#1333 喜多直毅クァルテット Naoki Kita Quartette
時に刃(やいば)のような協奏を各々のソロが受け止める刹那に覗く、流れ落ちるパッション、それを単音に収斂させるタフネス―目の当たりにする度に、クァルテットを構成する個人と総体、その互角の強度を再認識する。
続きを読むJazz and Far Beyond
時に刃(やいば)のような協奏を各々のソロが受け止める刹那に覗く、流れ落ちるパッション、それを単音に収斂させるタフネス―目の当たりにする度に、クァルテットを構成する個人と総体、その互角の強度を再認識する。
続きを読む舘野泉を触媒として更新される音風景は、拡張を止めない。
続きを読む「ジャズ事始」イコール「ジャズのアルバムを買い始めた時期」との認識で記憶をたぐれば、高校2年生、17歳のころに遡る。
続きを読む「舞台というカンヴァスを描き切る身体の自在さ」は、この日の出演者すべての共通項。聴き手は視覚と聴覚をフルに動員しながら、演者たちが差し出す内的世界へとり込まれていくことになる。
続きを読むこれほど心の景色とその色彩を濃厚に留めた音を、私は知らない。
続きを読む肉体に有り余るグルーヴ感を音符の極限にまで宿らせるふたりの演奏は、「形式」があるクラシック音楽であるが故により一層の強度で、音楽することに対する分け隔てのないスタンスや、その普遍的な楽しさを伝えてくれる。
続きを読むレジェンドといわれる存在でありながら、その物腰はどこまでもやわらかく自然体。これからの時代における「いい音楽」とは?その探求は止むことを知らない。
続きを読むアルバム・タイトルが示唆するとおり、コミュニケーションの極意は「分かりあえなさ」であることを知り抜いている。それ故の同時発話的な自由。演劇的・室内楽的な構築性を保ちつつ、フォーキーかつフリー、等しく個々の断片も光る。/ As the album title indicates, they know the fact that the essence of communication is its impossibilities for mutual understanding, then, followed by “all-at-once-ness” in the chatty but not-crowded mood. While keeping theatrical, chamber music-like constructability, the composition of Tristan Honsinger makes junctures for folky and free approaches, equally emphasize the tension of individual fragment.
続きを読む緊迫と磊落(らいらく)のあいだを大きく振り切る羅針盤のような3時間。
続きを読むふだん押さえつけているエモーションが、際から際まで刺激される。曲が進むにつれて床へ落とされるスコア同様、様々な澱(おり)が剥がれおち、気がつけば鎧なき寄る辺なさ。容赦ないひりつき具合が、現実を串刺しにする。
続きを読むヨン・バルケのピアノが織りなすサウンドは、大音量によるエネルギーの放出とは真逆の衝撃。音間の静けさが孕む不穏、メタリックな冷たい表層の奥にたくし込まれる熱に、聴き手の意識は掬われる。温度差の瞬時の反転のダイナミズム。
続きを読むコンテンポラリーという名の目新しさ云々よりもまず先に、卓越したメロディストとしての抒情性、音楽創りのセンスそのものである当意即妙な身体能力、といったコア部分が充実の漲り(みなぎり)で抜かりなし/They go beyond the notions of novelty associated with descriptions like “contemporary”, delivering a rich core of melodic lyricism tied together with excellent musical taste and playing full of wit.
