Hear, there & everywhere #19「Jazzin’ at home」

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text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

Covid-19のパンデミック化で世界の日常が一変した。これ以上の感染を避けるためには接触しないことがいちばんというわけで、3密(密閉、密集、密接)を避けてstay home すなわち、不要不急の所要以外は在宅を要請され、ひとはこれを自嘲気味に「巣ごもり」と称するようになった。会社員は「テレワーク」、パソコンとスマホを最大の武器に「在宅勤務」に勤しみ、時に応じ「オンライン・ミーティング」に参加する。アメリカ産のアプリ ZOOMを使えば「ZOOM会議」だ。数年前、ZOOMが日本に上陸した頃、われわれの研究所でもデモが行われ、中野のオフィスとゲストの千葉の自宅を結んで ZOOM会議をやった経験があるが、まさかこれほどのZOOMのブームが到来するとは夢にも思わなかった。セキュリティの難の懸念もなんのそのだ。

それはさておき。コンサートホールであれライヴハウスであれ、はたまたレコーディングスタジオであれ、まさに3密を良しとする仕事場を奪われたミュージシャンはどうしたら良いのか。早速、アメリカのミュージシャンが自宅からFacebookを使ったライヴ・ストリーミングを始めたようだったが...。
4月の中旬過ぎだったか、MacBookに向かっている時に画面に「Satoko FujiiがFacebookでライヴ配信中」の案内が飛び込んで来た。早速、画面を切り替え視聴に入る。田村夏樹(tp)と藤井郷子(p) のカップルが自宅での演奏をライヴ・ストリーミングしている。やや緊張気味か。世界各国を飛び歩いている彼ららしくどんどん入ってくるポストの半分以上は英語だ。日によってソロとデュオを交互に組んだ彼らだったが田村のソロの演奏画面が横になったままの日があった、すかさず田村が「今日は横になってお聴きください」とコメント。別の日には藤井が「鍵盤の並びと高低逆に音が聴こえる!」と驚きの声を上げる。iPhoneやFacebookの設定の問題らしいが手作り感満載で微笑ましい。しかし、プレイバックを聴き直し iPhoneの音質に納得できなかったふたりは即座に最新の iPhone11Proに買い換えたというからさすが世界を股にかけるプロではある。
https://www.facebook.com/fujii.satoko?epa=SEARCH_BOX

次に飛び込んで来たのが小曽根真のライヴ・ストリーミングだった。Welcome to my living room! のタイトル付きで、高い吹き抜けの広々とした部屋にデンと置かれたYAMAHAのコンサート・グランド・カスタム。ライティングとサウンドもバッチリの本格仕様だ。この小曽根の在宅演奏シリーズは各国でも相当反響を呼んだようで、ノルウェーのアリルド・アンデルセンがデュオを試みたり、JazzTokyoで「楽曲解説」を好評連載するボストンのヒロ・ホンシュクこと本宿宏明がフルートで共演したり、リスナーだけでなく多くのミュージシャンを相当インスパイアしたようだ。その成果は本誌のニュース欄に神野秀雄がまとめたリストが掲載されている。小曽根はまた 東京JAZZのLive Streamプラスの一環としてNo Name Horsesで見事なリモート演奏も披露しており、自粛中といえども獅子奮迅の大活躍だ。

https://www.facebook.com/makoto.ozone.1
Welcome to my living room
https://jazztokyo.org/news/post-51934/
本宿宏明「Someday My Will Come」ヴァーチャル・デュオに挑戦!小曽根マジックの解析に挑戦した渾身の力作「楽曲解説」も合わせてお読みいただきたい。
https://www.facebook.com/hirohonshuku/videos/10216090103719745/

ユニバーサル・ミュージックのニュースで興味をひいたのが新譜リリースまもないキャンディス・スプリングスの自宅でのピアノ弾き語りだった。5月早々、アルバムではバンドにゲストを交えて歌う彼女が素顔で弾き語り、というのはこういう機会を措いてなかっただろう。20分弱にわたっておしゃべりを交えながら歌を披露、途中、スマホを覗き込みコメントを入れた仲間に手を振りながら呼びかける余裕も見せる。キャンディスはそれから数日後、アルバムでも共演したノーラ・ジョーンズとオンライン・コラボを果たす。画面に顔とピアノがバランスよく写り込むように自らスマホの角度を調整するノーラ。ふたりがチャットを交えながら弾き語りで<エンジェル・アイズ>を10分以上にわたってチェイス。ノーラが「ちょっとタイム・ラグがあってずれたけど」と心配げに感想をもらしたが、ファンにとっては彼らをとても身近に感じたひと時であったに違いない。プロモーションの一環であったなら大成功だ。

https://www.facebook.com/kandacesprings/

小曽根のライヴ・ストリーミングにかぶって入って来たのが土田晴信(Hal Tsuchida)のオルガン・トリオだ。都内のライヴハウスを借り切ってのいわゆる「無観客ライヴ」。シカゴに11年間滞在、現地で本場のブルース・フィーリングをたっぷり身に沁みつけてきただけあり、そのグルーヴィーでよくスイングするオルガンに身体が揺れ、グラスのピッチも上がる。この日は、ギターとドラムスとのトリオだった。臨場感溢れる演奏を2セットたっぷり聴かせてもらい気持ちは投げ銭で。
https://www.facebook.com/hal.tsuchida/videos/10221382946699019/


