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CD/DVD DisksNo. 283

#2132 『挾間美帆 feat. デンマーク・ラジオ・ビッグ・バンド / イマジナリー・ヴィジョンズ』
『Miho Hazama feat. Danish Radio Big Band / Imaginary Visions』


<I Said Cool, You Said… What?>のインタラクティヴPVはこちら。(挾間によるedit版)

Text & Photo by Hideo Kanno 神野秀雄

『Miho Hazama featuring Danish Radio Big Band / Imaginary Visions』
『挾間美帆 featuring デンマーク・ラジオ・ビッグバンド/イマジナリー・ヴィジョンズ』

Edition Records <CD> EDN-1182 2021年9月24日リリース
キングインターナショナル <UHQCD> KKJ-163 2021年9月24日リリース

1. I Said Cool, You Said…What?
Nicolai Schultz(fl), Per Gade(g)
2. Your Scenery Story
Mads la Cour(flgh), Hans Ulrik(ts)
3. Mingle-Mangle Goody Bag
Mads la Cour(tp), Henrik Gunde(p), Peter Fuglsang(as)
4. Home
Petter Hängsel(tb), Henrik Gunde(p), Mads la Cour(flgh)
5. Mimi’s March
Peter Dahlgren(tb), Anders Gaardmand(bs)
6. On That Side
Kaspar Vadsholt(b), Mårten Lundgren(tp), Karl-Martin Almqvist(ts), Søren Frost(ds)
7. Green
Karl-Martin Almqvist(ts)

※曲名下にソリストを表記

Miho Hazama: Composer, Conductor
Danish Radio Big Band
Produced by Miho Hazama
Recorded on March 8-11, 2021 at DR Koncerthuset Studio 2 & 3, Copenhagen,Denmark
<詳細なクレジットは記事末尾を参照>

ニューヨークを拠点に世界で活躍し、ダウンビート誌「ジャズの未来を担う25人」にも選ばれるなど高い評価を受けている”ジャズ作曲家”挾間美帆。子供の頃からエレクトーンで幅広いジャンルの音楽に親しみ、国立音楽大学作曲科に学び、学内のビッグバンド「ニュー・タイド・ジャズ・オーケストラ」に参加する中でジャズに本格的に出会う。マンハッタン音楽院大学院(ジャズ作曲専攻)へ留学してジョン・マクニーリーに師事。リーダーアルバム『Journey to Journey』、『Time River』をリリース。2019年10月にデンマーク・ラジオ・ビッグバンド(DRBB)の指揮者に就任。2020年8月にメトロポール・オーケストラ客演常任指揮者に就任(ノースシー・ジャズ・フェス2019『The Monk』も参照されたい)。2019年に自身のユニットm_unitでのサードアルバム『Dancer in Nowhere』でグラミー賞ノミネート。東京芸術劇場の『Neo-Symphonic Jazz at 芸劇』の音楽監督を任され、自身のm_unitでもブルーノート東京などでライヴを行っており、存在感と知名度が急速に広がっている。

挾間とデンマーク・ラジオ・ビッグバンドの共演は、「東京JAZZ 2017」で名ソリストたちとともにジャズレコード100年史を1時間で振り返るプロジェクトを任されたことに遡る。1回限りの共演だったが、DRBBの厚い信頼を得て、指揮者としてデンマークに招聘されるようになり、ヨーロッパ内のツアーも共にする中で2019年10月に首席指揮者に就任。その着任時のコペンハーゲン国際空港でのサプライズもぜひご覧いただいきたい。筆者はブカレストで、挾間指揮DDBRとマリリン・マズールのコンサートを聴く機会があったが、メンバーが心から挾間を信頼し敬愛し、仲間として家族として共に音楽を創り出していることが感じられた。1964年に創設されたDBRRの音楽監督には、パレ・ミッケルボルグ、サド・ジョーンズ、ボブ・ブルックマイヤー、挾間の師ジム・マクニーリーなどがいた。ジム以降は17年空席で、音楽監督が常にいる訳ではないようで、それも含めて、この系譜の先に挾間を呼んだ強すぎる期待がわかるというものだ。

