#2196 『ブライアン・アレン+ゲオルグ・ホフマン / El Sur』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Ropeadope Sur
https://allen-and-hoffmann.bandcamp.com/releases
Brian Allen (trombone, small percussions, toys)
Georg Hofmann (drums, percussion)
1. Semillas
2. Mantra
3. Conversation
4. Aaron y Lupita
5. Aluxes
6. El Sur
7. Bronze
8. Duet
9. Outro
All Compositions by Brian Allen (Atrecereta, ASCAP) and Georg Hofmann (SUISA) ©2022
Recorded September 30th at Scorpio Sound, Zürich, Switzerland by Georg Hofmann
Mixed and mastered in Spring 2021 at Scorpio Sound, Mérida, Mexico by Georg Hofmann
Album cover by Brian Allen
トロンボーンという楽器は雲のような音を持ち、その広がり自体も固定的ではなく、中心の音色とともに音のマッスが震え、揺れ動く。奇妙な楽器から音楽を創り出すために、ある者は正しいピッチと高い運動性をひたすらに追求し、ある者は逸脱そのものを表現の主体に持ち込んでみせる。後者には理論と訓練に加えて、音を出すことで何をしようとするのかという思想が不可欠であるだろう。
ブライアン・アレンもまた後者の人であり、音楽だけでなく映画や書物も作ること、旅を愛することが、このトロンボニストの思想を形成しているように思えてならない。このアルバムも、旅の途中のスイスでゲオルグ・ホフマンと会い、持ち歩いていたプラスチックの軽いトロンボーンで初めて手合わせし、なにかのプロセスの音として作ったものだ。そして「なにか」といわざるを得ないことが表現の特質なのである。すべてはそのたびに創出され塗り替えられる。
本盤におけるおもしろい点のひとつは、ホフマンがシンバルをなんらかのマテリアルで擦ったことによる金属の震えが、トロンボーンの管の共鳴とシンクロすることだ(たとえば<Mantra>)。あきらかに意図的なホフマンの策動であり、また、アレンとの共犯でもあるだろう。ところで、ロンドンのサックス奏者マッシモ・マギーはアルトサックス・ソロ『Toneflower』(577 Records、2021年録音)においてシンバルの近く10センチメートルほどの距離でブロウし、それによるシンバルの響きと「共演」する試みを行っている。管の共鳴音と金属との相互作用については、まだ探索されるべきものが残されているのではないか。
ホフマンの音もまた多様だ。<El Sur>において小動物が蠢きはじめ、やがて人為により制御されるパルスへと移行する展開、<Aaron y Lupita>でのさまざまな音とともに空中を縦横無尽に飛翔するさまなど、曲によりアプローチが異なりみごとである。
シンプルなデュオ盤でありながら、サウンドはシンプルではない。
(文中敬称略)