続きを読む各々の音楽に対する「ブレのなさ」は、即興とはいえ胸のすくようなパノラマと壮麗な構築性を「結果として」もたらしている。
続きを読む表現者が表現手段を超えるーあらゆる”Beyond”の境地を体現していた。
続きを読む伎倆やら経験やら天分の音楽性やらをすべてを含み込む「音色」において、坂田明と伊藤志宏ほど極めた存在は稀有なのだ。だからこそ、その邂逅を目撃したくてたまらなくなる。
続きを読む思えば蛇腹の抑制が生むリズミカルな律動など、三者三様の鼓動や息遣いがひとつの大きな有機体のように連なるユニットだ。余白が豊穣である。その包容力は、忘れがたい衝撃という類いのものではなく、身体に沁み込んだ記憶がさざ波のように寄せる瞬間を捉えた、静かな覚醒と充足。
続きを読むそこにはシューベルトの音楽がもつ稚気が降臨している。あるのはただ、人間による後付けの解釈などものともしない「永遠の実在」へのリスペクトだ。
続きを読むこぼれでる多様な音の変遷に動揺しつつ、次第に音の遠近が攪拌されてくる。それらの音がスコアへと収斂されていくさまが幻視され、逆方向のベクトルに絡めとられてゆくのだ。磁場としてのコンポジション。制御不能なものが還りゆく場所。その見果てぬうねり。
続きを読むかたり読むこと。メロディを編み奏でること。双方ともシンプルな営みではあるが、捻りもない代わりに天井もない世界。それらは誰に向けて放たれたものなのか―その一点を照射しつつ、表現というもののラディカルな本質を突く。
続きを読む絶え間ない転調によるテーマの持続は、いつしか奏者たちの耐久戦のような様相を帯び、あらゆる構えが取り払われて剥き出しの個性を露わにしてゆく。脱皮に立ち会うかのような清々しさ。これぞ「シュベルティアーデ」が目指す究極なのではないか。
続きを読む各々の実験的な経験値は、遠くから忍び寄るメロディにそこはかとなく宿る。「聴かせる」のではなく「聞こえてくる」のだ。
続きを読む田崎が漕ぎ出す音楽のヴォヤージュは、内省と祈りの度合の深化とともに、そのスケール感を一気に増す。瞠目するようなパノラマだ。鍛錬された所作のように美しい腕の払いから、蠱惑的な音色が解き放たれる。
続きを読む住谷ならではの安定した「呼吸」がいきわたりプログラム全体に一本筋の通った軸を感じさせる。その呼吸はまた、住谷というアーティストの強靭な意志の湧出であり、この日の物語性の根底をなす。
続きを読む長いキャリアによって崇高なまでに高められているのは、解釈という名の我欲とは真逆の、ひたすらピュアに音楽と向き合う無私の徹底である。だから彼の音楽はミクロからマクロに至るまで自由で、エッジィで、強い。その新鮮さは不滅である。
続きを読む逡巡する指先は、ちょっとした沈黙や寡音であったりするほどに、その陰の濃さを伝える。スコアを問診し、内側から探ってゆくようなアプローチ。目の前でピアノを弾いているのが他ならぬ作曲家自身である、という手応え。
続きを読む傘寿で来日を果たしたアンリ・バルダをトリに(第3番)、酒井有彩(パガニーニの主題による狂詩曲)、岡田将(第2番)と、新進気鋭と日本が誇る実力派の二人を配した。一台のスタインウェイがここまで異なる響きを見せるのかと感嘆せずにはおれない、三者三様のピアニズムを堪能。
続きを読むこの1973年の近藤-土取デュオにまず感じられるのは、「ふたつの個体の全き独立」だ。音量の如何に関わらず、互いを決して邪魔しない。もたれ合わずに、互いが互いを内包してゆく。激しいクラッシュにも、理屈っぽい淀みがない。体感がすべてである。美しい。
続きを読むヨーロッパでは文学の朗読が盛んにおこなわれるが、言葉と音との境界、その現在進行形の侵食関係がよく顕われている。どう表現するかではなく、表現したいことは何なのか。その核がブレないからこその、表現形態の無限の拡がりである。/ There is a long-time tradition of recitation in Europe. This album is an embodiment of boundless relationship between words and music, its ongoing mutual erosive state at the front. What matters is not “how to express”, but “what is expressed”; any variant of forms presupposes the existence of its core.
続きを読む音楽はしばしば特定の記憶を結びついて懐かしさを増すが、生きえなかった過去を想像力し喚起することによってもまた、今を揺さぶり未来を幻視する力をもつ。
続きを読むしかし、カッコいい古稀がいるものである。近藤等則の功績のひとつを考えたとき、ジャズメンの姿から暗さや小難しいイメージを開放し、理屈抜きに「カッコいい」と一般に知らしめたことも外せない。そのプレゼンスそのものがひとつのアイコンであり、宇宙であった。
続きを読む深層から絞り出されるメロディの儚(はかな)さはリアリティへの絶望を映す鏡だ。なぜ沈黙や郷愁の残滓に心震えるのか。それを意識して改めて気づく薄ら寒い現況がある。
続きを読む「ライヴができないなら動画配信」が主流になってきた昨今、日本の一都市・川崎の片隅で、極めてアナログな流通形態にこだわりながら日々発信し続けた近藤等則のミュージシャン魂と矜持、その無窮(むきゅう)の音世界は、かけがえのないギフトとして今こそ深く心に刻まれるべきだ
続きを読む絶えざるグルーヴが身体を揺さぶり続けるが一向に疲れない。むしろ響きの渦へと没入してゆく覚醒感が静謐さを生むほど。/ Incessant groove keeps swaying our body, but it never makes us fatigued. Rather, a sense of awakening toward the core of the sonic vortex invokes stillness.