『Imaginary Visions』は首席指揮者の就任から2年、挾間美帆が満を持して世界に向けて発信する待望のアルバム。トラディショナルなビッグバンド編成で、全7曲挾間の書き下ろし、首席指揮者となって最初のプロデュース作品。挾間は主席指揮者の契約延長時のコメントで、「この数年間のDDBRとの共演を経て、私が初めてビッグバンドで自身の楽曲をレコーディングするなら、DDBRしかないと思うようになりました。」と語っていた。発売元は、ピアニスト/作曲家デイヴ・ステープルトンと写真家トム・ディッケンソンが2008年に創立したロンドンのエディション・レコード。グレッチェン・パーラト、ネイト・スミス、クリス・ポッター、カート・エリングなどを擁し、現代ジャズを切り拓くレーベルとなっていて、『Kurt Elling / Secrets Are The Best Stories』で2021年のグラミー賞を獲得している。ECMと繋がるUKジャズでは、『Kenny Wheeler, Norma Winstone & London Vocal Project / Mirror』なども出ている。

挾間美帆はアルバムについて次のように語っている。「これらの作品は、デンマーク・ラジオ・ビッグバンド(DRBB)のメンバーから多くのインスピレーションを受けています。彼らの音色、演奏のキャラクター、長所、ユニークさや素晴らしさ。そして、これは表にわかりやすく出ているわけではありませんが、DRBBの過去の音楽監督(サド・ジョーンズ、ボブ・ブルックマイヤー、ジム・マクニーリー)の過去の作品からも多くのヒントを得ています。DRBBと一緒に彼らの作品を演奏したり勉強したことによって、彼らの和音構成、音楽性、音楽の構成、リズムのモチーフ、オーケストレーション、作曲や和音のアイディアから多くのインスピレーションを貰いました。ストレートに「コピペ」したわけではありませんが、私なりに彼らの音楽的アイディアを探究し消化した音楽、といえると思います。」

1曲目となる<I Said Cool, You Said…What?>は、首席指揮者のオファーを受けたときに、「DBRRが首席指揮者にアジア人女性を採用することに、、それは素晴らしいですね、、ん?え?それって私のこと?、、」という話の擦れ違いからの緊張とサプライズの瞬間を表現している。この曲にはインタラクティヴPVもつけられた(挾間によるedit版)。<Your Scenery Story>はCOVID-19で旅も難しい時代だが、旅先の景色に想いを馳せるような曲。<Mimi’s March>では、以前のルームメイトが飼っている猫 Mimi をユーモラスに描きながら、バンドメンバーの誰もが楽しめるウィットに富んだ曲を創り上げる。他の曲のいずれも素晴らしく、ミニマルミュージック的な響きや、ケニー・ホイーラーを感じさせる響きもあったり、さまざまなカラーとグルーヴがあちこちに散りばめられていて楽しい。メンバーそれぞれのソロにも音色の魅力と個性が光る。そして美しく暖かみのあるサウンドに包み込まれる。

自身のラージアンサンブルm_unitが、弦楽四重奏やフレンチホルン、ヴィブラフォンを擁し、トロンボーンがいないなど特別な編成であり、そのアルバム3枚のリリースの後の初のビッグバンド編成でのオリジナル録音。伝統的なビッグバンド・サウンド、サド、ボブ、ジムが築いてきた音の拡張、メンバーそれぞれの個性、そして挾間が新しく切り拓く音、それらが階層的に複合的に紡ぎ合わされ、結果、どこか懐かしいのに、m_unit以上に新しい響きと楽しさに溢れた魅力的なアルバムとなった。また世界共通の演奏フォーマットであるビッグバンド編成なので、挾間のスコアが世界中のビッグバンドに届くことも嬉しい。