NYのMSM(Manhattan School of Music)からメールが届いた。40人以上のMSMの学生がベートーヴェンの「エロイカ」(交響曲第3番「英雄」)の抜粋を演奏しています。Ken Yanagisawaの指揮の下、40人以上の学生が世界各地で自分のパートを録音、Toby WinartoがMSMの 演奏運営チームの協力を得て、編集作業を行い制作しました、と説明がある。つまり、各国に帰郷しているMSMの40人以上の学生がKen Yanagisawaの指揮に合わせて各々のパートを録音録画したデータを集め、Toby Winartoが中心となってMSMの演奏運営チームが交響曲にまとめ上げたということだ。ピッチやバランスの調整など大変な作業だったろうと想像に難くない。結果はご覧の通り充分楽しめるものとなった。

この動画をFacebookに上げたところ、FB仲間のフルーティスト中山早苗さんから2本のオンライン・コンサートの動画が紹介された。1本はラベルの<ボレロ>で、この曲はだんだん演奏パートが増えていく流れが視覚的には面白いが、テンポがだんだんアッチェランドしていくところにかなりのテクニックが要求されるのではないか、というのが興味のポイント。フランス国立管弦楽団の腕っこきが挑戦する。

もう1本は、中山さんが所属するジャパン・ジャズ・フルート・ビッグバンドが演奏するキャノンボール・アダレイの演奏で大ヒットしたジョー・ザヴィヌスの<マーシー・マーシー・マーシ=>。制作の苦労話は中山さん自身が別稿を寄せてくれているが、彼女がいうところの「オンライン・コンサート」の制作には、やはりひとり強力なキーマンが必要なようだ。この曲を選んだ理由として、人が不慮の苦難に見舞われた時に唱える言葉としてキャノンボール・アダレイがジョー・ザヴィヌルから伝えられたフレーズ、マーシー、マーシー、マーシー、慈悲、情け、不快なことを取り除くありがたい事、幸せな事、等)をメッセージしている。

2人以上のシンクロは技術的に難しいと言われているなか、4人で「リモート・コンサート」に挑戦したイベントがあった。批評家の細田成嗣が企画した在宅コンサートで、テーマは「集団即興における視聴覚の分断と再統合」で1部は“視覚の接続/聴覚の切断”、2部は“聴覚の接続/視覚の切断”、3部は“視聴覚の再統合”である。4人の演奏家、voice、tuba、baritonesax、percussionがそれぞれ在宅のまま1部では視覚だけを頼りに、2部では聴覚だけを頼りに3部で初めて視聴覚を駆使して集団即興を試みるというリモート・コンサートならではの刺激的な試みであった。これは定速ビートを伴わないオープン・リズムによる即興演奏だからこそ成し得るパフォーマンスだったが、微妙なズレから生じる“ゆらぎ”のような現象がむしろ心地良かった。企画の意図については別掲のメディア・アートに言及した細田成嗣のテキストを参照願いたい。

隔離されたふたりの演奏者の間で遅延が発生するのは、DA/AD変換と伝送速度が原因だが、日経MACの林伸夫元編集長に説明願った;

遅延が出る原因としてA-D変換し、先方にネットワークで伝え、先方でD-A変換してそれを聴いて演奏し、またA-D変換してネット経由で最初の人に戻してD-A変換して合わせるわけですが、そのDA、AD変換の部分で遅れるのが最も大きいのです。インターネットも幹線は光で伝送されます。ですから、物理的に遅延が発生する。光速は1秒間に地球7回半回りますので日米間で0.015秒くらい。なので、この変換部分と通信部分を高速化すれば気にならないくらいの演奏ができないわけではありません。この演奏をパソコンにマイクをつないだような機器でやっていると遅延が激しい。先日、ガガが呼びかけてチャリティコンサートがありましたが、その中でローリングストーンズがバーチャルライブをやって、ボロボロになってましたが、どうしてもそうなる。機材には凄い金をかけたと思うんですけどね。

近々、YAMAHAが新発売するというSYNCROOMというアプリは演算部分の遅れを0.01秒から0.02秒くらいまで縮めることに成功したのだそうです。これを使ってライブオンラインセッションをしたらかなりいい線行きそうです。ただし、パソコン内蔵のマイクではなくスタインバーグ( Steinberg) USB3.0 オーディオインターフェイスやTASCAMの同趣製品などを使って音を取り込む必要があります。もちろん接続のネットワークは無線LANなんかじゃ遅延が大きくなってダメです。
https://syncroom.yamaha.com/

最後に、4日間にわたった独メルス・フェスティバルの「無観客演奏」については横井一江副編集長の論考とフェスに出演した二人の日本人演奏家、ヴィブラフォン奏者の斎藤易子さんとドラマーの大島祐子さんの緊急インタヴューを参照願いたい。

稲岡邦彌

稲岡邦彌

稲岡邦弥 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。Jazz Tokyo編集長。 https://www.facebook.com/kenny.inaoka?fref=ts

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