#1164 角野隼斗/かてぃん ブルーノート東京 初公演 Hayato Sumino / Cateen at Blue Note Tokyo
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by ogata
角野隼斗 HAYATO SUMINO
ブルーノート東京 Blue Note Tokyo
2021年6月7日(月) 17:00 19:30
公演ウェブページはこちら
1st 17:00
1. HUMAN UNIVERSE (Hayato Sumino)
2. Invention (Johann Sebastian Bach / Hayato Sumino)
3. We Will Rock You (Brian May)
4. Frog Swings (Hayato Sumino)
5. Liebesträume 愛の夢 第3番 S.541-3 R.211 (Franz Liszt)
6. ココドコ (Hayato Sumino)
7. 猫ふんじゃった (作曲者不詳)
8. One Minute Hourglass (Hayato Sumino)
9. Spain (Chick Corea)
10. Pavane pour une Infante Défunte 亡き王女のためのパヴァーヌ(Maurice Ravel)
11. Rhapsody in Blue (George Gershwin)
EC. Tinkerland (Hayato Sumino)
2nd 19:30
1. HUMAN UNIVERSE (Hayato Sumino)
2. Invention (Johann Sebastian Bach / Hayato Sumino)
3. We Will Rock You (Brian May)
4. Frog Swings (Hayato Sumino)
5. Liebesträume 愛の夢 第3番 S.541-3 R.211 (Franz Liszt)
6. ココドコ (Hayato Sumino)
7. 猫ふんじゃった (作曲者不詳)
8. One Minute Hourglass (Hayato Sumino)
9. Spain (Chick Corea)
10. Gotta Be Happy (Makoto Ozone) (with 小曽根 真 piano)
11. Rhapsody in Blue (George Gershwin)
EC. Tinkerland (Hayato Sumino)
いまその高い音楽性とジャンルを超えるマルチな活躍で最も注目される若手ピアニストのひとり、1995年生まれの角野隼斗。3歳からピアノを始め、数々のコンクールに入賞しながら、東京大学に進み、在学中は音楽サークルPOMPと東京大学ピアノの会にも所属。2018年、工学部計数工学科から東京大学大学院 情報理工学系研究科に進学。同年、ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリおよび文部科学大臣賞、スタインウェイ賞を受賞し、これをきっかけに本格的に音楽活動を始める。2018年9月から半年間、フランス音響音楽研究所(IRCAM)で音楽情報処理を研究した。2020年3月に大学院を修了し、東京大学総長大賞を受賞。
ピアノ YouTuber「Cateen かてぃん」としても注目され、YouTubeチャンネルでは自ら作編曲した楽曲および演奏動画を発信し、すでに70万人に登録され、総再生回数は7000万回を突破し今なお増え続けている。東京大学のサークルPOMPの仲間と結成した「シティソウル」バンドPenthouseもYouTubeチャンネルでアクティヴな発信を続け、急速にファンを獲得している。2020年12月にファーストフルアルバム「HAYATOSM」をリリース。詳細なプロフィールはこちらをご覧いただきたい。
ブルーノート東京のステージには、スタインウェイのピアノが2台。背面にミニムーグと、赤い電子ピアノCASIO SX-1000。その前方にトイピアノ。鍵盤ハーモニカも、という楽器構成でも”Cateen”らしく期待が膨らむ。先に難を言うと、トイピアノが置きっ放しであるだけで、左寄り座席からの視界が大きく遮られ、ピアノの手元も全く見えなくなってしまうので、次回ブルーノート東京公演があれば、トイピアノは使うときだけ上に出すとか検討して欲しいところ。ともあれ2台ピアノは何だろう?ゲスト登場?
