JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 1,149 回

Hear, there and everywhere 稲岡邦弥No. 323

Hear, there and everywhere #53「SACDの復権」

text & photo by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

オーディオの総合月刊誌 [STEREO]&JAZZ専門誌 [Jaz.in.] presents
『音色の彷彿/JAZZ BOSSA and Reflections Vol.1』 を「エソテリック/K-05XD」で聴く

[出演]
セイゲン(マスタリング・エンジニア)
寺島靖国(エッセイスト)
山本浩司(オーディオ評論家)
吉田 穣(チェロ)
水谷彩乃(バレエ)
[ナビゲイター]
[STEREO] 編集長 吉野俊介
[Jaz.in] 編集長 佐藤俊太郎


ドリンクを買いに行こうと後ろを振り向いて驚いた。いつの間にかホールは満員でカウンターの前は立ち見であふれ、動線の確保も難しいほど。あとで聞くと100人を超えていたという。「SACDの復権」というかなり地味なテーマにオーディオ・ファンが興味を示したのか。オノセイゲン、寺島靖国、山本浩司というその道のカリスマ的な出演者に反応を示したのか、オーディオ誌とジャズ誌という兄弟メディアのコラボ企画が功を奏したのか。おそらくそれらの相乗効果なのだろう。予約が少ないことを知った関係者のSNSを通じた終盤の猛烈なアプローチには目を見張るものがあったから。

オノセイゲン 山本浩司 吉野俊介 (LtoR)

オープニングは吉田穣(愛称:ジョー・ジョー・マ)のチェロがサンサースの<白鳥>を奏でプリマドンナの水谷彩乃が優雅に白鳥を舞うという異色の演出。
1部は、「STEREO」吉野編集長のナビゲートでオノセイゲンと山本浩司のトーク・セッション。誕生から四半世紀を過ぎたSACDが復権を目指し奮闘中。そのメリットを活かしたオノセイゲン編集のアルバム『音色の彷彿/JAZZ BOSSA and Reflections Vol.1』を再生しながら、SACDとはなんぞやからトークが展開。「晴れ豆」のハウスPA(米メイヤー社製モニター)を通して聴くエソテリック社製SACDプレーヤー(K-05XD。『STEREO』誌で100万円以下の最優秀プレーヤーに選出された)の再生音がきわめて充実、このアルバムがリファレンス・レヴェルと評価されるのも充分納得できる。オノはSACDの誕生から優越性の実証まで現場でその一翼を担ってきた存在だから。

オノセイゲン 寺島靖国 佐藤俊太郎 (LtoR)

2部で寺島靖国が登場すると場内は一転ヒート・アップ。登壇するや、挙手によりJBLファンが8割近いことを確認すると、「JBLはすでに “古代オーディオ”、今や時代はアメリオの“現代オーディオ” の時代だ」とバッサリ。断罪されたJBLファンはブーイングどころか爆笑と拍手を持って応える。アメリオというのは、ヤン・エリック・コングスハウク亡きあと、ECMのメイン・エンジニアに躍り出たイタリア人。寺島レコードからもアメリオをミックスとマスタリング・エンジニアに起用したアレッサンドロ・ガラティのピアノ・トリオ・アルバムが三枚同時発売されたばかり。“ハードバップの伝道師” 寺島靖国は「ドシン、バシンのヴァン・ゲルダー」から今や “空間派” の “ECMの寺島靖国” に宗旨変えの感濃厚である。オノセイゲンの巧みなDJにより寺島レコードのアレッサンドロ・ガラティ、TBMの中本マリ(寺島は “古い女”は聴かない!とここでも自説を通したが)、Nadja21の菊地雅章Great 3 などが再生され、来場者の誰もがSACDの素晴らしさを堪能したのだった。
終演後、ソニーのSACD開発エンジニアOBやサディスチック・ミカ・バンドのメンバーOBなどから“SACDの復権”に頼もしいエールが投げかけられた。(文中敬称略)

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

コメントを残す

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.