#2041 『福盛進也/Another Story 月・花』
『Shinya Fukumori / Another Story ~ Moon・Flower』
text by Takashi Tannaka 淡中隆史
NAGALU-001/2 (キング・インターナショナル)12/20/2020発売予定
Disc 1 「月」
1. 月はとうに沈みゆき comp. Shinya Fukumori
Satoshi Kitamura – bandoneon / Kazuma Fujimoto – electric guitar / Masaki Hayashi – piano / Kazuhiro Tanabe – bass / Shinya Fukumori – drums
2. L.A.S. comp. Shinya Fukumori
Kazuma Fujimoto – acoustic guitar / Masaki Hayashi – piano / Toru Nishijima – bass / Shinya Fukumori – drums
3. 可惜夜 (Improvisation) comp. Shinya Fukumori, Salyu
Salyu – vocals / Shinya Fukumori – drums
4. 悲しくてやりきれない comp. Kazuhiko Kato words. Hachiro Sato
Takuji Aoyagi – vocals / Akihito Obama – shakuhachi / Koichi Sato – piano / Shinya Fukumori – drums
5. Fallen comp. Shinya Fukumori
Koichi Sato – piano / Shinya Fukumori – drums
6. Another Story comp. Shinya Fukumori
Akihito Obama – shakuhachi / Kanon Aonami – alto saxophone / Koichi Sato – piano / Shinya Fukumori – drums
7. 美しき魂 -月- comp. Shinya Fukumori
Salyu – vocals / Kazuma Fujimoto – electric guitar / Masaki Hayashi – piano
Disc 2 「花」
1. Birth comp. Shinya Fukumori
Koichi Sato – piano / Shinya Fukumori – drums
2. Flight of a Black Kite comp. Shinya Fukumori
Kazuma Fujimoto – acoustic guitar / Masaki Hayashi – piano / Toru Nishijima – bass / Shinya Fukumori – drums
3. 水光 (Improvisation) comp. Shinya Fukumori, Salyu
Salyu – vocals / Shinya Fukumori – drums
4. 美しき魂 -花- comp. Shinya Fukumori
Salyu – vocals / Kazuma Fujimoto – electric guitar / Masaki Hayashi – piano / Shinya Fukumori – drums
5. Lily comp. Shinya Fukumori
Satoshi Kitamura – bandoneon / Kazuma Fujimoto – electric guitar / Masaki Hayashi – piano / Kazuhiro Tanabe – bass / Shinya Fukumori – drums
6. Farewell comp. Shinya Fukumori
Kanon Aonami – alto saxophone / Koichi Sato – piano / Shinya Fukumori – drums
7. Walk comp. Shinya Fukumori words. NILO
Takuji Aoyagi – vocals, acoustic guitar / Satoshi Kitamura – bandoneon / Masaki Hayashi – piano / Masaki Kai – bass / Shinya Fukumori – drums
8. 花は光に導かれ comp. Shinya Fukumori
Koichi Sato – piano