続きを読む広大な岡田の世界が「すでにそこにあり」、そこから自然に音を引き出しているかのような自在さがある。詩情と体力をなみなみと湛えたこうした俯瞰力は得難い。将来、枯淡の境地に至った岡田将の「嘆きの歌」(第三楽章)を是非とも聴いてみたいと思う。
続きを読む毒・華・土性骨—これらを兼ね備えるステージ人は稀有である。
アーティストにとって最も大切なのは唯一無二の個性だが、近藤の音には一聴すればたちどころに誰だかわかる強烈なビートと香気がある。巧い/下手で語る次元が霞(かす)む毒性。その衝撃は、視覚よりもはるかに速い。
肯定の音楽、そこへ至るまでの危機感 (クライシス=境界)の数々が回想され、収斂されてゆく整合性。喜多クァルテットのステージは毎回、まさにドラマである。
続きを読むあたたかな包容力に満ちながら、甘さを回避する研ぎ澄まされた感性の総和。一時的にせよローカリズムへ逆行することが不可避な現況のなか、まぎれもなくグローバリズムの果てにある「都市の音楽」なのである。/ Their music is full of generosity and the sum of finely honed sensibility without falling into any excessive sentimentality. In today’s world circumstance, in which returning to localism is becoming unavoidable tendency even if temporary, their music embodies glaringly “urban music” which is in the shadow of globalism.
続きを読む音量と音質がイーヴン。生楽器の身体性が成功裡に飛躍する。
続きを読む抒情的な言葉を後付けで述べるのは簡単だが、それを拒む。柔和だがなかなか強靭な自律性。
続きを読む警鐘となりえる芸術は、今どれほどあるのだろう。相も変わらず、商業主義の上に乗った現状を照らしただけの、描写的なものが幅を利かせているのではないか。近藤等則の音楽は、いつも根治的で潔い。直に病巣に斬り込む。何が急務なのかは、今の地球の悲鳴を聴けば明らかだろう。
続きを読むテクノロジーのうえに成り立つ音楽であるのに、到達している境地は柔和で清澄。すっと心に浸透する音色が何より魅力的だ。そこには、さまざまな相剋を超越した後に訪れる虚無や、どこか東洋的な音韻もたゆたう。
続きを読む押しつけがましさのない、エゴの斜め上をいく流動性。シューベルトという人間から溢れて止まぬ歌心も、意志を超えた衝動だったはずだ。詩(うた)は、気づいたらそこに「在る」もの。そんな思いがふとよぎる。
続きを読むこの4人でなければ成立しない物語世界だ。表現とは代替の効かぬものなのだ、という峻厳だが疎かにされがちな事実—それが刃のように突きささってくる。
続きを読む表現の可能性に果敢に挑みつづけながらも、単なるインパクトに終始せず、必ずやその先にある薫り高い音楽性にまで到達する二人の音楽の気概—その実像を堪能できる一枚
続きを読むスコアの収集から浄書、演奏することによって楽曲を更新してゆくという、時を繋ぐ、時間の芸術としての音楽の在りようを改めて現時に問うた
続きを読む天啓のキャッチ&リリース、その匙加減の僅差に露わになるものこそ表現者の真骨頂/ The catch and release of inspiration, the very things that are revealed in the narrow margins of that balancing act, show what the artist is truly made of.
続きを読む固執し続けられた形式は、ついには形骸と化す。残るのは、とてつもない濃度を内包する、縹緲(ひょうびょう)とした境地である。
続きを読む大砲ではなく小銃で穿つように寄せてくる覚醒。三者のあいだに静かに脈打つリスペクト。中核にあるのは、リーダーであるデンソンの、大木がしなうような野太いフィーリングだ。/ An awakening draws near, piercing through like a rifle rather than a cannon. A heartbeat of respect quietly pulses between the three. At the core is leader Denson’s deep feeling, like the swaying of a great tree.
