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CD/DVD DisksNo. 298

#2233『Day & Taxi / Live In Baden』
『デイ&タクシー/ライヴ・イン・バーデン』

text by Yoshiaki Onnyk Kinno 金野 Onnyk 吉晃

Clean feed CF615CD, 2023年

Christoph Gallio alto, soprano & c-melody saxophone
Silvan Jeger bass, voice, sequenzer
Gerry Hemingway drums

1. Tall Guy Blues
2. Infinite Sadness
3. Mare
4. Dieses Gedichit Erinnert Sich
5. Kppfnuss
6. Faces
7. Too Much Nothing
8. Jimmy
9. Marina And The Lucky Pop Song Transformation
Composed by Christoph Gallio

Recorded live and mixed in Baden (Restaurant Isebähnli / Jazzclub Baden) by Felix Wolf, 2021 November 29
Edited by Christoph Gallio
CD Mastered at HARD studios in Winterthur by Michael Brändli
Liner Notes by Steve Beresford
Cover by Beat Zoderer
Graphic Design by Anne Hoffmann


『バーデン=バーデンではないよ。ただのバーデンだ』

JTにおいて私が何度か紹介しているクリストフ・ガリオ(Christoph Gallio)と彼の率いるトリオDAY & TAXI が2021年9月録音のライブ・アルバムを新作として発表した。リスボンのジャズ、即興系レーベルClean feedからのリリースである。
DAY & TAXIは90年代後半に、ガリオがパーマネントなトリオとして結成したが、紆余曲折は常のこと、メンバーは、ほとんどアルバム毎に変遷した。
今回のベーシストは、最期に来日した際のメンバー、ジルヴァン・イェーガー(Silvan Jeger)である。彼は歌手でもあり、今回はシーケンサーも操作している。
そしてドラマーには名手ジェリー・ヘミングウェイ(Gerry Hemingway)。2005年からClean feedでのリリース作品が何枚かある、これがレーベルとの縁だろう。彼はブラクストンのコンボで長く活躍して広く知られたが、共演者を眺めると実に広く名人、達人の名前がリストアップされる。TZADIK, ENJAからのリリースもあるが自己のレーベルも持っている。
私とガリオが同い年だというのは以前に書いたし、ソロでの初来日の時からの付き合いだ。初期のソプラノサックスのサウンドを聴くと、いかにもポスト・レイシーという雰囲気があるのだが、実際の演奏ではアルトも吹き捲くり、かなり激しい演奏を聴かせる。
彼のキャリアを振り返ると、初期には実験的かつ、即興演奏を聴かせるための曲という方策だったが、次第に作曲家としての意識が強まり、ピアノのための曲集を映像付きで出したり、非常にスタティックな作風となった。DAY & TAXIのライブでも一分もしないような曲が続き、一曲毎にガリオが「サンキュー」というので「あ、今ので終わり?」と、私も含め聴衆が呆気にとられるような場合もままあった。それは逆に曲そのものの複雑さと、演奏の難しさが伴っていたのだが。これを私は「ガリオのヴェーベルン時代」と呼んでいる。つまり欧州的洗練を経た室内楽としてのジャズの、微小形式の完成ということだ。それはしかし同時に、生き生きとした即興音楽としてのジャズの後退に他ならなかった。
十年程前は小編成のアンサンブルでの曲が、彼のレーベルPERCASOから動画とのカップリングでリリースされた。都市の人々やさりげない風景を固定カメラで凝視するような映像だった。しかし私は映像作家とガリオのコラボレーションの意図を計りかねていた。

しかし驚いたのは、単独アルゼンチン楽旅後の変容であった。彼は、陽の当たらない楽器として有名なCメロディ・サックスを多用するようになる。そして微小形式時代とは違い、熱い即興を主に展開する作風になった。彼の演奏に肉声が戻ってきたと私は歓迎したのである。
そしてまた以前から多少見せていた歌曲への関心が明確になっている。それはジルヴァンという歌えるベーシストが登場した事によるのではないだろうか。ジルヴァンの歌は決してダイナミックな表現に頼らず、淡々とした語りに近いものだ。しかしそれが却って詩、言葉を感じさせる。また彼のシーケンサー演奏も、キーボード奏者達のそれとは違い、ごく静かで控えめだ。それ故却って耳をすますことになるのだ。
DAY & TAXI 『DEVOTION』(2019) から、ヘミングウェイという名手が参加した事も、ガリオの歌心を促進していると感じる。ヘミングウェイは決して派手な妙技や、パワフルなところを見せる人ではない。むしろ作曲家志向だとすれば、ガリオに近いだろう。今回のライブでは、非常に繊細な、そして不思議な音色の、アブストラクトなパーカッション・ソロを披露している。同時に、パートによっては分かりやすく安定した、ブルーズやロックに近いビートを叩いている。
スタジオ録音の前作と今回のライブはともに、ガリオの住むバーデンで録音された。チューリッヒから北西、車で半時間程の、ローマ時代から温泉が出る事で知られた古い町でもある。蛇足だがLSDの発見者アルバート・ホフマン博士の出身地でもある。
前作と今作の間は、わずか半年である。この間に三者が稠密になったということは、比較して聴くとよくわかる。元々曲ごとの構造性を明確にするのがガリオの特徴だったが、その傾向はこのヴァーサタイルなトリオで顕著になった。そしてアルト、ソプラノ、Cメロディという三本のサックスの異なる声が、彼の歌心を更にひきたてている。意図してアタックの遅い、ノイジーなしゃがれ声のCメロは豊かな音量がある。ヴィブラートもタメもこぶしも効いて、アーチー・シェップさえ思い出す程だ。アルトは切れ味良く駆け回る。そしてソプラノは、師であるレイシーの陰をどこか感じさせる乾いたペーソスがあるのだ。編集はあるだろうが、たっぷりと拍手喝采も含めて45分というのは、集中力を削がない嬉しい時間である。
最期に、私も昔から付き合いのある、あのスティーヴ・ベレスフォードがユーモラスながら、即興演奏の追求に付いてライナーに書いていることを記しておこう。彼こそは、ベイリー、ベニンク、ブレッツマンら即興演奏第一世代と、ガリオや私のような世代を、繋ぐ架け橋となってくれたのである。

♫ 試聴サイト
https://www.gallio.ch/road-works/

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金野 "onnyk" 吉晃

Yoshiaki "onnyk" Kinno 1957年、盛岡生まれ、現在も同地に居住。即興演奏家、自主レーベルAllelopathy 主宰。盛岡でのライブ録音をCD化して発表。 1976年頃から、演奏を開始。「第五列」の名称で国内外に散在するアマチュア演奏家たちと郵便を通じてネットワークを形成する。 1982年、エヴァン・パーカーとの共演を皮切りに国内外の多数の演奏家と、盛岡でライブ企画を続ける。Allelopathyの他、Bishop records(東京)、Public Eyesore (USA) 等、英国、欧州の自主レーベルからもアルバム(vinyl, CD, CDR, cassetteで)をリリース。 共演者に、エヴァン・パーカー、バリー・ガイ、竹田賢一、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、豊住芳三郎他。

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