#1629 『Jessica Ackerley / A New Kind of Water』
Text by Akira Saito 齊藤聡
self-released
Jessica Ackerley (g, compositions)
Sarah Manning (sax)
Mat Muntz (b)
Stephen Boegehold (ds)
1. Space, Frame, Contain
2. A Meadow Land, Toward a Closing Door
3. Dotted
4. Trifold
5. Sfumato
6. An Elephant Bathing on a Friday Afternoon
7. Contain [Drum]
8. Partial Scene
Recorded on May 24th, 2019 at B.C. Studios.
Mixed by Martin Bisi
Mastered by Jonathan Schenke
Artwork by Jessica Ackerley
Liner Notes by Robert Grieve
ギターソロ『Pain』(2016年)、トリオ『Coalesce』(2017年)に続くジェシカ・アッカリーの待望の新作だ。前作から3年以上が経った吹き込みであり、彼女のプレイはさらに独特化している。
確かに、ジェシカ自身も「彼女のスタイルや演奏方法をそれはもう吸収しましたから」と話しているように(出所:インタビュー)、ギタープレイにおいて、パイオニアのメアリー・ハルヴァーソンから受けた影響は明らかだ。リズムを刻むのではなくその都度自在に作り出し、つんのめり、急に立ち止まり、跳躍する。
だがその結果、メアリーのサウンドが無重力空間に向かうのに対し、ジェシカは弦を弾くたびに周囲に楔を打ち込んでいるように聴こえる。奇妙に構造的でもあり、M.C.エッシャーの絵を思い出させるところがある。そして、その躊躇のなさや力強さは、すぐれた前作のそれを凌駕している。もはや枕詞にメアリーの名前を持ってくる必然性はない。
以前より共演しているベースのマット・ムンツもまた柔軟であるとともに力強くもなっており、放つパルスはとても鋭角に尖っている。ドラムスのスティーヴン・ブエゲホルドゥの音は音空間を広く感じさせ、ときに接近しときにどこか遠くのように響かせるなどユニークである。
本盤で注目されるのはサックスのサラ・マニングの参加だ。『Dandelion Clock』(2010年)ではよく通るクリアな音色が素敵なのだが、次作『Harmonious Creature』(2014年)では弦3本を使ったサウンドもアルトの音も多彩となり進化していた。さらに本人は「私の音楽はより実験的なものになってきている」と話しており(出所:インタビュー)、その嬉しい証拠をここに見出すことができる。「Trifold」などで跳躍するフレーズはエリック・ドルフィーをも想起させる。
既にジェシカは次のリリースに向けた録音を済ませている。リック・ダニエル(ドラムス)とのノイズロックのデュオESSiは、Ramp Localレーベルから2019年10月9日にリリースされる予定である。パトリック・シロイシ(サックス)とのデュオのリリースも未定ながら控えている。さらには新しいソロの録音も構想しているという。今後、彼女の独創的な作品群は、間違いなくフリー/インプロシーンにおいて大きな潮流のひとつになっていくだろう。
(文中敬称略)