続きを読む繊細さがスケールの大きさを拒まないのが三枝節の真骨頂。瑞々しさと完成度の高さで、花果同時の高貴さもまとう。
続きを読む垣根のない音楽。「聴く」という構えをほどく音楽—そのような音を前に、音楽のカテゴリーは不問だろう。
続きを読む多層をなす奇抜な構造に度肝を抜かれると同時に、流れ落ちるピュアなパッションに心洗われる—こうした相克的体験はそのまま生の矛盾そのものだ。
続きを読む時空やジャンルを自由に横断する波多野のレパートリー構成は、言葉と音との思いがけない出会いの美しさを、いつも「私たちの感覚」として現在に鮮やかに提示してくれる。
続きを読むひとつの大きな世界観を共有することを志向しているが、特殊奏法を駆使して互いのサウンドの近似値を図るものでもなければ、「うた」のアルバムでもない。絵画に色彩ありきのように、言葉に意味ありき、音楽に音色ありき—その原点に忠実だ。
続きを読む宗教的な特性と安易に結びつけるべきではないが、その厳しさや直線的で刃のような立ち昇り、切り返しの激しさに、仏教的なループの緩やかさはない。
続きを読む日本では2017年以来となるクリスチャン・ヤルヴィ『サウンド・エクスペリエンス』。今回は『すみだ平和記念祭』企画にも組み込まれた、15年ぶりに来日するマックス・リヒター・プロジェクトの一部も兼ねることとなり、さらにスケール感を増した。
続きを読む人間そのものに肉迫できているか。特定の物語をベースとしながらも、この根源的な問いは独立している。現在のような時代になっても、フリー・フォームが決してなくならない所以でもある。
続きを読む今後どのような貫禄がその音楽に加味されて来るのだろうか。10年後、20年後が楽しみである。
続きを読む国内屈指といえる4人のアーティストのもつ高度かつ個性的な技倆(ぎりょう)が見事に開花。
続きを読む過激さの呪縛を超越した、芳醇と円熟による凄みの境地。
続きを読む「即興とはなにか」という問いへの返答が等しいウェイトで偏在する、11編の対話の記録。
続きを読むプログラムの進行とともに時代が現代に近づくが、それに比例して音色が目に見えて変化する。終盤のプロコフィエフをターゲットに、じりじりとフォーカスが絞られていくようだ。
続きを読む自然発生的ながら、張り詰めたテンションはいかなる時も健在。自らを知り抜いていることが他者への自然な配慮となって現れる。/Their interplay is spontaneous, but never loose intensity of tension at any time. The fact that they thoroughly know their own music is emerged as tolerance to others.
続きを読む指先と鍵盤との距離は最短であり、音が生成されるまでの速度は最速だ。ネイガウス門下、ロシア・ピアニズムの黄金時代を今に継承するヴィルサラーゼの奏法は合理性に貫かれている。どっしりと体幹を構え、身体の動きは最小である。
続きを読むたしかに、新しい解釈に照準をあわせ、作品の時代性が目まぐるしく引き上げられたり引き下げられたりする彼のスタイルは、賛否両論を生むかもしれない。「正統派」の基準をどこに合わせるか。
続きを読む熟してなお意気と品格、洒脱さを増す、大人のロマンティシズムを堪能した。
続きを読む元来、ムローヴァの血であり肉である強靭なロマンティシズムは過剰な表出を要しない。ストレートなボウイングが、そのままシンプルで美しい軌跡を描く。
続きを読む清濁併せ呑む風格、血の通った威厳。昨今失われた、或いは生き様の根源に関わりながらも捉えられないものだからこそ追わずにはおれない。音によって畳みかけられた60分の余韻には、若干痛みも伴う。痕跡を超えた、音楽の爪痕である。
続きを読むものごとの本質に最短で肉迫する手段の多様さ、その蓄積と人生における醸成。芸術家の格ここに極まれり—フレイレの存在はそれを如実に物語る/ The diverse techniques closing in on the very essence in the shortest time; their accumulation and gradual development in his life. The extreme status of an artist is revealed here – nothing truly shows it more than the presence of Freire.
続きを読む境界音楽の騎手として、このクァルテットはどこまで疾走し続けるのだろうか。今後も目が離せない/As cutting-edge of transborder music, just how far will this quartette keep ranging? We cannot take our eyes off them.
