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小野健彦の Live after LiveNo. 288

小野健彦のLive after Live #213~218

text & photo by Takehiko Ono 小野健彦

#213 12月25日(土)
中野・Jazz Dining Bar スイートレイン
http://jazzsweetrain.com/
Peaceful Dreams:さがゆき(vo) 高田ひろ子(p)

今日はクリスマスとあってか、いや、それとは直接の関係はなさそうだが、伺いたいライブが複数重なった。そんな中、今夜の主人公のSNS上に過日現れた参考フライヤー中の「武満徹」の文字に心惹かれ、さがゆき氏(vo)と、自身タケミツソングブックの佳作(メゾソプラノの清水邦子氏との共演)もある高田ひろ子氏(P)による入魂のDUOチーム〈Peaceful Dreams〉のライブを聴きに中野・スイートレインへと足を運んだ。

件のフライヤーには何とも心踊る文字が踊っていた。曰く「美しいクリスマスsong集 林光、武満徹、渋谷毅、会田桃子、さがゆき・・・様々なクリスマスソングたくさん・・・、ピードリーと共に過ごそう」と。

私としては中でも、早いもので2021年2/20に没後25年を迎えた武満徹氏のどの作品がピードリーにより選び抜かれどんな形を纏って立ち現れてくるかに関心が募った。

果たして、今日は少し早目の16時に設定された幕開けから小休止を挟んだタップリ約3時間余り、このおふたりならではの古今東西に亘るバラエティに富んだ佳曲の数々が次から次へと繰り出されたが1stステージの幕開けはご存知〈Have Yourself A Merry Little Christmas〉。冒頭からゆきさんの真綿のように愛らしいそれはまるで子守唄に包まれているかのような心地良い唄声とひろ子さんの力強いタッチによる印象的なヴォイシングのハーモニーが店内の隅々までを満たして行く。因みに今宵の店内は事前予約のお客様で満員となる程の盛況振りだ。

そうしてその後も、黒人霊歌〈Nobody Knows Trouble I’ve Seen〉や、「王道の」と前置きされた、M.トーメ作〈The Christmas Song〉に加えてB.クロスピーの歌唱でも知られる〈I’ll Be Home For Christmas〉、更には谷川俊太郎・林光コンビの〈クリスマス〉、山川啓介・渋谷毅コンビの〈サンタさんの不思議〉、会田桃子・さがゆきコンビの〈クリスマスイヴ〉等が供されると共に、それ以外には1stセットではD.エリントン作〈Come Sunday〉、B.エバンス作〈Turn Out The Stars〉や2ndセットではB.ストレイホーン作〈The Stars Crossed Lovers〉等が差し込まれたくだりでは、おふたりの主戦場であるジャズフィールドの表現者としての矜持を垣間見せられて全体構成の中で聴き応えのある起伏を生み出すのに重要な役割を担っていったと言える。

その他、今宵のステージの白眉としては、讃美歌の数々が挙げられよう。それは、ゆきさんの小学生時代の御転婆振りに関する逸話とそれらに対する悔い改めの微笑ましい口上等と共に披露されたのだが、いずれも極めて敬虔な響きを伴ったものであったことを特筆したい。因みにそれらは私の記憶が正しければ以下の佳曲の数々だ。

〈神の御子は今宵しも〉(讃美歌111番)
〈荒野の果てに〉(同106番)
〈まきびとひつじを〉(同103番)

以上のような充実過ぎるセットリストの最後で待ち受けていたハードタッチの

〈Stella By Starlight〉が披露された後の本編最終曲は、ゆきさんともご縁の深かったトランペッター・光井’バンチャン’.章夫氏との想い出をマクラにゆきさん35年振りくらいかも?との〈Stardust〉が飛び出す。

