレキサンダー。今回はオーソドックスなスタイルではあるが、何よりもここまでピアノを最高に心地よく鳴らすということに感銘を受けた。観客もトリオの素晴らしい演奏に湧いていた。
●ザ・クッカーズ
The Cookers (Subculture)
Billy Harper (ts), Eddie Henderson (tp), David Weiss (tp), Donald Harrison (as), George Cables (p), Cecil McBee (b), Billy Hart (ds)
最近の音に寄りがちなWJFだが、巨匠の公演もいくつかあり、そのひとつがザ・クッカーズで、ジョージ・ケーブルス、セシル・マクビー、ビリー・ハートらを生で聴けたのは貴重だった。
●ロバート・グラスパー・エレクトリック・トリオ
Robert Glasper Electric Trio (1/11 Webster Hall)
Robert Glasper (p, keyb), Burniss Travis II (b), Jason Tyson (ds), DJ Jahi Sundance (DJ)
Special guest: Terrace Martin (keyb), Yeeba (vo), Taylor McFerrin (vo), Madison McFerrin (vo), Common (rap) 他
マンハッタン・マラソン最終日の最大会場ウェブスター・ホールはロバート・グラスパー・エレクトリック・トリオ & DJジャヒ・サンダンス。事実上のトリでスタンディングの会場が満席となった。テラス・マーティン、イエバ、テイラー&マディソン・マクファーリンなどスペシャルゲストが惜しげもなく登場していき、ラッパーのコモンの登場で絶頂に達した。心地よいグルーヴに次第に観客がリラックスしながら熱狂して行き、COVID-19感染拡大を前にしたニューヨークに脈打つパルスと空気感を認識するところとなった。居合わせた多くの観客にとってもCOVID-19前を象徴する思い出に残ったと思う。
Manhattan Marathon – Jan 10, Friday
Manhattan Marathon – Jan 11, Saturday
Brooklyn Marathon – Jan 18, Staurday
ECM Stage – 2016
Manfred Eicher on ECM, America and Winter JazzFest