続きを読むメロディのもつ含蓄、演奏者の表現力、時の移ろい、雨や夢などの言葉が放つイメージの連鎖が結ぶ像には、粋とメランコリーがバランスよく結集している/The connotation of the melodies, the musicians’ expressiveness, passage of time, and a chain of images unleashed by such words as rain and dream; in a picture connected by all these elements, stylishness and melancholy are brought together in good balance.
続きを読む曲へと結実するまでの作曲家の人生の化身ともいえる演奏。全方位的に己を賭さずして到達できない、うち震えるような濃艶さと鋭さがある。聴き手が皮膚感覚で打ちのめされるのはそのためだ/ Her performance can be described as the embodiment of the composer’s life until the fruition of this musical work; it has a trembling-like sensuality and sharpness, which cannot be attained without the artist risking herself in every direction. That is why the listener is overwhelmed by the auditory sensations playing on their skin.
続きを読む民話的な哀感は同時に未来的。微視と巨視の並走。覚醒と熱っぽさの混在—「風ぐるま」は、統合された知覚による経験の最先端を飄々と廻り続ける。
続きを読むことばを声に出すこと—詩が「うた」となる尊さを、最大限に掘り下げたアルバム。ときに囁くように、ときに演劇的な台詞回しで、ときに音塊と化したスキャットで、シラブルが、単語が、フレーズが、きらきらと輝いて飛躍する。/ Speaking words out loud and then turning poetry into song; this album delves deeply into such precious moments. Sometimes whispering, sometimes with dramatic elocution, or sometimes in scatful bright clusters of sound. Syllables, words, and phrases dazzle and leap.
続きを読むうたかたの酔い、澄みゆく空気の推移から氷塊のクラッシュまで、組んず解れつ切り替わるシーンの連結。個々の演奏家のエッジィな部分が共振しては勃興する音の気配、香気。彼らの音楽は全員の総和でなく相乗で成り立っている。/From the intoxication of effervescent bubbles, the quiet shift of crisp air, to the crash of a heavy block of ice, we experience the dramatic interconnection of changing scenes locked in a fierce and powerful struggle. Each musician’s edgy parts resonate and rise to power, hinting at the signs and fragrances within the sound. Their music is a synergy, rather than the simple sum total of all members.
続きを読むピアノはもっともポピュラーな楽器だけに、「弾ける」の価値観にも様々あろうが、伊藤志宏のピアノは文句なしに最高の道標のひとつ。
続きを読むボーダーレス時代にあって、この人の演奏には「海の向こう」にまだ未知の何かがあるような期待を抱かせてくれる。十八番はショパンだが、今年はストイックなプログラムでそのピアニズムの神髄をより際立たせた。
続きを読む圧倒的な演奏力と物語構成力で、期待を裏切らない進化をみせるクアルテット。無音の部分にこそひた寄せる鬼気がある。人間の業や人生の割り切れなさが照射され、鮮烈なイメージ喚起力とともに変転していく。
続きを読む叶わぬ過去、光明への助走期のような現在、未知の世界へのイマジナティヴな眼差しなど—こころの春秋がページを繰る毎に木漏れ日のようにたち現れるソング・ブック。/ This album is a songbook that the spring and autumn of one’s heart — unfulfilled past, run up period towards a bright future, imaginative look at an as-yet-unknown world— appear like sunlight filtering through the trees as the pages are turned by.
続きを読むクラシック音楽における最先端は、今後どのようにそのエッジを研ぎ澄ませてゆくのだろうか。興味は尽きない。
続きを読む名伯楽としてのキャリアが示すとおり、その演奏は決して奇抜な個性を押し出すものではない。楽曲の構成を噛み砕き、熟成させ、演奏の起伏を決して感情任せにしない。ポイントとなる音やフレーズを起点に変化を持たせ、裏づけ充分に作品を内側から組み直してはドラマを捻出する。演奏は自ずと説得力に満ちたものとなる。
続きを読む新たなジャンルを切り開く先鋒に立ち続けることの厳かな美しさを、入魂の一音一音が雄弁に物語る。/ The intimate, soulful sounds relate with great eloquence the majestic beauty of one who remains standing at the vanguard as a pioneer of new genres.
続きを読むバルダが黙々と醸成してきた揺るがぬプリンシプルが結実、むせ返るような濃厚な世界に呑み込まれた。/ The unwavering principle that Henri Barda has tacitly cultivated bears fruit, the audience engulfed by his choking, dense world.