そうして万雷の拍手に応えたアンコールの〈Silver Bells〉にて更なる惜しみのない拍手と共に今宵の幕が降りて行った。

しかし、当夜のステージ全体を通して、この時期だからこそのクリスマスソングや関連して採りあげられた讃美歌に対して施されたピードリーならではの卓越した「珠玉の」とも言えるハーモニーが冴え渡ったひとときであった。引き続く世情穏やかならぬ日常にあって、私には今宵ここに集いし多くの行動力溢るる聴き人の皆さんとその時空を共有させて頂けたことが何より幸福だった。

#214 12月26日(日)
八王子・STUDIO JAZZ TRANE
https://jazztraneorg.wordpress.com/
久米’ガキオ’雅之 (ds) 池田篤 (as)

今宵のライブの現場は、当年7/11以来二度目の「八王子・STUDIO JAZZ TRANE」。自身テナーサックス奏者で且つ指導者でもある好漢のあさおか ゆう氏が運営する「小さな音楽スタジオ・ジャズ教室・アートスペース」である。

そのステージには、共に近作が好評発売中の表現者ふたり、久米’.ガキオ’雅之氏(DS)と池田篤氏(AS)のDUOが登場した。このおふたり、’90の池田氏渡米前からの長く親密な付き合いのある間柄とあってか、冒頭から極めてしなやかでまとまりの良い音創りが展開された。私の印象として(こんな言い方をするとご本人達には怒られるかもしれないが)共に「秘めたる愛嬌を伴った求道者然たる雰囲気をも醸し出す表現者」だけにその主張は極めて明快であり、その懐の深さが、例え抽象的なサウンドを纏っても、次第に落ち着くべき具象へと収斂する鮮やかな軌跡を描いて行った。W.ショーター作品が、久米雅之作品が、池田篤作品が、更には所謂ジャズスタンダード曲やC.パーカー作品までもが脈絡を持ちながら同一線上に連なった感のあるその構成は、なんとも小気味良く快活なものであったと言えよう。


#215 12月27日(火)

新宿・PitInn
http://pit-inn.com/
大友良英 (g) 松丸契 (ss/as) 水谷浩章 (b) 山崎比呂志 (ds)

今日は大友良英氏の年末4デイズ8連続公演@新宿PIT INNの2日目夜の部にやって来た。そのステージには、なんとも心躍らされる面々が集結した。即ち、大友良英氏(G)松丸契氏(SS/AS)水谷浩章氏(B)そうして山崎比呂志氏(DS)である。

私事ながら思い返せば、まさに4年前の今日、この年末公演で山崎氏と直接のご縁を頂き、そこから予想だにしなかったような深く濃いお付き合いが始まった訳で今宵は私自身なんとも感慨深いものがあった。

しかし、21年前、還暦を機に茨城県に居を移した山崎さんにとって、在京中心に活動する表現者との出会いは限られているのが現状で、その意味で今宵は、近年の極めて近しい同行人のひとりである大友氏を介した未知なる表現者との遭遇であった訳で、それが上記の様な飛び切りの逸材達ときたのだから堪らないものがあった。

開演前、山崎さんと客席で談笑をしていて、店内に流れるオーソドックスなモダンジャズのシンバルレガートを聴きながら、「こういうの聴くと落ち着くんだよねえ」と言い残して山崎さんは颯爽と舞台へと向かっていった。

果たして、ドラムの開祖達の残像が頭をよぎったからでもなかろうが、ステージの冒頭は、極く短いながら得も言われぬタッチのドラムロールで幕が開いた。即、他の3人もフォルテッシモで呼応するが山崎さんもすかさずそれを受けてフリーフォームによる轟音の杜へと皆を導きにかかった。

その後四つ巴の塊はスピードを落とすことなく疾走を続けるが、途中山崎さんがブラシを手に取り潮目を変えると、水谷さんがすかさず強靭かつ馥郁たるベースラインを繰り出した。すると4人はなんとゆるやかな4ビートを奏で始めた。このくだりには聴いていてなんともゾクゾクさせられた。

