#05 『齋藤徹+長沢哲 / Hier, c’était l’anniversaire de Tetsu.』

閲覧回数 1,431 回

Text by Akira Saito 齊藤聡

OTOOTO

Tetsu Saitoh 齋藤徹 (contrabass)
Tetsu Nagasawa 長沢哲 (drums)

Disc 1: 01. 1st set
Disc 2: 02. 2nd set
*03: Happy Birthday, dear Tetsu-san

mastered by Toshimaru Nakamura
recorded at OTOOTO on October 28, 2017
photo by Akira Saito, OTOOTO
designed by Hiromi Kimura and Seiji Kimura
special thanks to Reiko Saitoh and Mai Saitoh

長崎在住の長沢哲が故・齋藤徹との出会いによって音楽への観念を大きく発展させたことは間違いないところだろう。それがどのような影響であるかについては、かれの音自体からは判らないところではあるし、本人に敢えて訊くこともしていない。齋藤が逝去して半年近くが経った2019年10月26日、千葉県のcooljojoにおいて長沢のソロ演奏を行う機会が設定され、かれは演奏前に「徹さんの気配を感じながら演奏する、鳴らす音のすべてを徹さんに捧げる」と、また演奏後には「徹底的に自身の音楽を演ることで徹さんへのご恩返しとしたい」と、観客を前にして話した。それは演奏への姿勢や誠実さということだと考える。筆者の頭には「integrity」ということばが浮かんでいる。

このアルバムには、ふたりの初共演の音がすべて収められている。もとより入院中の病院で長沢のソロCD『a fragment and beyond』を聴いた齋藤が面識のない長沢に連絡し、実現した即興のギグだった。長沢が最初から「徹底的に自分の音楽を演る」ことができたわけではないかもしれない。柔らかいマレットを使い、まずは手探りで齋藤と共有できる音世界を作ろうとしたことは推察できる。だが、その手探りというプロセス自体が既に音楽の一部となっていたのだ。体調がひどく悪いはずの齋藤が、そのプロセスを是として音を重ね、結果としてすばらしい記録が残された。

筆者がその場で緊張感とともに捉えたことについては、拙著『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』(カンパニー社)に盛り込んでもいて、敢えてここで繰り返すことはしない。驚かされるのは、録音媒体を繰り返し聴くと、その都度異なる印象が「やってくる」ことだ。長沢の研ぎ澄まされた打音、齋藤の広く豊穣な弦の震え。音の力ということだろう。

セカンドセットにおいて、齋藤は、マイルス・デイヴィス/ギル・エヴァンス『Sketches of Spain』で演奏された<Saeta>を引用してみせる。わかってはいても感極まってしまう。

ところで、タイトルのフランス語は「昨日は徹さんの誕生日でした」という意味である。演奏の前日、齋藤は62歳を迎えた。本盤には、セカンドセットの演奏後しばしの時間を置いてから、居合わせた者たちが歌った<Happy Birthday>が収録されている。間の無音時間が長いことを不思議に思う向きもあるかもしれない。実は、無音も、歌も、齋藤の年齢に合わせて62秒の長さなのだった。演奏の場を提供し録音したOTOOTOが本盤を制作するにあたり、タイトルも、お祝いの様子を収録したことも、長さの設定も、このかけがえのない作品に寓意を含ませたいという思いを込めたものだという。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

コメントを残す

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。