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Monthly EditorialFrom the Editor’s Desk 稲岡邦彌No. 294

From The Editor’s Desk #9 「ジャズ・ミュージアム・トライアングル」

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

World Jazz Museum 21 (WJM21) については前々回 (2022年4月30日付#7「ワールド・ジャズ・ミュージアム 21 開設の意義」)で少し詳しく触れさせていただいた。その後、ニュース記事「第3回 楽都仙台と日本のジャズ史展」では、WJM21に加えて、盛岡の「秋吉敏子ジャズ・ミュージアム」と横浜・野毛の「ジャズ・ミュージアムちぐさ」の開館予告をお知らせした。「第3回 楽都仙台と日本のジャズ史展」の一部に、7. 盛岡・伊香保・横浜 ジャズ・ミュージアムの開館を祝して〜2022年11月 秋吉敏子ジャズ・ミュージアム開館記念展が含まれていたからだ。
今回は、さらに「ジャズ・ミュージアム・トライアングル」のタイトルで伊香保・盛岡・横浜のジャズ・ミュージアムを俯瞰してみようと思う。なにしろ、“ジャズの本場” アメリカでさえなし得なかったエポック・メイキングな出来事だからだ。
最初に産声を上げたのは、群馬県吉岡町のその名も World Jazz Museum 21 (WJM21) だ。昨年 (2021年)11~12月に日本ルイ・アームストロング協会の協力を得て「ルイ・アームストロング生誕120年 没50年」に因んだサッチモ中心の写真展と、外山喜雄とデキシーセインツの館内ライヴを開催、メディアにも大きく取り上げられた。今年の1~3月は冬季休館、4月から8月まで5ヶ月間にわたりほぼ月替わりで企画展を開催、写真家によるトーク・ショーとライヴ演奏を交えた。WJMの場合、ジャズを中心とする音楽写真や資料の収集、管理、公開を趣旨として設立されたが。現在までのところ基本は写真展で内外の写真家のシルヴァー・プリント(銀塩)やデジタル・プリントを展示しながら、出展作家のトーク・ショーやバンドの実演を披露している。その中から、早くも今年6月26日に催された中牟礼貞則&三好 “3吉” 功郎ギター・デュオのCD化が決まった。この事実は、WJM21の存在意義を拡散する大きな手立てとなるだけではなく当事者にとってはさらに責任を認識する契機になるに違いない。
10月1日から31日まで1ヶ月にわたり開催される「ECM feat. Keith Jarrett 写真・資料展」は、(社)日本ジャズ音楽協会の後援とユニバサール・ミュージックの協力を得て実現したもので、新作『ボルドー・コンサート』をリリースし、リハビリに励むキース・ジャレットに捧げられている。出展カメラマンは Roberto Masotti、David Tan、Joji Sawa、清水一郎、田中達也、米田泰久、石井隆、菅原光博、さらに顕子夫人経由でキース・ジャレットの自筆署名入り秘蔵写真も展示されている。エントランスを入ってまず目を引くのはRoberto Masotti 1982年製作の B全サイズのECMカレンダーだ。ロベルト・マゾッティは70年代のECMアーチストの写真を撮り続けたミラノ在住のカメラマンだが、惜しくも昨年白血病のため亡くなった。マゾッティはキース・ジャレットの写真集も刊行しており、キースとは縁が深い。NYのディヴィッド・タン、清水一郎、石井隆もすでに鬼籍に入っており、貴重なオリジナル・プリントの展示と言えよう。
WJM21の10月のライヴは9日(日)、新作ソロCD『カーラ・ブレイが好き』が話題の渋谷毅 (p)とパリから帰国中の 仲野麻紀 (as, cl, vo) のデュオが予定されている。初共演ということだが、伊香保近郊という自然に恵まれた環境の美術館で “日本のエスプリ”と”パリのエスプリ”が触れ合いどのような音楽が生み出されるのか期待大である。
次いで、今月10月に開館を予定してするのは盛岡の「秋吉敏子ジャズ・ミュージアム」。世界一の秋吉敏子ファンを自認するジャズ喫茶ジョニーのオーナー照井顯の執念の賜物と言っていいだろう。先日、照井さんが「秋吉敏子の部屋」を紹介する写真をSNSで公開していたので、開館も間近と思われる。11月には、92歳になる穐吉敏子 (p)が帰国、マンデイ満ちる(vo.fl)、ニキータ(ts)を交え、母、娘、孫による世界初となるトリオでのコンサートも予定されているという。
2023年3月の開館を目指しているのは横浜・野毛の「ジャズ・ミュージアムちぐさ」。吉田衛氏が日本最古のジャズ喫茶「ちぐさ」を拠点に収集したアーカイヴを展示する。
「日本のへそ」と言われる群馬(伊香保)を中心に西の横浜と東の盛岡を結ぶトライアングルに世界でも初めてのジャズ・ミュージアムが同時に開館する、これは紛れもない日本ジャズ史上最大のエポックに違いない。ミュージアムの開設、維持、運営には相応の原資が必要である。クラウドファンディングによる資金調達にも限度があるだろう。何より自治体や企業の継続的なサポートが待たれるところだ。

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ワールド・ジャズ・ミュージアム21の開設の意義
https://jazztokyo.org/monthly-editorial/from-the-editor-desk/post-76782/
「第3回 楽都仙台と日本のジャズ史展」
https://jazztokyo.org/news/post-79848/

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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