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Concerts/Live ShowsNo. 295

#1235 オーブリー・ジョンソン&ランディ・イングラム
Aubrey Johnson & Randy Ingram at 新宿PIT INN

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

オーブリー・ジョンソン&ランディ・イングラム
新宿ピットイン Shinjuku PIT INN

2022年10月15日 19:30
Aubrey Johnson オーブリー・ジョンソン: vocals
Randy Ingram ランディ・イングラム: piano

1. I Wish I Knew (H. Warren / M. Gordon)
2. Bons Amigos (T. Horta / R. Bastos)
3. Conversation (J. Mitchell)
4. Didn’t We (J. Webb)
5. Olha Maria (A.C. Jobim / C. Buarque / V. De Morales)
6. I’m All Smiles (M. Leonard / H. Martin)
7. My Future (B. Eilish / F. O’Connell)
8. My Ideal (R. A. Whiting / N. Chase / L. Robin)
9. I’ll Remember April (G. de Paul / P. Johnston / D. Raye)

10. In love in Vain (J. Kern / L. robin)
11. If I Should Loose You (R. Rainger / L. Robin)
12. Chovendo Na Roseira (A.C. Jobim)
13. Ask Me Now (T. Monk)
14. Flor de Lis (Djavan)
15. Wichita Lineman (J. Webb)
16. Close to Home (Quem é Você?) (L. Mays / L. Avellar)
17. If Ever I would Leave You (F. Loewe / A. J. Lerner)

EC1. Born To Be Blue (R. Wells / M. Torme)
EC2. All Too Soon (D. Ellington / C. Sigman)

ライル・メイズを叔父に持ち、その遺作『Eberhard』にも参加していたヴォーカリストのオーブリー・ジョンソンが、ピアニストのランディ・イングラムとともに来日しツアーを行う。このデュオで『Play Favorites』(Sunnyside Records)を2022年11月4日にリリースし、その収録曲を中心に19曲演奏された

オーブリーは、ニューイングランド音楽院でジャズ・パフォーマンスの修士を取得、バークリー音楽大学やニューヨークのクイーンズ・カレッジなどで教鞭を取ってきた。現在はニューヨークを拠点に演奏活動を続け、2020年3月にデビューアルバム『Unraveled』をリリース、エグゼクティヴ・プロデューサーにライル・メイズ、共同プロデューサーにスティーヴ・ロドビーを迎え、自身のオリジナルに加え、エグベルト・ジスモンチの曲、ノーマ・ウィンストン作詞曲なども収録している。

ランディはアラスカ出身でカリフォルニアで活動した後、ニューヨークに拠点をい移して活躍し、たびたび来日している。またスウェーデンの歌手モニカ・ゼタールンドの伝記映画『Monica(ストックホルムでワルツを)』で、ビル・エヴァンス役として俳優デビューを果たした。最近のアルバムではドリュー・グレスとのコラボレーションで『The Means of Response』、『The Wandering』をリリースしている。

<I Wish I Knew>から始まり、リリカルでコードワークが美しいピアノのイントロに続いて、初めて聴くオーブリーのヴォイス。透明なのに暖かく、正確なピッチに、低音から高音までパーフェクトに響く素晴らしいヴォイスに会場が圧倒される。音楽をアカデミックに極めたことと教育者であることがポジティヴに効いて表現力に大きな余裕をもたらしているようだ。ランディのピアノは、激しく跳躍したり熱情に任せるタイプでは、隣り合う音をコードプレイで重ねながら穏やかに動いていく。

『Play Favorite』の収録曲から、ビリー・アイリッシュ、ジョニ・ミッチェルなど独特の歌を、似通った世界観のスタンダードなどとも対比させながらプログラムを進めていく。ジミー・ウェッブの歌を愛し<Wichita Lineman>と<Didn’t We>を取り上げているのも興味深い。余談だが「ウィチタ電線作業員」と言えば、『Pat Metheny & Lyle Mays / As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls』(ECM1190)のジャケットを思い出さずにはいられないが、なんでも、元々の着想はオクラホマ州ウォシタだったそうだ。この曲はフレッド・ハーシュ・トリオもカヴァーしているのでこの機会にご参照されたい。

終盤、叔父であり、パット・メセニー・グループのサウンドを創り出し、ソロでも活動しながら、2020年2月に66歳で亡くなったライル・メイズについて語り出し、目には涙が浮かぶ。ミュージシャンやファンから最も愛されている一曲<Close to Home>のミルトン・ナシメントによるポルトガル語バージョン<Close to Home (Quem é Você?)>を紹介し、想いと祈りを込めるように丁寧に美しく歌い上げた。正直、この一曲のためだけでも来てよかったと思ったし、ライルのファンには来場を強くお勧めすることとなった。ライル・メイズの生涯についてはこちらライル・メイズ追悼特集はこちら、オーブリーも参加した遺作『Eberhardt』についてはこちらを参照されたい。

ブラジルへの深い想いも伝わる選曲で、やはりトム・ジョビンの知る人ぞ知る名曲<Olha Maria>と<Chovendo Na Roseira>を取り上げていたし、トニーニョ・オルタ<Bons Amigos>、この他にもヴォーカリストNobieのキメ曲の一つとして親しんできたジャバンの<Flor de Lis>も。<Flor de Lis>はジャバン本人もオーブリーもNobieも印象がかなり違うのも興味深かった。

なお、最終日10月23日、渋谷ボディ&ソウルでのアンコールはジャバンの<Flor de Lis>〜関京子ママに捧げる<Body & Soul>だった。

オーブリーの歌で印象的であり感動したのはその英語が日本人の耳に届くということ。日本人にとって英語歌詞を前もって知らない限り、リアルタイムで英語詞を受け止めるのは容易ではないが、オーブリーのクリアな発音のせいか不思議と心に英語が届く。このことでもオーブリーが日本人に愛される十分な理由になると思う。そして、ステージの二人と会場が深く繋がる特別な夜になった。

今回は『Play Favorite』リリース記念のため、 カヴァー曲で通すこととなったが、次回の来日では、ふたりのオリジナルをもっと聴きたいと思うし、いつか、オーブリーのスモールアンサンブルも聴いてみたい。まだオーブリーの歌に触れていない方は、『Play Favorite』と『Unraveled』を、あるいは本記事の動画をぜひご覧いただきその魅力に触れていただければ幸いだ。

オーブリー・ジョンソン&ランディ・イングラム 2022年来日ツアー日程
10月15日(土) 東京・新宿 PIT INN
10月16日(日) 岡山市 Bird
10月17日(月) 京都市 le club jazz
10月20日(木) 名古屋市 Mr.Kenny’s
10月21日(金) 東京・武蔵野市 武蔵野スイングホール
10月22日(土) つくば市 FROG
10月23日(日) 東京・渋谷 Body & Soul
企画: Office Zoo Inc.

Aubrey Johnson – Unraveled (Official Music Video)

Aubrey Johnson – Lie In Wait (Official Music Video)

Randy Ingram Trio – “Shokunin” – Live at Mezzrow

Lyle Mays / Eberhard

Milton Nascimento – Quem é Você?

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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