Recorded at Sekiguchidai Studio, Tokyo
August 22-24, 2020
Recording & Mixing Engineer: Yuichi Takahashi
Assistant Engineer: Haruka Yamakawa
Mastering Engineer: Yasuhiro Yanai
Piano Tuning: Takeshi Miyazaki
Design: Yume Sato
A&R: Shigeko Sekiguchi
Artist Management: Masayasu Hanai (hanai studio)
Production Management: Koji Minoshima
Produced by Shinya Fukumori
福盛進也の『アナザー・ストーリー』は、2018年のデビュー作『For 2 Akis』(ECM-2574) に次ぐ2枚組の新作アルバム。「日本、そしてアジアという独特の空気感の中でだからこそ生まれる、新たな音楽の形を世界に発信していきたい」をテーマに2020年の盛夏に自ら立ち上げたレーベルnagalu〜ナガル〜の第一作として東京で制作された。
コロナ禍のため、日本からドイツに帰れなくなった福盛さんの2020年。こんなことは去年の冬には予期できなかったけれど、世界をあたらしい視点でみる機会にもなったはずだ。まるでボッカチオの「デカメロン」のように閉じ込もった人々のシュールな物語のようにきこえる(あちらは「おはなし」でしたね)。思いをめぐらせて日本を、アジアをみる機会。あらたな出会いがあたらしいグループを生み、ライブを重ねて、レーベルをつくって、とうとうセカンド・アルバムを作ってしまう。これも「コロナ」がもたらした奇妙な世界の果実のひとつ。10年たって思いかえしてみれば不思議な気持ちになることだろう。
『For 2 Akis』に続く2019年には東京で伊藤ゴロー(g,programming)、佐藤浩一(p)と新しいユニット「land & quiet」をスタート、アルバム 『land & quiet』(Universal music)をリリースした。加わった音楽家たちの中には伊藤ゴローのプロジェクトに欠かせないロビン・デュプイ(cello)がいる。さらに現在日本の音楽シーンの大きなファクターであるグループ「セロ」(cero)に参加するシンガーソングライター、パーカッショニストの角銅真実(かくどうまなみ)(voice,percussion)とのつながりも見逃せない。
同年12月14日には韓国ミュージシャンとのコラボレーション企画『EAST MEETS EAST〜日本・韓国こころの歌〜』を企画。「EAST MEETS EAST」という視座そのものが “EAST” に住まざる人のものに思えてユニークだ。<アリラン>、<イムジン河>、<鳳仙花>など、ほかにアルバムでとりあげる<愛燦燦>や<悲しくてやりきれない>も演奏された。それと前後してソンジェ・ソン(sax)やイエウォン・シン(vo)、ジン・ヤン・パーク(p)など韓国の音楽家たちとさまざまなクロッシング・ポイントがあった。
2018年「ECMでデビュー・アルバムを作った素晴らしいドラマーがいる」と聞いてさっそく『For 2 Akis』を聴く。湿度感の高い陰影に満ちた音がこころに残る。でもライブをきくまで彼の音楽の印象を決めてしまうのは少し待つことにした。
初めて福盛さんとことばを交わしたのは2019年7月9日横浜モーションブルー。「藤本一馬グループ」の藤本、林、西嶋のトリオに福盛さんが加わってカルテットになってまもないころだ。彼を新たに迎えた藤本一馬トリオの大きな喜びが伝わってきた。その後に一連のライブがあって2019年12月18日の永福町ソノリウムで韓国のECMアーティストであるソンジェ・ソンを加えた藤本、林、西嶋、福盛のクインテット、2020年1月17日の紀尾井町サロンホール「藤本一馬カルテット」などと続いて行く。おなじ時期に驚くほど多くの組み合わせによるライブが展開された。それらに通うたび多くの人が彼のユニークな演奏スタイルを “Free Floating”(漂うような)と表現するのをきいた。その存在は東京の音楽シーンのなかで着実に大きなものになっていく。
『アナザー・ストーリー』の15曲は大きくオリジナル、インプロヴィゼーション、日本の曲に分かれている。そのあり方は『For 2 Akis』の拡大バージョンに思える。<悲しくてやりきれない>(ザ・フォーク・クルセダーズ 作曲 加藤和彦 1968)は前作の<愛燦燦>(美空ひばり 作曲 小椋圭 1986)と同じように「昭和の音楽」で、彼にはリアルタイムでの記憶ではないはず。「幼少時より70’sフォークが流れていた」福盛家できこえた記憶のよみがえりなのだろうか。
