ジャック・ディジョネット 逝く (1942.8.9〜2025.10.26)〜キース・ジャレット、チャールス・ロイド、パット・メセニー、マイケル・ブレッカー、マイルス・デイヴィスらと共演
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Cover photo by Roberto Masotti
R.I.P. Jack DeJohnette (1942.8.9 – 2025.10.26)
ECMサウンドを代表するドラマー、ジャック・ディジョネットが、2025年10月26日、ニューヨーク州キングストンの病院で亡くなった。死因は鬱血性心不全。享年83歳。ジャックの逝去は、妻でマネージャーのリディア・ハーマンにより確認され、家族と親友たちに囲まれて亡くなった。
ジャックは、1942年8月9日、アフリカ系アメリカ人とネイティヴ・アメリカンの血統を持ちシカゴで生まれた。4歳からピアノを学び、13歳からドラムに転向し、R&B、ジャズ、アヴァンギャルド音楽を演奏し、サン・ラ・アーケストラにも参加したり、後のAACMにつながるメンバーとも共演を重ねた。ミントン・ハウスのハウスバンドに抜擢されニューヨークに移り、ジャッキー・マクリーンのバンドで注目され、『Jacknife』(Blue Note)を録音している。
1966〜68年に、熱狂的な人気を浴びたチャールス・ロイド・カルテットに参加し世界的な注目を浴びるようになる。メンバーには、キース・ジャレットとセシル・マクビーがおり、キースとの共同作業は2014年11月まで続いた。カルテットを離れたあと、スタン・ゲッツのグループに参加した他、ビル・エヴァンス・トリオに参加し、『Bill Evans / Live at Montreux Jazz Festival』を残す。
Charles Lloyd Quartet, November 1966
with Keith Jarrett, Cecil McBee & Jack DeJohnette at RTB TV Studio, Belgium
1968年〜72年、マイルス・デイヴィス・グループにトニー・ウィリアムスの後任として加入、キース・ジャレットやデイヴ・ホランドらと重なり『Bitches Brew』、『Live Evil』、『On the Corner』などに収録されている。映像が残されている『ワイト島のマイルス・デイヴィス 1970』に衝撃を受けた音楽ファンも多い。この頃の初期ECMで『Keith Jarrett & Jack DeJohnette / Ruta and Daitya』をロサンゼルスで録音している。
1970年には渡辺貞夫が、チック・コリア、ミロスラフ・ヴィトウス、ジャック・ディジョネットとともに『Round Trip』をニューヨーク録音しているのも注目だ。トリオレコードが、1973年8月、東京「イイノホール」で録音しアルバム2枚を制作している。プロデューサーは稲岡邦彌と原田和男。デイヴ・ホランドとのデュオによる『Time & Space』と、ジャック(p)、ジョージ大塚(ds)、古野光昭(b)のピアノトリオによる『Jackey Board』だ。メールもなかった時代にもかかわらず、日米の熱い音楽を結ぶ距離の近さとスピード感には驚くばかりだ(蛇足だが、インターネットが普及しYouTubeで何でも観れる今の方がむしろ有機的には距離が遠いかも知れない)。サブスクでも聴けるので1973年のイイノホールを覗いてみて欲しい。
1970年代半ばには、ジャックとECMミュージシャンのコンビネーションが多くみられるが、まずECMファンに人気が高いのは1976年、ケニー・ホイーラー、キース・ジャレット、デイヴ・ホランドとの『Kenny Wheeler / Gnu High』。ヤン・ガルバレク、ビル・コナーズ、ジョン・テイラーとの『Jan Garbarek / Places』、ジョン・アバークロンビー、デイヴ・ホランドとの『Gateway』などが特筆される。
John Abercrombie Dave Holland Jack DeJohnette – Homecoming
リーダーアルバムとしては、1969年に『Complex』を録音していて、ドラマーとしては継続的に多数のリーダーアルバムを出し続けている。『New Directions』 を経て、1980年台からはSpecial Editionでの活動がコアになる。
この時期の活動は私が解説するよりも、ジャックに強い影響を受け、ジャックを敬愛してやまない芳垣安洋の記事へのリンクを紹介させていただく。
ジャック・ディジョネット – 時代の先端を走り続けた名手を芳垣安洋が語る (Drums Magazine 2017.11)
特集『ECM 私の一枚』
芳垣安洋『Jack DeJohnnette New Directions / In Europe』
Jack DeJohnette & Special Edition, Burghauses (1993)
Jack DeJohnette’s Special Edition Montreal Jazz Festival

L: ©Roberto Masotti R:スタンダーズ・トリオの最終公演 NJPAC, Newark, NJ ©Hideo Kanno