1曲目は最近書いたオリジナルだと言う<HUMAN UNIVERSE>。バッハ的なイントロから始まり、次第に情熱的になり哀愁を帯びた熱い演奏となって行き、上原ひろみも彷彿される高速連打プレイへ。2曲目は、バッハのインベンションをモチーフにしたモダンバージョンとしてのインプロヴィゼーションで、ミニムーグのアナログシンセサイザーならではの音色に表現力を持たせながら、カシオの電子ピアノで重厚な音を出していく。敢えてミニムーグを持ち込んでいることで温かみのある音色への拘りがわかるというものだ。
クイーンの名曲、ブライアン・メイ作曲<We Will Rock You>では、ピアノの椅子を打楽器カホンに替えて、乾いた音で巧みにリズムを刻みながら、ファンキーなピアノパターンを重ね、重厚さと軽快さを兼ね備えたサウンドを生み出す。YouTubeで公開されてすでに観ていたが、リアルで観るとこのオリジナルなアイデアの素晴らしさと確かなグルーヴに圧倒される。開成中学高校時代は、ピアノへの関心は薄れてロックのドラマーをやっていたという話も頷ける。チック・コリアにしても塩谷 哲にしてもドラムスを得意としているから、ピアニスト、作編曲でも大きな力になるはずだ。
<Frog Swings>は、最初<ひょっこりひょうたん島>っぽい感覚を受けたが、やがて<カエルの歌>にインスパイアされたことがわかってくる。リスト<愛の夢>のジャズバージョンは、ファーストフルアルバム『Hayatosm』にも収録されているが、ロマンティストとしての角野と、その透明な音色の美しさが浮かび上がる。
ここからは”飛び道具”を使っての演奏へ。角野は自動演奏やAI、音響についても研究し、フランス留学もしてきたから、テクノロジーを活かし音楽を拡張することには躊躇がなく貪欲だ。<ココドコ>から、フレーズを反復させるルーパーを使い、最初無機的に聴こえるフレーズから音を重ねていく。ココドコココドコと聴こえるからココドコ。そして、2台置いてあるピアノが、「スタインウェイ SPIRIO」という最高峰の自動演奏ピアノであることがわかる。当初、巨匠たちの演奏を自宅で聴けるという売り込みだったが、2020年5月から、録音機能を持つ「スタインウェイ SPIRIO r」が日本でも発売になり、そのモデルだ。「2台のピアノがありますが。魔法をかけていきたいと思います。SPIRIOを使って、、。」 <猫ふんじゃった>、砂時計を眺めていたらちょうど1分で終わる曲を作ってみたくなったというオリジナル<One Minute Hourglass>、チック・コリア<Spain>と、SPIRIOとルーパーを巧みに組み合わせて、1人で2人演奏が続く。自由な発想の中に緻密な準備がなされ、さまざまな仕掛けがあり、エンターテイメント性にも事欠かない。ときに角野の仕草にピアノが追従するようにも見えて、<One Minute Hourglass>では指を鳴らすのと同時にキメが入り演奏を終わらせた。ジャズファンとしては、<Spain>の2人ヴァージョンからたくさんのわくわくを受け取った。
10曲目は、最初の3セットでは、ラヴェルの<亡き王女のためのパヴァーヌ>となっていて、角野のピアノの音色の美しさが引き立てる、白眉の演奏となった。
しかし、2台ピアノのセッティングは自動演奏用だけでは終わらなかった。最終セットにその事件は起きる。
「ブルーノート東京で初めての公演が決まってからどうやってかっこいいライヴにするか。もともとジャズではなく、クラシックをずっとやってきた人間なので。その中で僕がすごく影響を受けたというか、ジャズのレジェンドのピアニストの方がいるんですが、その方と数ヵ月前くらいから話したり、、、。自分がやりたいと思う音楽を突き進むということを言ってくださって、それが自分の自信にもつながって、ブルーノート東京でやるのに大きなパワーになっているんですが。。。今日会場に来てくださっています。小曽根 真さんです。」
「モーツアルトやその時代の音楽家たちは、あるいはその時代のオーディエンスは、このような形でその時代の音楽を聴いていたのではと思って聴いていました。モーツァルトも即興好きだったし、民衆のためのオペラも書いたし、素敵な女性がいると、『君のために即興するよ。』と結構楽しくやっていたと思う。この至近距離であれだけ綺麗な音色とグルーヴのある音楽といろいろな世界に連れていってくれるピアニストは、ブルーノート東京で初めてじゃないですか?」
「本当にもう大好きです。」「自動演奏ピアノをやりましたけど、2台あればもしかしたら小曽根さんとやってくれるかなと思って。せっかく2台ありますから。。。あの、小曽根さんの最新アルバムのGotta Be Happy 大好きで。」
「7拍子だけど僕弾けるかな?」(会場から笑い)
