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R.I.P. パレ・ダニエルソンNo. 315

さようなら。さすらいの業師ベーシスト Palle Daniellson by 石井 彰

Text by Akira Ishii 石井 彰

追悼 Palle Daniellson (1945-2024)

スウェーデンの名ベーシスト、Palle Daniellson氏が5月に亡くなられたとの知らせを聞き、寂しい想いをしている。
時は止まらないから人間、命あるものはこの世を全うし去って行く。
運命にあるのはわかってはいるのだけど。

Palle Daniellsonさんのプレイを最初に耳にして意識したのは、Keith Jarrett”ヨーロピアン・カルテット”の諸作だ。というか、あとPeter ErskineトリオとJan Garbarekカルテットの作品を聴いたことがあるくらいなのであまり彼の事を深く語れる資格はない。

ヨーロピアン・カルテットはKeith Jarrett本人も言っているように、自分とJan Garbarekの為に書かれている音楽。しかし、ドラマーのJon Christensenと共に北欧の強力なリズムセクションでカルテットを唯一無二の魅力あるものにしているPalleさん。

彼は派手なテクニックを見せるベーシストではない。バンドでの低音はスポーツ選手で言うならば”足腰”。強力な下半身があってこその自由な上半身の動きができるっていうものだから。
Palleさんのプレイは正に相撲の力士の”摺り足”みたいなものだと思う。ベースでしか出来ない低音部で音楽に揺さぶりを掛け、音楽の行方を操り、ここぞというところで足技をかける。
ベーシストの醍醐味だろうと思う。

Palle Daniellsonさんのプレイで印象に残っていて大好きなのが、アルバム『My Song』の中の「Tabarka」という曲。穏やかで抒情的な音階的メロディーが印象に残る曲。パルスはあるのだが明確な小節感がない浮遊している曲。サックスソロになって混沌とした場面にベースが突如メインテーマを弾き始める緊張感。とっさにピアノは1音を連打し、ベースのメロディーを引き立たせる。ベースのメロディーが終わるや否や今度はピアノがメインテーマをハーモニーを変えて見事な対位法的パートが即興的に創造される。素晴らしいプレイ、切り込み方だなあと思って止まない。

実は一度だけ生で相当至近距離でPalle Daniellsonさんのプレイを聴いたことがある。1980年代半ば、大阪の北新地のポケットというピアノラウンジ。そこでMichel Petrucciani (p)トリオのライブがあった。メンバーがPalle Daniellson(b),Eliot Zigmund(ds)。若い私にとっては刺激的なライブだったのは確かだが、ライブ後ちょっとした嫌なことがあり記憶を封印していた。しかし、今思えば、凄いメンバーのライブだった。強靭な肉体でグイグイ弾きまくるPalleさんの姿が思い出される。

Palle Daniellson 享年77。素晴らしい音をたくさん残して下さりありがとうございます。大変お疲れ様でした。私はその強い意志で派手ではないがクリエイティブな精神で果敢に音楽の懐に飛び込む勇気あるプレイを学びます。これからたくさんの貴方の音楽を聴ける楽しみを持って。どうぞ安らかにお休み下さい。


石井 彰 いしいあきら : pianist
ピアニスト。神奈川県生まれ。大阪音楽大学作曲科在学中、Bill Evansを聞き衝撃を受け、ジャズピアニストを志す。卒業後、関西で活動を始め、1991年拠点を東京へ移す。1998年より2018年まで20年間日野皓正(tp)クインテットに参加。故日野元彦氏からも多大な影響を受けた。2001年には、初リーダーアルバム『Voices in The Night』を発表後、EWEより『That Early September』(Duo with Steve Swallowリ等、リーダーアルバム4枚発表。2011年レーベル移籍し(studio tlive records)、『a〜inspiration from muse』(solo piano)『Endless Flow』(piano trio)『Silencio』(chamber music trio)3枚のリーダー作をリリース。現在は”Chamber Music Trio”須川崇志(vc)杉本智和(b)、”Quadrangle”石井智大(vn)水谷浩章(b)池長一美(ds)という弦楽器フィーチャーの2のリーダーバンドを持つ。吉田美奈子(vo)との邂逅は新たな潮流を生み出し、『柊』という現在進行形で進化深化している。音楽教育面では大阪音楽大学ジャズ科准教授として、長年教鞭を取り続けている。著書は『超絶ジャズピアノ』(リットーミュージック)『The Jazz道』(ヤマハミュージックエンタテインメント)がある。
石井 彰ウェブサイト

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