オマサンの『LOVE IS OVER』 by 板垣光弘

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Text by Mitsuhiro 板垣光弘

オマサンは優しい。音楽にはとてつもなく真剣で、特にドラマーには厳しく、言葉を荒げることもあったけれども、音楽以外ではいつも冗談ばかり言ってとてつもなく明るく、バンドメンバーにはファミリーのように優しかったし、お客さんにもマメで、フレンドリー。どちらかといえば3枚目だけど、見た目も独特のファッションも、そしてもちろんベースもカッコイイので行く先々でとにかく女性にモテた。”オマサン”という愛称からしていろいろ想像が膨らむが、オマサンが最も愛していた女性はやはり奥様だったんだと思う。

若手を積極的に起用したオマサンのレギュラーバンド『オマサウンド』に僕が初めて参加したのが2008年からの3年間。僕は既に若手ではなかったが、どうゆう訳か声がかり、20代を中心とした超個性的なメンバーと一緒に、ライブハウスやツアーでオマサンと数え切れないほど演奏をした。

ある日オマサンから電話が。
「板さん、いい曲がいくつかあるんだけど譜面に起こしてくれないかな」
受話器の先から”カチャカチャ” とカセットテープを再生する音と、奥様との仲睦まじい会話が聴こえる。その場で受話器ごしに聴こえるメロディを何となく採譜して譜面を整える。その中の一曲が、欧陽菲菲の大ヒット曲『LOVE IS OVER』であった。

当時のオマサウンドのプログラムの中に、板垣のシンセサイザーをバックにオマサンがバラードを演奏するというコーナーがあって、この『LOVE IS OVER』は行く先々でお客さんに感動を与えていた。その切なく心に響く旋律にお客さんは涙を流す。僕も何度か。時にはオマサン自身も。オマサンは『バラードはオンナ(女性)を泣かさなくちゃダメだ。音を出す何万分の1のポイントを外したら絶対に泣けないんだ。そのタイミングを一生懸命いつも練習してるんだよ』とよく言っていた。本当にその通りだと思う。

ある日の午後、いつものようにオマサンから電話がかかってきた。「板さん、こんどの土日空いているかい?」空いていませんと言うと、オマサンは受話器の向こうで泣き崩れてしまった。
「妻が亡くなって今週末葬儀なんだけど、妻は俺のベースが大好きだったから、板さんのシンセで俺がバラードを演奏して送ってあげる音楽葬にしたいのだけど、そうか、ダメか? ダメなら仕方ないよな。そうだよな。。。うぅぅ。。。」

なんとかスケジュールを調整してお通夜のみ音楽葬にシンセサイザーで参加する事に。

今思えば、ライブやツアーで毎晩のように演奏された、あの『LOVE IS OVER』はオマサンが奥様に捧げる特別な思いをこめた愛のバラードだったんだと思います。

音楽葬でのオマサンの演奏は素晴らしく、音楽の力というか、哀しみの席ではあるもののむしろ会場は和やかな雰囲気で、その日の最後にオマサンが棺の中の奥様に優しい言葉をかけてキスをしていた姿がとても印象に残っています。

この2年後、シンセとオマサンのバラードが3曲フィーチャーされた『入魂の”アヴェ・マリア”』というCDが制作されることになります。もちろん『LOVE IS OVER』も収録されています。大活躍中の若手メンバーも多数参加していてとても楽しいアルバムです。

オマサンとの日々。とても楽しかったです。オマサン本当にありがとうございました。


板垣光弘 Mitsuhiro Itagaki – Piano
1971年東京都中野区出身。ジャズピアノを辛島文雄氏に師事。金井秀人(b)、本田珠也(ds)などのバンドでプロ活動開始。坂田稔(ds)、堀恵二(as)、村上寛(ds)、古野光昭(b)、河上修(b)、佐藤春樹(tb)、角田健一(tb)ビッグバンドほか、ジャズシーンを中心に多くのセッション、レコーディングに参加。自己のアルバムはこれまでに5枚発表。オマサウンドには2008年から3年間レギュラーで、少し間をおいて2013年以降は不定期で参加。鈴木勲氏のアルバムには『ソリチュード〜featuring 纐纈雅代』(2008年)、『入魂の”アヴェ・マリア”』(2014年) の2作に参加している。
ホームぺージ itagaki-piano.com

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