今年60歳を迎えたピアニスト小曽根と角野の間には34歳の年齢差があるが、2021年に入って急速に意気投合して友情を築き、お互いをリスペクトする。角野がアレンジや即興の仕組みや方法を演奏者の視点から話す有料会員限定の解説講座「Cateen Lab」で、2021年1月15日夜に小曽根真のコード感を紐解く生配信を行う、という情報がFacebook内の小曽根真ファン関連で伝わり、その翌日に長野県・八ヶ岳高原音楽堂での公演を控えた小曽根が夜それに気付いて、すぐさま有料入会、夜22時からの配信を観始める。いきなり本人が降臨してしまい、Cateenが慌て感激するという奇跡のストーリー。その誠実な取り組みと感性に感動した小曽根が角野をリスペクト、そして角野のラジオ番組「角野隼斗のはやとちりラジオ」でセッションを実現する。筆者は『チック・コリア&小曽根真/レゾナンス』のアルバムレビューで「自由な魂の旅」「子供のように遊ぶ」と書いたが、その魂の世界へ踏み込める数少ないパートナーとなり得る1人であることを見抜いたのではないかと筆者は勝手に考えており、2020〜21年に小曽根が出会った若手の中では、ピアニスト藤田真央、ウクレレ奏者RIOとの間にも同じ感覚があると思う。それはジャズの名手であるかどうかは関係なく、耳と感性の鋭さ、降りてくる音への確信と揺るがない冒険心と探究心だ。
小曽根の60歳記念ピアノソロアルバム『OZONE 60』の中でも代表曲格の<Gotta Be Happy>。OZONE 60のコンサートツアーでは今のところ必ず1曲目に弾いている。聴く分には気持ちいいが一筋縄では行かない曲だ。確かに角野の演奏に粗いところも出てくるし、即興のやりとり後半では、小曽根が「こっちに来いよ!付いて来れるかな?」という悪戯っぽく微笑みながら躊躇なく角野を攻め、超絶フレーズに角野が「えっ、どうすればいいの?」という一瞬の隙も見せるが、とにかく2人の音楽の歓びに満ちたやりとりに会場が沸いた。後日談としては、小曽根 真、RIO、フルーティスト片山士駿のブルーノート東京の6月20日2ndステージに角野が飛び入りしリベンジ。これも感動的な瞬間で、2回の共演ともインターネットで配信されたので全国のファンが目にすることになった。
「ブルーノート東京という素晴らしい舞台で、自分のやりたいことを好き勝手やって、応援してもらえることがどんなに幸せかを感じています。ブルーノート東京初公演は自分の持っている全力を出し切りました。これからもっと進化するのでよろしくお願いします。」
鳴り止まない拍手にアンコールは<Tinkerland>。ファーストフルアルバム『Hayatosm』に収録され、今の角野の名刺がわりともいえる曲の一つ。トイピアノ、鍵盤ハーモニカまで飛び出し、ウィットに富んでおしゃれな一曲で、そして心地よい疾走感の中に角野ワールドが全開していく。
初めてのブルーノート東京公演を成功させた角野は、7月、第18回ショパン国際ピアノコンクールの予備予選のためワルシャワに向かった。結果、予備予選を通過した87人の1人(日本人は14人)となり、10月2日〜23日の本大会に参加することになった。クラシックの演奏家になりたいわけではなく、一発でこれは角野隼斗であるとわかるようなモノを作る人間になりたいというが、今の立ち位置ではまずクラシックを究めることが武器になると認識しているようだ(MBS「情熱大陸」より)。世界の壁は厚く厳しいが、その中で、そしてその先に角野が見る景色を楽しみにしたい。
角野隼斗 & 小曽根真 ボーダレスな音楽活動を展開する2人の音楽観 角野隼斗のはやとちりラジオ 2021年2月10日
クリスティアン・ぺツォールト作曲:バッハのメヌエット ト長調 BWV Anh.114 による即興
Cateen’s Piano Live 夏 (2021年7月3日)
We will Rock You (Brian May)
猫ふんじゃった (超能力ver) with Steinway & Sons SPIRIO r
Rhapsody in Blue
角野隼斗/ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18
第18回ショパン国際ピアノコンクール 予備予選 2021年7月20日 セッション1 – 角野隼斗
TBS『バース・デイ』2021年3月20日 角野隼斗がJAZZに挑戦!! BLUE NOTEでどんなアレンジをするのか!?
Penthouse 恋に落ちたら PV
【テレビ出演予定】
題名のない音楽会 「夢をかなえる!ディズニープリンセスの音楽会」
前編 2021年8月7日(土) 10:00 テレビ朝日 8日(日) 08:00 BS朝日
後編 2021年8月14日(土) 10:00 テレビ朝日 15日(日) 08:00 BS朝日
出演: 鈴木優人指揮 東京交響楽団、角野隼斗、高木綾子、新倉瞳、堀内優里、長哲也、清水美依紗
番組ウェブサイト