「右耳の聴覚しか持たない自分が聴こえている音世界を再現した」(福盛)モノラルの音響はとても特殊なイメージを喚起する。まるでモノクローム、墨絵のようで音楽の濃淡がにじみあって聴こえる。ドラムスの音も他の楽器と同じ帯域でかさなりあってふっと姿がかき消されるような、見え隠れする瞬間がうつくしい。なんだかそれは悲しい音楽に似あっているようだ。あわてて林、西嶋、藤本の聴きなじんだ過去の音をふりかえってみるとぜんぜん違う人の音楽に聴こえてくる。でも、福盛進也にとってはこれこそが日常に、現実に聴こえている「音」なのだ。そう思うときに彼の音楽の世界に少し近づけたような気がした。
ほんの一部であるけれど『アナザー・ストーリー』に参加したメンバーたち相互のつながりをユニット名でたどってみる。見えなかったさまざまな導線が浮かび上がる。レーベルのモットー「清い水が流れるように、同じところに留まらず変わり続ける音楽」、「流水不腐」ならぬ「流音不腐」の目指すところが少しわかる。
■land & quiet〜伊藤ゴロー(g,etc)、佐藤浩一(p)、福盛進也(ds) ■藤本一馬カルテット 藤本一馬(g)、〜 林正樹(p)、西嶋徹(b)、2019年より福盛進也が参加
■クアトロシエントス(Cuatrocientos)〜 会田桃子(vn)、北村聡(bandoneon)、西嶋徹(b)
■トリオセレステ (Trio Celeste) 〜北村聡(bandoneon)、青木菜穂子 (p)、田中伸司(b)(ゲストに藤本一馬)
■オレンジペコー (orange pekoe)〜ナカジマトモコ(vo)、藤本一馬(g)、現在のメンバーには林正樹(p)、西嶋徹(b)、斎藤良(dr)が参加
■青柳拓次 (LITTLE CREATURES)の登場は意外だったけれど2008年に伊藤ゴローとは(naomi&goro, MOOSE HILL)〜TAKU & GOROとしてつながっている。
『アナザー・ストーリー』で出会いはさらに連なってSalyu (vocals)、小濱明人 ( 尺八 ) 蒼波花音 (alto saxophone)、甲斐正樹 (bass)、田辺和弘 (bass)と12人にひろがった。さまざまな音楽的バックグラウンドをもつ12人。でも、なぜかメインストリームのジャズ、純系のクラシック音楽、J-POPという系譜だけ見えてこない。「エキセントリック」(センターから美しい辺境へと見事にアウトした)な人々という言葉が浮かんでくる。こんな不思議な11人と福盛さんの交流はとても得がたいものだ。
福盛さんと同じくECMの影響下というのがこれら「サイレント・ミュージック・シーン」の音楽家たちのひとつのキーワード。『アナザー・ストーリー』への導線になっているはずだ。林正樹と西嶋徹のデュオ作品『El retratador』(APOLLO SOUNDS 2014)や藤本一馬の『Flow』(SPIRAL 2016)で聴こえる微弱音の世界にそんな導線をさがしてしまう。意外かもしれないが90年代から続くJ-Popのグループであるオレンジペコーの藤本一馬にはラルフ・タウナーやエグベルト・ジスモンチ、エルメート・パスコワールなどの音楽が大きく反映していたりする。
もうひとつの、大きな「共有」は「land & quiet」を含めてこれらのユニットの多くにブラジルやアルゼンチンなど「南アメリカ音楽」が響いていること。ボサノヴァから現在ブラジル音楽、ピアソラやタンゴからアルゼンチン音響派までが音楽の底流にある。たとえばクアトロ・シエントスとトリオ・セレステは現代のタンゴに軸足をおいたユニットだ。そうして彼等がライブ活動のベースとしているエル・チョクロやソノリウムなどはタンゴやクラシックを中心とした場所でジャズシーンから見ての「死角」に位置している。福盛さんの日本〜アメリカ〜ドイツという音楽の旅路からはラテン的幻視性といった要素を感じることは難しく。これらの意外で新鮮なくみあわせの連鎖は興味深い。
ひそやかで無垢な「サイレント・ミュージック」の音楽家たちとくらべてみても『アナザー・ストーリー』の物語性はタフでストレート。語りくちはおだやかに聴こえても挑発的な緊張感を内に秘めた音楽なのだ、とあらためて気づく。福盛さんの音楽のこれからの展開が本当の答を明らかにしてくれることだろう。
*販売サイト
https://www.keshiki.today/product-page/anotherstory
試聴は、”nagalu” の公式サイトから;
https://www.nagalu.jp/newrelease
映像作家の前原佑柾によるPVは、以下の新たな芸術プラットフォーム”keshiki”から;
https://www.keshiki.today/keshiki001
keshiki 001 from keshiki on Vimeo.