#2189 『Rema Hasumi, Shawn Lovato and Colin Hinton/Live at Scholes Street Studio』
Text by Akira Saito 齊藤聡
gaucimusic
Rema Hasumi 蓮見令麻 (piano)
Shawn Lovato (bass)
Colin Hinton (drums)
1. Ingenting
2. Ingenting (part 2)
3. Estuary
4. Untethered
5. Tower
6. Destitute
Tracks 1 & 2 composed by Colin Hinton
Track 5 composed by Shawn Lovato
Recorded by Rene Allain at Scholes Street Studio on 8/27/21
Mixed & Mastered by Michael Coleman
Produced by Stephen Gauci
Photos by Rene Allain
Release Date: July 16, 2022
はじめに想起させられたのは、菊地雅章(ピアノ)、ゲイリー・ピーコック(ベース)、ポール・モチアン(ドラムス)によるピアノトリオ「テザード・ムーン」だ。菊地がそうであったように、蓮見令麻はすべての瞬間において予め定めたものではない音を探し、表出しているように聴こえる。実際、蓮見は晩年の菊地と親密であり、そのような姿勢にも大きな影響を受けていることは推察できる。そしてまた、ピーコックとモチアンがそうであったように、ショーン・ロヴァートもコリン・ヒントンも予見可能性に背を向けて、それぞれ別の文脈で世界から次の世界を創出し続ける。だがこのトリオはテザード・ムーンよりも意志の力で抑制されており、それでいてテザード・ムーンに匹敵する音の強靭さを保っている。
それはピアノトリオゆえの緊張をもつ。たとえば、アンナ・ウェバー、上坂悠真のふたりのリード奏者によるラインが巧妙に交錯しあう作品『Simulacra』(2019年)でも、ロヴァートとリーダーを務めるヒントンが同様の特質をみせる。そして同盤のクインテットと比較して、たしかに、ロヴァートとヒントンの存在感が本盤においてさらに際立っている。
ロヴァートのベースは懐が深く、大きな残響とともに個々の瞬間を包み込む。重くはあっても遅くはないことは、<Tower>におけるピアノを追走するありようですぐにわかる。それはスリリングでもある。<Untethered>でヒントンが発するパルスは、慎重に、しかし美しくきりきりと尖らせてあり、惹き付けられる。(もしかするとこのタイトルはテザード・ムーンを意識したものなのだろうか?)
蓮見はこれまでにも毎回カラーが異なる野心的な作品を公表してきた。デビュー作『UTAZATA』(2015年)により「日本の私」を西側に架橋し、『Billows of Blue』(2017年)ではトリオを組み、ピアノと短命な蜻蛉を幻視させるようなヴォイスで一体感のあるサウンドを創出してみせた。『Abiding Dawn』(2019年)はその多層的な世界をひとりで引き受けたものだ。そしてトリオに戻り、『Billows of Blue』に比べ、他のふたりとの共同作業よりも自身のピアノが音を発することへの責任に向き合っているように思える。だからといってトリオのサウンドがばらばらになることはなく、別の魅力を放っている。不思議なものである。
(文中敬称略)
Rema Hasumi/Shawn Lovato/Colin Hinton, Live at Scholes Street Studio, clip 1