続きを読む伊藤志宏のピアノは美しい。音が違う。ジャズだのクラシックだのといったジャンルの分化以前に、「ピアノ弾き」たる者なら誰もが憧れずにはおれないが、到達できる者はごくわずかの天賦の領域。/ Shikou Ito’s piano is beautiful, the sound is simply different, and his lightning fast direct connection of brain and fingertips creates a dewdrop-like transparency. Before differentiating into the jazz or classical music genre, anyone who considers themselves a “pianist” has no choice but to admire this kind of playing, and acknowledge that only those belonging to a narrow realm of natural talent can attain such heights.
続きを読むピアニシモになればなるほど美しく、威力は増す。どんな微細なニュアンスも聴き逃すまい、と観客の耳は吸い寄せられる。/ The more pianissimo, the stronger the power. The audiences’ ears were irresistibly drawn toward so as not to miss any single nuance, however subtle.
続きを読む1998年のロン・ティボーコンクールの覇者であり今や世界的に活躍するセドリック・ティベルギアンの音楽は、おそらくピアノという楽器のダイナミクスの限界からも、クラシックという解釈芸術の制約からも、その威力と表現の自由度の高さにおいて最先端をいく。/ The music of Cédric Tiberghien is probably at the leading edge of today’s classical music scene, and in spite of the limited dynamics of the piano and the restrictions on interpreting classical music, this is especially evident when considering his power and high degree of freedom in musical expression.
続きを読む欧州シーンを代表するピアニストのひとり、サイモン・ナバトフが単身来日。坂田明(sax)、瀬尾高志(bass)、ダレン・ムーア(drums)とツアーを行う。
続きを読むインプロも含めすべてのパーツが「あるべき音」としてぴたりと収まる完成度の高さと、あらゆる楽器を受け入れてしまいそうな懐の深さが同居、ライヴでのハプニングが楽しい所以だ。/ Including rich improvised parts, a high level of completeness in which all the fragments precisely fit as true sounds is combined with a deep acceptance of every instrument; this is why their spontaneous live show is such fun.
続きを読む黛敏郎が16歳から36歳までに作曲したピアノ曲の世界初録音。1945年から1965年という戦後20年間の日本を背景に、かくも芳醇な音楽が湧き出ていたことに驚く。/ This album is the world’s first recording of piano pieces composed by Toshiro Mayuzumi. All the pieces were written over 20 years from the age of 16 to 36, and it is surprising that against this background starting from 1945 post-World War II Japan, such well-mellowed music was bubbling forth.
続きを読む土着の音楽の憚らぬ喜怒哀楽と、同時に追求される「表現すること」の究極形—その軌道が高次元で交わるトータル・ミュージックの一つの到達点。刹那の振動をも決して逃さぬレコーディングの技倆はもとより、制作サイドの澄み切った感性も結実している。/ We find the unhindered human emotions of indigenous music and the ultimate form of the necessity “to express” concurrently sought; this work is a height of total music in which these orbits intersect in higher dimension. The recording techniques, which never miss a single nuanced moment, and the perfectly clear sensitivity of the production-side completes the successful fruition of this album.
続きを読むアルバム全体が人生行路を現しているように起伏に富み、互いのシーンが有機的に連なってゆく。そういう意味での『Concentric Circles』であり、曲ごとにダウンロードする聴き方がそぐわぬアルバムだろう。ベース・ソロによる終曲は、生の手触りへの賛歌であり、生活感情が失われた現代においてことさらに哀愁を帯びて心に残る。/The whole album is full of ups and downs as if representing life’s journey, and mutual scenes are organically strung out. In this sense, it is truly a matter of “Concentric Circles” and it is an album that downloading individual pieces and listening will not suit. The final piece played with a bass solo is a paean to the touch of life, and tinged with the sadness found especially in modern times where the joys and sorrows of everyday life have been lost; it lingers on unforgettable in the listener’s heart.
続きを読む巷の民族音楽ブームを尻目に、エキゾチズムを超えた遥か彼岸から喜多の「これまで」が想起される—-そんな感慨すら滲んだ一夜。独創性の錬磨と熟成、それに勝る衝撃はないことを突きつけた。/ With scarcely a sidelong glance at the ethnic music boom on the street, Kita’s trajectories were recalled as if from a distant shore surpassing exoticism, and in this one evening such deep emotions revealed themselves. Outstanding performance, the fruit of original practice and maturity, was thrust into the heart of an appreciative audience, and the impact could not possibly be bettered.
