Reflection of Music Vol. 82 マージナル・コンソート
マージナル・コンソート(今井和雄、越川友尚、椎啓、多田正美) @BankArt KAIKO 2021
Marginal Consort (Kazuo Imai, Tomonao Koshikawa, Kei Shii, Masami Tada) @BankArt KAIKO, Yokohama, December 11, 2021
photo & text by Kazue Yokoi 横井一江
マージナル・コンソート(Marginal Consort) は1997年に今井和雄が美学校小杉武久教場の同期生に声をかけて始めた集団即興演奏のユニットだ。それは小杉教場の卒業制作として即興グループ「イースト・バイオニック・シンフォニア」のLPを制作したことに遡る。当時のメンバーは10名、音楽的なバックグラウンドは人それぞれだった。それから20年を経て、今井が小杉教場の同期生数名に声をかけ、マージナル・コンソート の公演をAsahiスクエアAで行う。この時のメンバーは今井和雄、小沢靖、向井知恵、越川友尚、椎啓、多田正美だった。それぞれ異なった道を歩んでいた6人が再び顔を合わせたのである。法政大学学生会館、その後は2018年に閉店したスーパーデラックスに場所を変えて、東京では一年に一度、12月にそのライヴは継続的に行われた。向井知恵が抜け、2008年に小沢靖が亡くなったこともあり、それ以降は今井和雄、越川友尚、椎啓、多田正美の4人で活動が続けられている。
何年かに一回、12月のマージナル・コンソートのライヴが行われる日と折り合いがつけばふらりと出かけていた私だが、今回ばかりは絶対に見のがせないと万難を排して出かけることにした。なにしろコロナ禍のために2020年5月に神奈川近代美術館葉山で予定していた公演は中止、2019年の京都西部講堂以来というが、今回のBankART KAIKOでのパフォーマンスは関東圏では3年ぶりである。なぜライヴに拘るのか。マージナル・コンソートは音を体感するパフォーマンスだからだ。CDもリリースされているが、このユニットの場合はCDでの聴取は別体験だろう。
マージナル・コンソートのパフォーマンスでは、4人それぞれ楽器やさまざまな素材を音具として奏でるだけではなく、エレクトロニクスを用いる。そして、即興演奏と言ってもフリージャズをバックグラウンドに持つそれとは異なったサウンド・インプロヴィゼーションが繰り広げられ、それは3時間、途切れなく続く。観客は出入り自由、そして会場内を歩き回ることも自由だ。BankArt KAIKOでは、4人は会場の四隅にそれぞれの機材や音具などを置いたテーブル周りで演奏したが、時に席を離れて、観客の中にも入っていく。演奏者も観客もそれぞれが耳にしているサウンドは異なっている。以前に観たときは、観客は席を立って動くということを積極的にやらなかったが、今回は演奏者が4隅に陣取るというセッティングだったためか、面白い音がする方へ、面白そうなパフォーマンスがある方へ、観客の身体が耳が一斉にそちらへ向かう様は愉快だった。
彼らは即興的なパフォーマンスを繰り広げるが、いわゆるインプロとは趣が異なり、主体となるのはサウンドである。4人の演奏者によって編み上げられるというよりは重ね合わされるサウンド、音響によって立体的な音空間が変化していく。とはいえ、美術家によるサウンド・オブジェとも違っている。寧ろ余計なことは考えずに聴き手は音と戯れるべきなのだろう。いや、実際に私たちは空間に放たれた音と戯れていた。サウンドとして聞いた場合、イギリスのAMMに近いものを感じるが、手法は同じではない。ここでは、各々の活動の領域が異なっていることによる発想の違い、サウンドに対する向き合い方の違いがあるゆえに、即興演奏のクリシェを回避しているようにも思う。そこには、今井も参加した小杉武久のタージ・マハル旅行団、そしてまた小杉教場で得た経験が根底にあるのではないかと考えられる。
日本では知る人ぞ知るユニットではあるが、近年は北米、欧州、オーストラリアなどで公演を行い、高い評価を得てきた。それらの公演の映像を見たところ、日本での公演以上に観客が入っている。海外での高評価は、マージナル・コンソートの即興演奏における演奏家の関係性や生み出される音空間に、他にはない独自のものを見出しているからに違いない。確かに他にないユニットである。
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