場面変わり2ndステージ。こちらは冒頭から轟音の杜が出現するが、よくよく目を凝らし、耳をそばだてていると、大友さんが個々人のダイナミクス・バランスと音像の流れに最大限の配慮をされていることがよく感じとれた。そんな絶妙なサウンド・マネジメントが効いた鮮やかな輪郭を持つ音群は中盤にかけて益々そのボルテージを上げてゆくが、ある局面から一転静けさへの途を進み始め、それがまた一定時間が過ぎた頃、何かをきっかけとして再び轟音の杜に舞い戻り、最後は山崎さんの印象的なマレットによるドラムロールで本編が終了した。万雷の拍手に応えて再び舞台に登場した4人。大友さんのMCで「こういう演奏の後でアンコールというのもなんだけど、契君、ロンリーウーマンいけるよね?30分も40分もやれとは言わないけれど、オーネットのサイズで。でもあれ数分だからもう少し長めにして」を受けて、恐らくトータル10分くらいの尺であったろうか、各人が自らの主張を簡潔にまとめあげて充実の出逢いの夜に幕が降りた。

しかし、今宵我々の眼前に現れた轟音の杜は、様々なきっかけによりめくるめく潮目を変えた色彩感溢るるものであったが、何よりも全編に亘り各人がその愛機をフルに鳴らし切ろうとする強い意志と表情が色濃く読み取れて、その充実感がこちら聴き人にもヒシヒシと伝わって来るものであった。

佳き夜だった。

最後に、終演後エレベーターの無い地階から山崎さんの大量の重いドラムセットを地上まで運びあげるメンバーの微笑ましい後ろ姿にも一様に充足感が色濃く感じられたことを記して本稿を閉じたい。

 

※尚、演奏中の写真は、ピットイン・スタッフの方々のご厚意により撮影頂いたものを掲載しております。

#216 12月28日(火)
新横浜・スペースオルタ
http://spacealta.sakura.ne.jp/
新井英一 (vo) 高橋望 (g) 田ノ岡三郎 (accordion)

今日のライブの現場は、初訪問の新横浜・スペースオルタ。

こちらは生活クラブ神奈川が運営するオルタナティブ生活館B1にあるキャパ120席のフリースペース。そのステージには、実に’17/3以来待望の再会となったシンガーの新井英一氏が登場した。脇を固めるのは、ともに長きに亘り行動を共にするギターリストの高橋望氏とアコーディオンの田ノ岡三郎氏。

韓国人の父親と、朝鮮籍と日本人のハーフだった母親との間にクオーターとして生を受け、自らを、「コリアンジャパニーズ」と呼ぶ新井氏について、巷ではブルース歌手と呼ばれることもあるようだが、この人程、そんなジャンル分けが無意味に感じられる表現者は居ないのではないかと感じて来た。

敢えて私の抱いて来た印象を一言で言うならば、それは「朝鮮半島の血の匂いを濃厚に纏った凄みのある喉を持つ国境無き歌唄い」とでもいったところであろうか。

それはそうとして、今日のステージでは、同所では2年振りというこの恒例の年末公演に対する熱い想いの丈を、ピアノに、アコースティックギターに、ハーモニカに、そうして自らの声に気合い充分に乗せながら、1stステージではシャンソンを2ndステージではオリジナル曲を各々6曲ずつに加えアンコール1曲のいずれも自家薬籠中の全13曲を3人の緊密なアンサンブルとともに披露してくれた。

それらの気宇壮大かつ劇的に諳んじられた物語の数々が年の瀬の私の胸に強く迫り来た。


#217 12月29日(水)

西荻窪・アケタの店
http://www.aketa.org/
髙橋知己ニューカルテット:浜田均 (vib) 伊東佑季 (b) 三科律子 (ds)

今日のライブの現場は西荻窪・アケタの店。

しかし改めて思い返してみて、この大好きなハコを訪れるのも今日が今年僅か3回目というのは、如何にも寂しいものがあると実感した。

そんな今日のステージには、古希を迎えその記念にといずれも味わい深き6人の卓越した表現者とのDUOを連ねた『Seven』盤と、ニューカルテットによる『Work』盤を相次いでリリースし、目下乗りに乗っている感のある髙橋知己氏(TS)のそのニューカルテット、即ち、浜田均氏(VIB)伊東佑季氏(B)三科律子氏(DS)が揃った。実はこちらのグループとは、私はこの11月〜12月にかけて3回目のご対面となったのだが、今宵はそこに更にSeven盤にも唯一のギターリストとして参加し、全11曲中2曲で印象深い仕事をしている秋山一将氏(G/VO)がゲストで加わるという豪華クインテット編成となった。

今宵のステージでは、『Work』盤に収録の知己さんと浜均さん、更にはこのハコのご亭主である明田川荘之さんに加え秋山さんのオリジナル曲の数々が披露されたが、秋山さんが加わったことでより色彩感溢れるハーモニーを生み出せるようになったと感じられたその編成を得て、このユニットの音の層は縦に横にとこれまでに無い厚みと広がりをみせて行った。それはまさに、立体感と躍動感に満ち溢れたパッションが寒空の地下空間に弾け散ったひとときだったと言えよう。

そんな充実の本編最終曲、知己さんオリジナル〈AKT47〉(知己さん曰く、「アイドルグループの名前みたいだが、今年47周年を迎えたアケタの店に捧げたもの」とのこと)では、翌日の出演を控えてふらり遊びに来ていた楠本卓司氏(DS)がステージに呼び込まれこのブルース曲を持ち前のしなやかなシンバルレガートと的確なスネアショトを繰り出して、鮮やかな仕事ぶりで見事に締めてくれたことも付記しておきたい。

 

#218 12月30日(木)
西荻窪・アケタの店
http://www.aketa.org/
明田川荘之「アケタ西荻センチメンタル・フィルハーモニー・オーケストラ」

12/25より連続で6夜続けた文字通りのLAL〈jive after live〉がいよいよ最終日を迎えた。

そのライブの現場は、前夜と同じ西荻窪・アケタの店。今宵はこれまで長らく2枚の既発音源の中でのみ接して来た待望の「アケタ西荻センチメンタル・フィルハーモニー・オーケストラ」とのご対面が遂に叶った。

今宵のメンバーは、日頃から同店のステージを彩る下記の豪華9名。即ち、

ご亭主の明田川荘之氏(P)渡辺隆雄氏(TP).宮野裕司氏(AS)榎本秀一氏(TS)森近徹氏(TS)秋山一将氏(G)畠山芳幸氏(B)楠本卓司氏(DS)明田川歩氏(VO)の面々だ。

今年は同所恒例の大晦日・オールナイト公演がないため、こちら聴き人の心持ちとしては、今宵のこのいわばアケタ・オールスターズとでも言える顔見せ興業が本年の聴き納め総決算の体となった。

郷愁を誘う哀切溢るる明田川(荘之=父)さんのオリジナル曲を中心に展開された今宵のステージで繰り広げられた各々に卓越した表現者達の熟達の芸の応酬は、いずれもが多人数の中にあっても決して埋没することなく、それぞれの個性=旨味が充分に引き立つそれはまるで豪華松花堂弁当(くれぐれも幕の内弁当ではない)の如き趣きと言えた。終始極めて噛み応えのあるひとときに大満足の夜だった。因みに本編最終曲は、この楽団のテーマ曲とも言うべき〈Airegin Rhaqsody〉(この名作を遂にナマで、しかもこの場所で聴けたことの幸せよ!)、で終わると見せかけて、なんとも小粋な〈Mack The Knife〉に繋げつつ、最後は童謡〈お正月〉にて大団円を迎えた。

小野 健彦

小野健彦(Takehiko Ono) 1969年生まれ、出生直後から川崎で育つ。1992年、大阪に本社を置く某電器メーカーに就職。2012年、インドネシア・ジャカルタへ海外赴任1年後に現地にて脳梗塞を発症。後遺症による左半身片麻痺状態ながら勤務の合間にジャズ・ライヴ通いを続ける。。

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