「このアルバムは私にとってひとつの道標となる作品です。自身にとって初めてのビッグバンド書き下ろし作品集、そして自分のバンドではなく「首席指揮者」という立場を背負ってから初めて、そのバンドにプロデュースしたアルバムとなるからです。2019年に首席指揮者に就任して以来、このデンマークラジオ・ビッグバンドは私のビッグバンド作品への大きな大きなインスピレーション源となってくれています。2020年〜2021年という未曾有の事態の下でこのレコーディングを遂行したことは、強烈に心に残る経験となりました。いつも思いやりに満ち、ウィットに富んだあたたかさを持つデンマークラジオ・ビッグバンドが私を包み込んでくれるように、このアルバムを聴いてくださる皆様にも彼らの音楽への情熱と愛情が伝われば嬉しいです。そしてこの音楽が皆様を、多くの感情・記憶や「イマジナリー・ヴィジョン(想像上の光景)」へといざなってくれることを願っています。」(挾間美帆公式ウェブサイトより)

デンマーク放送(DR)では、 挾間のDBRRでの活躍を高く評価し、2025年秋まで任期を延長している。6年という任期は前任の巨匠たちよりもむしろ長く、日本と世界へのツアーも視野に入れている。m_unit主宰、メトロポール・オーケストラ客演常任指揮者、デンマーク・ラジオ・ビッグバンド首席指揮者と、最高のパレットを手にする挾間が世界でどんな絵を描いていくのか期待が止まらない。

Tydeus (Miho Hazama) – Miho Hazama and DR Big Band LIVE

The Welcome – Danish Radio Big Band & Miho Hazama (2019)

Miho Hazama and m_unit “Dancer in Nowhere” Preview

——–
【Members】
Peter Fuglsang: Alto saxophone, Soprano saxophone, Clarinet, Flute
Nicolai Schultz: Alto saxophone, Piccolo, Flute, Alto flute
Hans Ulrik: Tenor saxophone, Soprano saxophone, Clarinet
Karl-Martin Almqvist: Tenor saxophone, Soprano saxophone, Clarinet
Anders Gaardmand: Baritone saxophone, Bass clarinet, Flute
Dave Vreuls: Trumpet and Flugelhorn
Robin Rombouts: Trumpet and Flugelhorn
Thomas Kjærgaard: Trumpet and Flugelhorn
Mads la Cour: Trumpet and Flugelhorn
Mårten Lundgren: Trumpet and Flugelhorn
Peter Dahlgren: Trombone
Petter Hängsel: Trombone
Vincent Nilsson: Trombone
Annette Saxe: Bass Trombone
Jakob Munk Mortensen: Bass trombone and Tuba
Per Gade: Guitar
Henrik Gunde: Piano
Kaspar Vadsholt: Upright bass
Søren Frost: Drums

【Solists】
I Said Cool, You Said…What?
Soloist: Nicolai Schultz (Flute), Per Gade (Guitar)
Your Scenery Story
Soloist: Mads la Cour (Flugelhorn), Hans Ulrik (Tenor saxophone)
Mingle-Mangle Goody Bag
Soloist: Mads la Cour (Trumpet), Henrik Gunde (Piano), Peter Fuglsang (Alto saxophone)
Home
Soloist: Petter Hängsel (Trombone), Henrik Gunde (Piano), Mads la Cour (Flugelhorn)
Mimi’s March
Soloist: Peter Dahlgren (Trombone), Anders Gaardmand (Baritone saxophone)
On That Side
Soloist: Kaspar Vadsholt (Upright bass), Mårten Lundgren (Trumpet), Karl-Martin Almqvist (Tenor saxophone), Søren Frost (Drums)
Green
Soloist: Karl-Martin Almqvist (Tenor saxophone)

Recorded on March 8-11, 2021 at DR Koncerthuset Studio 2 & 3, Copenhagen,Denmark
Recording & Editing engineer: Lars C. Bruun
Recording director: Morten Büchert
Mixed on April 6th-8th, 2021 at Sear Sound NYC, New York, NY, USA
Mixing engineer: Chris Allen
Assistant engineer: Steven Sacco
Mastered on April 20th, 2021 at Sterling Sound, Edgewater, NJ, USA
Mastering engineer: Greg Calbi & Steve Fallone
Photography: Agnete Schlichtkrull, Nicolas Koch Futtrup
Album artwork by Oli Bentley, Split
Photos by Nicolas Koch Futtrup
Executive Producer: Dave Stapleton for Edition Records, Birger Carlsen for Danish Radio Big Band, Hiroaki G Muramatsu for JamRice Inc.

すべてのクレジットはこちらを参照

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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