続きを読むピアノという近代の怪物から導き出されるのは、羽の翻りにも似た天上の境地。力で押さずに、柔らかな音色の魅力一点でドラマを創りあげる。大曲からアンコールの小品に到るまで、漲る充実度に偏りなし。至芸である。/A celestial state akin to a floating feather was released from the piano, the monstrous instrument of modern times. Without forcefully pushing, he created a drama solely with fascinating soft tone colors. All pieces from the great works through to the short encore were wonderfully complete with no lack of balance. It was an unrivaled performance.
続きを読むコンセプトの目新しさ云々を問う以前に、真のヴィルチュオズィティとは何かをこれほど端的に体現するアーティストは稀である。/ Before discussing the novelty of a concept and so on, we need to define what is a genuine virtuoso performance, and appreciate that a musical wizard, such as Nabatov, who clearly embodies mastery of his arts is rare indeed.
続きを読むさすがはカルロシュ・ズィンガロを筆頭としたポルトガルが誇る百戦錬磨の面々、西洋の括りを超えるフォーキーな旋律、幾重にも折り重なるミニマルなフレーズや同音連打からは抽象のマグマが押し寄せる。/As heard in the folksy melodies beyond categories defined in the West, and the several minimal phrases layered one on top of another along with repeated notes, abstract magma is surging forward.
続きを読む高い演奏力を要するスコアがもたらすストイシズム、それに練達し破ることでのみ拓けてくる突き抜けた自由、静謐なパノラマ。脱領域的な音楽だが、ふとした瞬間にふわりと舞うペーソスは、まさに日本人のDNAが呼応せずにはおれない原風景。超現実的でありながら強烈に懐かしい。/ Scores requiring high-level performance resulting in stoicism; only mastery and breaking through them can lead to absolute freedom; and a tranquil panorama. This is extra-territorial music, but the pathos gently fluttering in unexpected moments is certainly an archetypal image that the DNA of the Japanese cannot help but respond to. It may be hyper-realistic, but it is at the same time intensely nostalgic.
続きを読む成熟が内包するスリルと、決して飼い慣らされぬ気高さ。移ろう一瞬が遺す残像の数々に絡めとられつつ、「うた」が志向する極北のエレガンスが味わえる。It is purely the thrill contained in maturity and an untamed noble dignity. Captured by the numerous residual images left by each fleeting moment, the listener can only enjoy the ultimate elegance that the “songs” and performers aspire to achieve.
続きを読むリスボンとバルセロナを股にかけるクァルテット。果てしなく続いていきそうな壮大なフリー・インプロヴィゼーションは、沈黙から爆音まで最大限の振れ幅でありながらも、緩みを一瞬たりともみせぬ頑健な構築力で無敵の存在感/Spanning the jazz scenes of Lisbon and Barcelona, this full-on quartet and their spectacular improvisations ranging from deep silence to roaring mayhem give the impression of a never ending river.
続きを読むこの「Joy of Chamber Music Series」は、田崎悦子がアメリカ留学時代に経験したタングルウッド音楽祭がベースとなっている。ルドルフ・ゼルキンやアイザック・スターンといった巨匠が若き音楽家と別け隔てなく生活を共にし、アンサンブルを楽しむ、音楽漬けの日々—。これが後の芸術家人生に及ぼす影響は測りしれない。
続きを読むトータルで60分に及ぶ3トラックのインプロヴィゼーションだが、長さを感じない。精神と技巧、経験と天啓との幸福な結託の記録。デビュー盤とは思えぬ肝のすわった貫禄である。演奏家とエンジニアのふたつの視点をもつ近藤秀秋のサウンド・ディレクションも秀逸。空気を切り裂き、跳躍し、収斂していく夥しい音の生が鮮やかに浮かび上がる。
続きを読むひとえに言語や文化的な縛りを超えたところを、音符やリズムの型のその先にあるものを志向する、フィーリングへの徹底した求心性。プレイにおける即興的な醍醐味は少なくなるが、静謐さや削ぎ落とした美には共感する人は多いだろう。サウンドがシェイプされる毎に、モノをいうのはメロディそのものの強度である。
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