#04 『想いの届く日』『Ⅱ』『ファイブ・ダンス』
text by Keiichi Konishi 小西啓一
“JazzTokyo” 恒例の今年の1枚。国内盤の方だが、ジャズとはあまり関係のないように思える、ジャンルレスだが素敵な1枚と、前途洋々な若手女流ジャズ奏者、乾坤一擲の痛快デビュー・アルバム、さらにベテランと中堅が結集した新ユニットの充実の1作、この3作の内どれを選ぶかで悩んだが、結局今回はジャンルレスな1枚を挙げることにした。クラシックをベースに様々な世界で、軽やかで縦横な活躍を見せるメゾ・ソプラノ歌手・波多野睦美と、バンドネオンという難楽器で本舞台のタンゴから、他領域へと軽やかで鮮やかに越境する北村聡。この2人のデュオ・アルバム『想いの届く日』(Sonnet MHS-007) がお勧め作品。タンゴの代表的歌手カルロス・ガルデルの銘品をタイトルにしたもので、ピアソラのナンバー等も3曲ほど収録され、一見この領域のアルバムといった色合いも濃いが、カバーする領域はバロックや中南米、ポップスなど多分野に渡り、”見えない境目は時おり音楽を遮る大きなものに感じられる。身体と楽器、奏者と音楽、国、人と人。あらゆる境目を超え再びの出会いを…”と記す、波多野の言葉に象徴される如く、自由・闊達で境目のない出色な音楽が現出される。期待の鬼才、北村もその境目を軽々と越境する刮目の仕事振り。
そして残りの2枚だが、1枚は最注目の弱冠21才の女流トロンボーン奏者、治田七海のデビュー作『Ⅱ』(Music Stylist)。デビューで “Ⅱ” とはこれ如何に…と茶々のひとつも入れたくなるが、内容は “ジャズ道” 一途といった意欲横溢の感涙もの。札幌のジャズ・サークルから中学生時代にプロとして巣立ったこの大器の元に、吉本章紘、石若駿などの J-ジャズの “今” を担う若い気鋭プレーヤー達が集い、ネオ・ハードバップからコンテンポラリーまで、全編縦横に疾駆する。その雄姿は実に爽快で、J-ジャズのこれからを明快に占う1作と言える。
そして3作目は、J-ジャズの屋台骨を背負い続けて来たベーシスト、鈴木”チン”良雄が、峰厚介や本田珠也などベテラン~中堅の5人の “ジャズ漢” を伴って結成した新ユニット、”The Blend“ のデビュー作『ファイブ・ダンス』(Friends Music)。大学時代からのクラブ仲間で友人の鈴木”チン”良雄のこの2枚組作品。彼のジャズへの並々ならぬ熱情を全力注入した作品で、PRなど色々と協力したぼく自身にとっても、思い入れの深い1作でもある。その力作が “J-ジャズの底力を知ることの出来る…” として、各方面で好評だったのは嬉しい限り。
鈴木そして治田、このベテランと新鋭2人の新たな旅立ちを記した作品は、J-ジャズの “今” を知る格好の “道標” とも言えるもの。
♫ 詳細は;
『鈴木良雄=The Belnd/Five Dance』by 小西啓一
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-75282/