JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 25,851 回

このディスク2020(国内編)No. 273

#08 『林栄一 Mazuru Orchestra/ Naadam 2020 』

text by Ring Okazaki 岡崎 凛

地底レコード B94F ¥2500+税

MAZURU Orchestra;
*林 栄一 (as,comp.arr) 松井 宏樹 (as) 藤原 大輔 (ts) *吉田 隆一 (bs)  類家 心平 (tp)  *山田 丈造 (tp) *後藤 篤 (tb)  高橋 保行 (tb) *石渡 明廣 (gt) 石田 幹雄 (pf) *岩見 継吾 (cb) *磯部 潤 (ds) 外山 明 (ds)
(*はガトス・ミーティングのメンバー)

  1. Naadam (作曲・編曲 林栄一)
  2. Fables of Faubus (作曲 Charles Mingus 編曲 林栄一)
  3. 組曲(作曲・編曲 林栄一)

録音:新宿Pit Inn 2020.1.11
Recording, Mixing and Mastering Engineer:近藤祥昭 (GOK Sound)
Producer: 後藤篤 & 林栄一
Co-producer: 吉田光利(地底レコード)
Adviser: 吉田隆一


2020年リリースの国内盤CDの中で、これは絶対に買おうと思ったアルバムは何枚かあり、その中でも、本作と松丸契の『Nothing Unspoken Under the Sun』はとりわけインパクトの大きい作品だった。すでに実力あるサックス奏者で、日本ジャズ界期待の新星ともいうべき松丸契とピアノトリオ「BOYS」によるスリリングなアルバムが12月9日にリリースされて、それまで本年の国内盤ベストは林栄一の本作と決めていた心が、ぐらりと揺れた。どうしたものかと考えた末に、やはり林栄一 MAZURU ORCHESTRAを選ぶことにした。
Covid-19の流行に翻弄され、いろいろありすぎた2020年に、これほど素晴らしいCDに出会い、ベスト1位がどちらかで悩むという贅沢な年末を過ごすことができたのは、とても幸福なことだろう。

世の中には熱心な林栄一リスナーがたくさんいて、自分はまだまだビギナーだが、『Naadam 2020』はそんな自分だけでなく、長年のファンも熱狂させる作品だろう。1曲目の〈ナーダム〉で、早くもクライマックスのような盛り上がりがやってくる。続くチャールズ・ミンガスの〈Fables of Faubus〉では、よくぞこの曲を選んでくれたと嬉しくなり、続いて壮大な〈組曲〉へ。
とてもいい流れがあり、きめ細かなアレンジがあり、熱い演奏に満ちていて、曲の長さを忘れてしまう。

心に残るアルバムは、個人の追憶を呼び起こすものことが多い。本作では〈ナーダム〉で渋さ知らズオーケストラのステージを思い出さずにいられなかった。〈Fables of Faubus〉では、この曲が収録されていないチャールズ・ミンガスの『Mingus At Carnegie Hall』を思い出し、管楽器奏者たちが組んづほぐれつのバトルを繰り広げるアルバムを聴きたくなる。

今年(2020年)は本作をベストと推す人が多いだろうと思う。CD店の紹介文にも熱の入るものが多く、CATFISH RECORDSとメタカンパニー両店の紹介には、アルバムへの敬意に満ちた丁寧な紹介文が添えられていた。ガトス・ミーティングのメンバーなどを参考にさせて頂いた:
https://www.catfish-records.jp/product/27369
http://metacompany.jp/shop/index.php?main_page=product_info&products_id=1539

林栄一氏と『林栄一 Mazuru Orchestra  / Naadam 2020』に関するJazzTokyoの関連記事は、ただ詳細であるだけではなく、林栄一のサックスと同様に胸に迫るものがある。

Reflection of Music:横井一江 Reflection of Music Vol. 77 林栄一
Disks #2016:『林栄一 Mazuru Orchestra  / Naadam 2020』(悠雅彦)
(この記事最後のリンク参照)

この二つの記事を読み、アルバムを買い、渋谷毅によるライナーノーツ、「俺たちの栄ちゃん」を読んで、ミュージシャン同士のつながりの尊さに心をうたれる。
そうした思いもこのアルバムを印象深いものにしているのは確かだが、本作を「My Pick」に選ぶ理由は、たった3曲という選曲の潔さ、あふれる栄一節の魅力、演奏者たちの迷いなき激しいソロなど、書き出したら止まらないぐらいある。とにかく、骨太のオーケストラによる、ぎっしり中身の詰まった演奏に、自由奔放さもワンセットになっているのが、この上なく貴重なことだと思う。

JazzTokyo内の関連記事
https://jazztokyo.org/column/reflection-of-music/post-57588/
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-56491/

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください