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Concerts/Live ShowsNo. 279

#1166 「ヒロ・ホンシュク+城戸夕果:Love to Brasil Project」

text & smaphotos by Kenny Inaoka  稲岡邦彌

7/02 Fri 5:30/7:00pm @青山 Body & Soul

Love to Brasil Project:
ヒロ・ホンシュク(fl, EWI)
城戸夕果 (fl, perc)
林 正樹 (p)
コモブチ・キイチロウ (el-b)
ダニエル・バエタール (ds)

1st Set
1.Trilhos Urbanos(カエターノ・ヴェローゾ)
2.Layer Three(ヒロ・ホンシュク)
3.A rã(ジョン・デナード)
4.Lulu(城戸夕果)
5.Confluenncia(城戸夕果)

2nd Set
1.True Pot(ヒロ・ホンシュク)
2.Para vocês com grande carinho(エルメート・パスコアール)
3.Machado(城戸夕果)
4.Aracua(城戸夕果)
5.Blue in Green(マイルス・デイヴィス/ビル・エヴァンス)
6.Happy Fire(ヒロ・ホンシュク)
Encore
Paper Merge(ヒロ・ホンシュク)


まだ興奮の只中にいながらMacのキーボードを叩き始めている。更新作業が10数時間後に始まろうとしているのに。信じられないことだ。この興奮はユッスー・ンドゥールのスーパー・エトワールを聴いた時の興奮に似ている。ユッスーのスーパー・エトワールは “アフリカン・フュージョン” (ワールド・ミュージック)の極致だったが、今宵の Love To Brasil Project (L2B) は、”ブラジリアン・フュージョン” の極致、といったところだろうか。ここでのフュージョンは、ブラジルのネイティヴなリズムがいろいろな形で顔を出しているといった意味で、ヒロが “Racha Fora” (ハシャ・フォーラ)というバンドを通じて追求してきた音楽に通じる。”Racha Fora” がメンバーの事情で小休止している現在、ヒロが取り組んでいるのがこの L2B。同じフルート奏者の城戸夕果との出会いがきっかけで実現した。その奇跡的な出会いとプロジェクト(フロントのヒロと夕果以外は流動的なので、プロジェクトを名乗っているようだ)スタートの詳細は本誌掲載のふたりのインタヴューに譲るとして、最終的には、鬼才エルメート・パスコアールと出会い、ふたりの目の前で書かれプレゼントされたオリジナル曲<Para vocês com grande carinho / パラ・ヴォセス・コン・グランジ・カリーニョ>(愛情を込めたあなたたちへの贈り物、というメッセージをそのままタイトルとしている)が彼らを突き動かし、レコーディングからライヴ活動へと発展した。

メンバー・リストの林正樹とコモブチ・キイチロウという名うてのセッション・ミュージシャン(あるいは、それ以上)の名を見て、正直なところ一瞬ある種の不安がよぎったのだが、その不安は杞憂であることがすぐに分かった。彼らの確かな演奏技術と創造性がダニエル・バエタールという未知のブラジル人ドラマーの正確無比なドラミングと相まって、ヒロと夕果(何だか歌謡コーラス・デュエットのようだが)が描いていく深いブラジル音楽への共感と理解に裏打ちされた音楽の展開に大きく寄与していたのだ(ヒロはその国固有の音楽を演奏するためには、その国の言語と文化的背景を理解することが先決であるとつねに力説している)。演奏は、1stセットがアルバム収録曲を中心に、2ndセットはヒロと夕果のオリジナルが中心だったが(現場で、スマホに打ち込んでいた曲名と流れのメモが興奮のあまり手元が狂ったか、すべて消失してしまっている!)、ダニエルはカエターノ・ヴェローゾやジョアン・デナードのブラジルものは言うまでもなく、仕掛けの多いヒロや夕果のオリジナルも完璧にこなした。おそらくすべて初見に近いのだろうが、曲ごとにさまざまなテクニックを繰り出しどれも表情豊かなものにし、フレームを作り上げ、バンドをドライヴさせた。いつも聴くヒロのRacha Foraはどこかルースさを残していたのだが、はたしてこのあまりにもソリッドな世界はL2Bの意図したものだったかどうか不明だが、リズム隊によって千変万化するのであろうL2Bのひとつの究極の形には違いない。盤石かつフレキシブルな共演者を得てヒロと夕果のフルートはブラジル音楽の豊穣さをあますところなく描き出し、ヒロのEWIとエフェクター類がその表情にさらに陰影を付ける効果を上げていた。メンバーの顔に浮かぶ笑みが何より彼ら自身が演奏を楽しんでいることを実証していた。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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