1977年2月ニューヨークで録音された『Gary Peacock / Tales of Another』(ECM1101)に始まり37年続いたキース・ジャレット、ジャック・デジョネットとのキース・ジャレット・”スタンダーズ”トリオが強く印象に残る方も多いと思う。このアルバムは、ゲイリーの京都・蹴上暮らしも発端になっているという点も興味深い。その後、『Stadards, Vol.1』、『Changes』、『Stadards, Vol.2』(ECM1255, 1276, 1289)が、1983年1月にニューヨークでヤン・エリック・コングスハウクの手で録音され、ジャズスタンダード上で繰り広げられる大胆で繊細なインタープレイは大きな衝撃と感動、影響をもたらした。なお、このセッションには、<Prism>、<So Tender>とキースのオリジナルが演奏されたのも特徴で、スタンダーズのために書かれた曲かと思われたが、ヨーロピアン・カルテットの1979年東京でのライヴ盤『Persoal Moutains』(ECM1382)、『Sleeper』(ECM2290/91)が遅れてリリースされたことで、そのレパートリーであることが明らかになった。
最初のライヴは、1983年9月6日〜11日のニューヨーク、ヴィレッジ・ヴァンガードのようだが、この時期はピアノソロをメインにし、スタンダーズ公演はトロントを例外として行っていない。初来日は1985年2月5日〜20日、12回公演を行った。鯉沼ミュージックの尽力もあり何度も来日を果たし、『Tokyo 1996』(ECM1666)、ビデオアーツ制作DVDで『Stadards Live ’85』 、『Stadards Live II』(1986)、『Live at East 1993』、『Keith Jarrett Trio Concert 1996』などの記録を残している。アルバムとしては2009年ルツェルンで録音された『Somewhere』(ECM2200)が最新となる。2013年5月6日〜15日が”最後の日本ツアー”となった。
Prism (Tokyo, 1985)
So Tender (Tokyo, 1985)
All the Things You Are (Tokyo,1996)
スタンダーズ・トリオの最終公演となったのは、2014年11月30日のニュージャージー・パフォーミング・アーツ・センター(NJPAC、ニューアーク)で、筆者はトリオの最後の音を聴き届けることになった。<All the Things You Are>、<On Green Dolphin Street>などが演奏され、アンコールは3曲、<God Bless the Child>、 <When I Fall in Love>、<Straight No Chaser (Free Improvisation)>をもって37年に及ぶ共同作業の幕を閉じた。
パット・メセニーやマイケル・ブレッカーとの共演も重要だ。1990年『Parallel Realities』(MCA)をパット・メセニー、ハービー・ハンコックと録音。『Pat Metheny / 80/81』、『Michael Brecker』もジャックの存在がなくてはならない。
Jack DeJohnette, Pat Metheny, Herbie Hancock and Dave Holland – Shadow Dance (live)
Michael Brecker (Calderazzo, Metheny, Holland, DeJohnette) – Tokyo 1997
2000年以降で目立った活動としては、ラヴィ・コルトレーンとマット・ギャリソンとのピアノレストリオがあり、ニューヨークでの「ECM 50周年記念コンサート」ではこのトリオを選んで出演している。最後のアルバムは『Hudson』で、ジョン・スコフィールド、ラリー・グラナディア、ジョン・メデスキとのカルテット、記事の末尾にHudsonのTrailer動画をつけているのでご覧いただければ幸いだ。
Jack DeJohnette, Ravi Coltrane & Matthew Garrison — In Movement | ECM Records
Jack DeJohnette Trio feat. Ravi Coltrane & Matt Garrison – Wise One – Live at Blue Note Milano (2014.11.11)
Jack DeJohnette: Made in Chicago (Album EPK) | ECM Records
Hudson
John Scofield(g) John Medeski(p, keys) Larry Grenadier(b) Jack DeJohnette(ds)
Festival International de Jazz de Montréal 2017
『Jack DeJohnette / Hudson』 (Trailer, 2017) – Jack DeJohnette, Larry Grenadier, John Medeski & John Scofield
【参考リンク】
ECM Records at 50 / ジャズ・アット・リンカーン・センター
ECM Records at 50 – With Jack DeJohnette, Vijay Iyer, and more
2019.11.2 20:00 Rose Theater, Jazz at Lincoln Center, New York
In Movement
Jack DeJohnette (ds)、Ravi Coltrane (sax)、Matthew Garrison (b)

©Hideo Kanno





















